月の裏側

狼二世

裏側を知らない


 宇宙の片隅、大きな太陽の周囲をくるくるくるくる。

 青い星が、何億年も前から回っていました。


 少し前まで地球の上を歩いていた生命も、今は遠い星に旅立っています。

 太陽さんが少しだけ調子が悪くて、人間が住めなくなってしまったからです。

 残された地球はそれも気にせず、ずっと昔からの知り合いたちと宇宙をのんびり漂い続けています。

 そう、長い長い時間が過ぎて――


「……退屈だ」


 不意に、太陽が喋りだしました。


「水星も金星も、そろそろ何かを喋れ」

「なんだよー、太陽爺さん」

「気まぐれだなー」


 そうして、太陽系の惑星たちが、口々に喋りはじめます。

 人が進化したように、星も進化して喋りはじめたのです。


 こうして、太陽系は、また、にぎやかになりました。

 もちろん、地球も同じです。


◆◆◆


 ある時、火星さん地球に問いかけます。


「地球さんは、人間が居なくなって寂しくないの?」

「少し静かだけど、みんなが居るから大丈夫だよ」


 宇宙はとっても静かだけど、常に何か変わっている。

 遠くから旅をしてきた彗星が、遥か彼方で無事に生きてる人類の様子を伝えてくれます。

 時々あわてんぼうがぶつかるけれど、お礼に水をくれて元気になれます。


「そういえば、また木星さんが大きくなったって」

「うん、ここからも見えるよ」


 太陽の兄弟だちと語り合って、地球は今日も生きています。

 ――そして、なにより


「ふわぁ……あ、火星さんだ」


 寝ぼけ眼の月が目覚めます。

 いつの間にか、地球と一緒にいる月さんが居るから、地球は寂しくありません。


「月はお寝坊さんだね」

「そうだよ、僕が起こすまで、いっつも寝てるんだもん」


 体の大きい地球さんは、月に対してお兄ちゃん。

 いつの間にか一緒に居て、長い長い時を過ごした二人は仲良しです。


◆◆◆


「地球と月は、いつも一緒だのう」


 木星さんがいいました。


「そうそう、お互いに知らないこととかなさそう」


 続けて、冥王星も話に乗ります。


「ううん、僕も分からないことがあるんだ」

「ほほう、それはなんだね」


 食いついてきた仲間たちを前に、地球は言います。


「僕は、月の正面しかしらないんだ」


 地球から見て、月はいつも正面を向いています。地球から見たら、月はいつも顔を見せているのです。


「ねえ、月さん。なんでいつも背中を見せてくれないの?」


 月は何も言いません。他の仲間たちも、何もいいません。

 だって、事情を知っているから。


 月は、いつも正面を地球に向けています。

 その裏側は――ボコボコに荒れ果てています。


 月は、地球に大きな隕石がぶつかった衝撃で生まれました。

 その時に聞いた悲鳴が、月は忘れられません。

 ずっと昔は、今よりも遠くから飛んでくる隕石が沢山あって、地球はいつも痛がっていました。

 だから、月が地球を守るために背中で隕石を受け止めていたからです。


 月は、自分の背中が恥ずかしくて、仕方がなかったのです。

 だから、また誤魔化してしまいました。


◆◆◆


 さて、そんな月と地球を見ていた星が居ます。

 それは、宇宙を旅する彗星の女の子。

 彼女は、すさまじい速度で彼方へと旅立っていきました。

 そして、暫くすると、宇宙船が太陽系へとやってきたのです。


 久々の来客に、太陽は喜びました。乗っていた人類を歓迎です。


「いえいえ、私たちは頼まれただけですから。」


 宇宙船の人々はそう言うと、月の裏側に降り立ちます。


「それに、お礼でもあるんです。私たちの先祖が地球で繁栄できたのは、月が守ってくれたおかげですから」


 宇宙船から出てきた機械は、たちまちに月の裏側を磨き上げました。

 最後に、巨大な鏡面を月の裏側に設置すると、地球に対して月を見せたのです。


「月が綺麗ですね」

「うん、僕もそう思うよ」


 鏡のように黄金に輝く月が、ありました。


【了】

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