【8月10日配信】夜鳴きこけし

「どうも!曰く付き収集クラブへようこそ!

 みなさん、いつも動画にコメントありがとうございます!まずは前回の動画とコメント返しから!

『麦茶じゃダメだろ』ってツッコミ多かったですね!

『抹茶飲めないとか子供か?』うはは!うっさいわ!

 実は撮影の後、抹茶オレ入れてみたんですけどやっぱりダメでした。

 抹茶オレはスタッフ──っていうか相方が飲みました。今のところ熱出したりはしてないんで安心してください。今のところは、ね。『抹茶オレも飲めないのか』とか言わないでね。泣いちゃうから(笑)

 それはそうと視聴者様の中に茶人の方いませんか?赤い花柄が綺麗な渡来の名品、譲りますよ!

 ──さて、前置きはこれぐらいにして今回紹介する曰く付きグッズは、と…」

 井出は小道具を取り出すと、カメラに向けてドヤ顔をした。

「じゃじゃん!『夜鳴きこけし』だ!これもけっこうやばい代物らしいぞ!」

 こけしは40センチほどで、木の表面は色褪せ、胴体には控えめな花模様。顔は無表情で、じっとこちらを見つめる。

「東北に旅行行った時に寄った古道具屋で100円で手に入れたんだ。掘り出し物でしょ?」

 井出は笑いながら首をかしげる。

「でもこのこけし、店主が言うには夜になると動くらしいんだよね。窓辺の棚の上に置いていたのに、翌朝には違う場所に置かれていたって。しかも、こけしを店に持ち込んだ家族は、こけしを飾った翌日から家の中で小さな声と小さな足音が聞こえるようになるわ、誰もいないのに笑い声だけが廊下を歩き回るわ、怖くなって処分しようとしたら体を揺らして抵抗するわで大変だったらしい…」

 井出はこけしを手に取り、カメラに近づける。

「見てよ、この無表情の顔…じーっと見てると、目が合う感じがするし、なんか言いたいことがありそうな気もしてくる。けれど夜になっても特に動いたりしないし、笑い声も聞こえてこない。なんなら部屋に置いてたら愛着が湧いてきちゃってさ、夜鳴きのヨナちゃんなんて名前つけちゃったよ。かわいいっしょ?最近なんて暇で仕方ない時は俺の方から話しかけちゃったりしてるよ」

 こけしを膝に乗せて子供をあやすように揺らしながら話を続ける井出を「よくもまぁそんなカビ臭いガラクタを触れるもんだな」と、田口は考えながらカメラを止めた。

 

「東北の古道具屋ってなんだよ。近所の古雑貨屋で買ったやつだろ。」

「いやあ、実際に東北の古道具屋にも行ったじゃん?買ったのは別の物だけど」

「飯屋に行く通り道でたまたま見つけただけだろ」

「まあまあ、別にいいじゃん!せっかくだし混ぜた方が箔がついて面白いって!それにしてもあの時のウニ、美味かったなぁ…」

「あれは確かに美味かったな。」

 そうこう話しているうちに手際良く撮影器具を片付け終える田口。井出は自分が大雑把なのを自覚している為、片付けを田口に任せて宅飲みの準備をしている。

「待て待て、酒はせめて動画の編集作業に目処がついてからって決めてるだろ」

「なんだよケチだなぁ。じゃあ晩飯とかツマミ作ってくるから編集頼むわ!今日も期待してるぜ!」

 そう言って井出はキッチンの方に歩いて行った。彼は意外と料理を作るのが上手い。田口が編集を引き受けているのも半分はその夕食目当てだった。

 パソコンを立ち上げた田口の前に、湯呑みが置かれる。

「ほれ、一息ついてから作業しな!」

「おう、ありがとう…って、これ血吸い茶碗じゃねえか!」

「麦茶だからセーフ!」

「そういうことじゃないだろ」


 ──編集作業も無事終わり、井出特製パスタを食べながらいつも通り打ち合わせを始めたところでチャイムが鳴った。

「そうだ、フリマアプリで買った物が今日届くんだった。」

 そう言って井出は玄関に向かい、段ボールを持って戻ってきた。

「なんだその箱。何買ったんだ?」

「懐かしのゲームソフト詰め合わせ!息子さんが家を出て、その片付けしてたら出てきた物らしい。ソフト全部に名前が書いてあるから中古ショップで大した値段がつかなかったんだろうな。これが次の動画のネタ!」

「ゲームレビューでもするのか?」

 井出は別の紙袋から箱に入っているのと同機種のソフトを何本か取り出した。

「…なんだそれ?」

「同じ様に子供の名前が書いてあるソフト!一人息子なのに違う子供の名前が書かれたソフトが混ざってるってことにするんだよ!ほんのり怖くね?」

 井出は机に並べたソフトを得意げに指差し、にやりと笑った。

「ほら、こうすればちょっと不気味さ出るだろ?」

「……こんな古いソフト、どこで売ってたんだ?」

「国道沿いの中古ゲーム屋のワゴンにいっぱいあった!本体も安く中古で買えないかなぁ」

 彼のゲーム思い出話を聞きながら、田口はビールに手を伸ばした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る