短編 サンマでおしゃべり猫
檸檬ういろ
サンマでおしゃべり猫
仕事終わり、今日は何となくいつもと違う帰り道を歩いていて、あら、こんなところにスーパーなんかあったかしらん、と見た事もない小さなスーパーに入った。たしか名前が「アニマルトーク」とか看板に書いてあったかなぁ。お店は小さいけど品揃えはそれなりにあって、新鮮だし、いいお店かも~。
そのお店では少し高めのサンマと大根を買って、ウキウキと店を後にした。さんまだ~!わーい!
お家に着いて、風呂上り、ビールを飲みながら料理をするのが好きな私は、今日の仕事でムカついた事を延々と飼い猫のトッチャンに愚痴りながら、親の仇のように大根をおろし、魚焼きグリルにサンマを入れた。サンマの匂いにつられてトッチャンがグリルに近づいてきてじっと見ていた。「いい匂いだねぇ」と頭を撫でて、グリルを開けると、うまく焼けているじゃな~い。
私はグリルから皿にサンマを移し替え、大根おろしを添えた。トッチャンが私のサンマの皿に近づき、「みゃあみゃあ」と鳴いている。食べたいのかしら、とスマホで検索して猫が食べても大丈夫そうだ。と、トッチャン用のお皿にプレーンの骨のない身をほぐしたサンマを取り分けてあげた。
テーブルについて、サンマを前に「いただきます」と言うと、横から「おいしっ」と聞こえた。ん?と声のした方を見ると、トッチャンがサンマに貪りついている。
私は気にせず大根おろしに醤油をかけて、サンマと一緒に口に入れると、「んま~」と言った。「とてもおいしいです」とまた声が聴こえ、振り向くと、「いい秋刀魚買ってきましたね。身がプリプリしてて」とトッチャンが口を動かして声を出してた。
「いいい今、トッチャンが喋った?」
「はい、この秋刀魚を食べたら、なぜか声が出ました。あ、いつもお世話になってます」
それから、トッチャンと毎日話した。最初は驚いたけどね。そういえば、あのスーパーあれから見つけられなくなっちゃった。スマホで検索してもマップにも出てこない。
そして、トッチャンも時間が経つといつの間にか喋らなくなった。相変わらずサンマを焼くとおねだりはしてくるけれど。「なんだったんだろうね、トッチャン」と頭をポンと撫でた。
短編 サンマでおしゃべり猫 檸檬ういろ @uirojun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます