勇者は13人!

@sanunununu

プロローグ

新歴419年 魔王城


  重々しい扉が開く。


「きたか……勇者達よ……」


 玉座に座るのは、魔王。史上最大の魔物国家を築き、人類を絶滅寸前まで追い詰めた張本人であり、終末を体現し、運命を壊す者。


 対峙するのは、勇者。運命を導く者、世界の寵愛を一身に受け、大いなる光で闇を祓う。


「魔王!今日ここでお前を討つ!」


 黒髪の青年が言い放つ。


 一人の勇者と一人の魔王、これは世界の絶対的な法則である。


「皆と一緒にね!」


 桃髪ツインテールの少女が後に続く。


 13人が並ぶ。

 

「クックックッ…確かに、勇者とも並ぶほどの力を持つ者が13人もいれば、並の魔物では敵うまい……そして貴様らは幾度もの困難を乗り越え、十神柱、六大魔将、五蝶星、四天王、三竜皇、二幻獣…数えきれない程の魔物を破った。」


 勿論、魔王の語りは無駄なものではない。彼は自身の言葉で勇者パーティーの気を引いているうちに、恐るべき術式を構築している。


「300年間だ。300年をかけ人類を凡そ残り一割まで減らしたのだ。貴様らが内輪揉めを止めたとき、世界はもはや取り返しのつかない物になっている筈だった……!」


 もうすぐ、術式は完成する!


「褒めて遣わす。感謝するがいい、これは貴様ら人類に与える最後の称」


 魔王が話しきる前に、超速の光球が頬をかすった。


「逸らされた。辺りに力場があるな」


 白髪の少女だ。


「出来るだけ物体化させて攻撃しろ!」


 茶髪ノーブルの青年が叫ぶ。


(さすが我が軍を屠った勇者よ……魔王の言葉に耳など貸さんということか)


 魔王が考える。


「魔王様が親切で助かったぜ、お陰でこっちは120%で戦える。」


 白髪の少女はそう言いながら巨大な氷塊を放つ。氷塊は魔王の前でくだけ散る。


(この威力…我が話している間に強化魔法を重ね掛けしていたな?)

「無詠唱は当たり前か、人の歴史が終らなければ、貴様らは歴史に名を刻んだだろう。本当に残念だ」


 辺りが禍々しい魔力で満ちる。凄まじい術式が発動したのをその場の全員が理解した。


「"不可解アルカイム"」


 周囲に光が増していく。


「冥土の土産に教えてやろう。この魔法は"運命に導かれない者以外"を消滅させる。運命に導かれない者とは!魔王と、勇者だけだ!!」


 光が止む。


 魔王の目の前にいるのは……


 13人


「……そ、そうか。我は人類のことを見くびりすぎていたようだ。星浄教か?それともエルフに生き残り、魔王軍に裏切り者が?……まぁよい、いずれにせよ貴様らは古代魔術への対策を見つけ出したということだな」


「?お前は何を」


「福山が気を失ってるよ!」


「紅音!回復魔法を!」

 

(奴らが慌てている内に原因を解明しなくては)


 ギィンと音をならし白銀の剣が折れる。


(こいつ!かてぇ!)


 白銀を含めた4人の攻撃をいなしながら魔王は思考を巡らす。


(それらしきアーティファクトも呪印も、両方の気配はない、そうなれば相互協力型の契約術式か?いや待て、そもそもこれまでの過程で一人も犠牲者を出していないのは不自然だ!つまり、勇者との魂の連動がこの者達の魔法の正体!)


「おいてめぇら攻撃しろ!」


 魔王に斬りかかりながら白銀が叫ぶ。


「あんた護人がどうなったもいいの!?仲間でしょ!!」


「状況考えろよ!」


「魔力反応!!来るぞ啓!」


 そう叫ぶのは黒瀬晶。


「"衝撃墜サドマシオ"!!!」


 魔王に攻撃していた4人が吹き飛び、壁に激突。


「クックックッ、ハーッハッハッハッ!!わかったぞ!貴様らの正体!!まさか魂の適応と上書きを自我を保たせたまま可能にするとはな!だが種が割れれば対処はたやすい!実に巧妙に勇者を隠している。だが無駄だ!!!」


「?なに言ってんだアイツ」


「"見透すオクルス・ヴェリト"!!!」


 "見透す眼"は魔王の固有能力だ。その眼は真実を写す。本人の能力を数値化するだけではなく、保有する能力や掛けられている誓約魔法、本人の心理状況など、ありとあらゆるものを見透すのだ。


(我はこれにより数多の強者を討ち、人間の欲を見抜き人類の協力を阻害した!勇者は産まれしだい見つけ出し殺した!)


「勇者はっ!!きさまっ」


 魔王は思わず口を止める。


 確かに魔眼は真実を写した。


 あまりにも不都合で、荒唐無稽な真実を


「全員!勇者だとぉ!!!!」


 ありえない。勇者と魔王は常に一つずつ。それは世界の絶対的な理のはず、思考を廻らす。答えは出ない。


 光線が、魔王を貫く。

  

「防御術式、解明終了」


 黒い髪の青年だ。


「ナイス理久!!みんな!畳み掛けるぞ!」


「クックックッ…………」


 深呼吸、現状整理、


「かかってこい勇者達よ!我は魔王!世界を滅ぼし、運命を砕く者!!今日ここで貴様らを殲滅し、我が野望を手中に納めん!!!!!」


 魔王はすでに、諦めていた。



  

 2時間42分後


「最期に何か、言い残すことはあるか?」


 魔王の首に、刀を掛けた成瀬。


 辺りには倒れた勇者達。


「私は世界に抗った。悔いはない」


 魔王の首が飛ぶ。


「まさか第5形態まであるとはな……」


 心は落ち着かない。遂に冒険が終わったのだ。


「ようやく、元の世界に…」

 

 瞬間、地面に魔方陣が輝く。


(封印魔法!?まずいっ!)


 抵抗する間もなく、成瀬景の姿は消える。


 他の勇者が目覚めたのは、戦闘終了から約19時間後の事だった。






 519.3.19 魔王城にて封印術式の消失を確認

  

 同時刻 エヴィリオ大森林最奥


「ここ……は…………?」


 成瀬景は復活した。

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