俺は正義の味方の皮をかぶった殺人狂。仲間募集の条件は“命を狙われていること

茶電子素

第1話 正義の皮をかぶった男

俺の名はリオネル。

街では「正義の味方」と呼ばれている。

困っている人を助け、悪党を退け、弱者を守る

――そんな看板を背負わされている。

だが、俺の本性はまるで違う。俺はただの殺人狂だ。

もちろん隠している。


理由なんていらない。

ただ、血の匂いと断末魔が好きなだけだ。

だが、そんなことを口にすれば即刻ギルドから追放、

王都の広場で首を吊られるのがオチだ。


だから俺は「正当防衛」を装う。

襲われたから仕方なく、という顔をして、相手を過剰に叩き潰す。

――そうすれば、誰も疑わない。

むしろ「勇敢だ」と拍手喝采だ。笑える話だろう?


昼下がりの冒険者ギルドは、

いつも通りの喧騒に包まれていた。

木製の長椅子に腰かけた傭兵たちが酒をあおり、

受付嬢は依頼票を張り替え、奥の炉では肉が焼かれている。


俺が扉を押し開けて入ると、

ざわめきが一瞬だけ止み、すぐにまた戻った。


「お、リオネルだ」

「この前の山賊退治、見事だったな」


そんな声が耳に入る。俺は軽く手を振って応じる。

――あの山賊退治?

笑わせる。俺がやったのは、

降参した奴を“正義の名の下に”一人残らず潰しただけだ。


「リオネル様、こちらにどうぞ」


受付嬢が笑顔で手招きする。

俺は歩み寄り、依頼票を眺めた。

薬草採取、護衛、害獣退治。どれも退屈だ。血の匂いがしない。

俺は依頼票を一枚も取らず、受付嬢に微笑んだ。


「今日は様子を見に来ただけだ」


彼女は残念そうに眉を下げた。

俺の“正義の味方”という評判は、こうして勝手に積み上がっていく。


だが、俺には問題があった。

最近、命のやり取りに発展するような事件が減っている。

街道は整備され、王国軍が盗賊を掃討し、魔物の出没も減った。

平和は人々にとっては喜ばしい。

だが俺にとっては退屈以外の何物でもない。


俺は夜の宿で天井を見上げながら考えた。

――どうすれば、もっと血の匂いに満ちた舞台を手に入れられる?

答えはすぐに出た。


「仲間を募る」


ただし条件は一つ。

命の取り合いに発展するような重いトラブルを抱えていること。


盗賊に追われていようが、

王都から指名手配されていようが、呪いを背負っていようが構わない。

むしろ歓迎だ。

そういう連中を集めれば、必然的に血と火花が飛び散る。

俺は“正義の味方”を装いながら、堂々と殺しを楽しめる。


翌朝、俺はギルドの掲示板に一枚の紙を貼った。


「仲間募集――条件:命を狙われている者、重いトラブルを抱えている者」


周囲の冒険者たちは首をかしげ、笑い、囁き合った。


「なんだこれ……?」

「冗談か?」

「いや、リオネルなら本気かもしれん」


俺は背を向けて歩き出した。

胸の奥で、久しぶりに血が沸き立つのを感じながら。

――さあ、来い!

俺の舞台を彩るトラブルメーカーたち。

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