泡沫の森〜夢の世界への冒険物語〜

雪夜

第1章

第0話 プロローグ

僕は、ある時からずっと暗闇の中にいる。

何故、ここにいるのかと言われると成り行きとしか言えない。記憶を辿ってもいつからここにいるのか分からなくなってる。いつの間にかここにいて、どこにも動きたくなくて、しゃがんで下を向いていた。


僕は、何も出来ない。何をしたいのかも忘れたし、昔、夢だった事なんて忘れた。僕のことを見てくれる人なんて誰もいない。だから、ずっとここにいる。

そんな時にあの人に会った。


「あなたはこんなところで何をしているの?」

顔を上げると、黒の桜柄の着物を来た女の人がこちらを覗いていた。

「何って、どこにもいけないからここにいるんだけど。」

「どこにもいけない、ね。確かにこんな森の中では、どこに行ったらいいか分からないものね。」

女の人は、僕を寂しそうな顔して見つめていた。

周りをみると、木々がそびえ立っていた。今まで下を見ていたから気付かなかった。

「ここは、人の思いが広がる世界、泡沫(うたかた)の森。ここは、様々な人の思いや感情が行き交う場所。それなのに、あなたは何も感じないのは、心が凍っているのね、きっと。」

ふと、女の人が尋ねた。

「そういえば、あなたは、何か夢はないの?」

「え、」

「あなたが今やっていることって、きっと昔やりたかったことではないよね。」

僕は一瞬考えた。

「考えてみると、そうかもしれない。確かに、今やりたいことではあるけど、昔の自分がみたら、意外な道だったかもしれない。」

「だから、ここにいるんでしょ。あなたが何をしたらいいのか分からなくなって。」

言われてみるとそうかもしれない。心の中では、やりたくないと思っているのかもしれない。

「だったら、昔、夢だったことをやってみるといいよ。」

「夢か、」

ふと考えを巡らせる。

「そういえば、僕は小説家になりたかった。」

女の人は、納得した顔をした。

「そっか、なるほど。小説家ね。」

女の人が指を差して言った。

「きっとあっちに行くと、たくさんの物語が見れるから、行ってみるといいよ」

女の人に言われて、なんとなく、歩き出した。あれだけ、動きたくなかったのに不思議だ。


道なき道をすすんだ。けど、僕自身は道を知っているかのように進んでいく。

それが、どれだけ孤独で茨の道か知らずに。

でも、立ち止まっていても、進んでも同じなら、自分の好きなことをしていきたい。


そんな様子を見ていた女の人、黒蓮はその場から立ち去った。

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