第2話 封印の鼓動と、勇者の瞳
春の陽射しが差し込む教室に、担任の声が響いた。
「今日から新しい仲間が加わります。白羽(しらはね)咲希さん、自己紹介をどうぞ」
教室の空気が一瞬で変わる。
前に立つ少女は、どこか“光”を纏っていた。
肩までの金髪が揺れ、透き通るような瞳がこちらを見つめる。
「白羽咲希です。よろしくお願いします」
その笑顔は、完璧だった。
でも、どこか作り物のように整いすぎていて――
俺は思わず息を呑んだ。
隣の席に案内されると、彼女は微笑んで言った。
「天城レオン君、でしょ?」
「え、ああ……なんで知ってるの?」
「有名だから。特待生の転入生なんでしょ?」
そう言って笑う咲希の目の奥に、一瞬だけ冷たい光が宿った。
それは――俺を“観察している”ような、そんな視線だった。
放課後。
グラウンドを見下ろす生徒会室の窓辺で、リリカが咲希を見つめていた。
「……勇者の血、ね。」
背後に現れたエリカが静かに言う。
「監視役として送られた可能性が高いです。」
「ええ。でも、彼女もまた“運命”の中のひとりよ。」
リリカは窓越しに咲希とレオンが話す姿を見る。
咲希が笑う。レオンも少し照れたように笑い返す。
胸の奥がざわつくのを、彼女は知らないふりをした。
一方その頃。
屋上で風に吹かれながら、咲希が携帯型の魔導通信機を開く。
『報告せよ、白羽咲希。対象の覚醒兆候は?』
「……まだ確証はありません。でも、魔力の波長は一致しています。
――彼が“魔王の転生体”である可能性は高い。」
『討伐対象としてマークする。感情移入はするな。』
「……了解。」
通信が切れ、風が髪を揺らす。
咲希は小さく呟いた。
「でも……あの人の笑顔、あんなに優しいのに。」
数日後。
E組の実験授業で、魔力制御の実技が行われた。
講師が説明を始める。
「魔力を可視化し、球状に保つ。それができれば合格だ。」
隣の美奈が小声で囁く。
「レオン君、初めてなら、私がサポートしてあげるね!」
「ありがとう。でも、俺……自信ないかも。」
両手を合わせ、意識を集中。
すると、手の中に黒い光が集まっていく。
周囲の空気が震えた。
「え……?」
次の瞬間、爆発的な魔力が弾け、教室が揺れる。
生徒たちが悲鳴を上げた。
> リリカ:「抑えて! 天城君、力を止めて!」
> レオン:「止まらない……体が勝手に――!」
黒い光が広がり、床の魔法陣が反応する。
咲希が咄嗟に前へ出て、右手に“聖なる剣”を展開。
> 咲希:「
その光が黒い魔力を貫き、暴走が止まった。
静まり返る教室。
咲希の手が震えていた。
彼女の腕に抱かれながら、俺は呆然と呟く。
「いま……お前、何を……?」
咲希は目を伏せ、小さく言った。
「ごめん。でも……こうしないと、あなたが壊れてた。」
その時、教室の隅でリリカが呟いた。
「やはり……“封印”が揺らいでいる。」
夜。
学園の裏手にある旧礼拝堂。
リリカとエリカ、美奈の三人が集まっていた。
> 美奈:「ねぇ、本当にあの人が“魔王様”なの?」
> リリカ:「間違いない。あの魔力……“ルシフェル”のものよ。」
> エリカ:「ならば、封印が完全に解ける前に対処を。」
「対処?」と、美奈が怯えるように問う。
リリカは、静かに夜空を見上げた。
> 「……もし再び“魔王”が目覚めたら――
> この世界が、また燃えることになる。」
月が雲に隠れた瞬間、
遠くで“黒い稲妻”が走った。
翌日。
咲希が屋上で一人、風に髪をなびかせていた。
そこに現れたのは――リリカ。
> リリカ:「聖教会の者が、なぜこの学園に?」
> 咲希:「……あなたは、何者なんですか?」
> リリカ:「ただの生徒会長よ。けれど、彼に仕える者でもある。」
二人の間に、冷たい風が流れる。
> 咲希:「彼は……危険です。あなたたちも分かっているはず。」
> リリカ:「彼は世界を滅ぼす魔王じゃない。
> “世界を救った男”よ。」
その言葉に、咲希の目が揺れる。
> 咲希:「……世界を、救った……?」
> リリカ:「ええ。けれど代償に、記憶を失った。」
沈黙のあと、咲希は小さく微笑んだ。
> 咲希:「あなた、本当に彼を信じてるんですね。」
> リリカ:「あなたも、そうなるわ。」
月明かりが二人の間に落ちる。
それは敵対でもあり、どこか姉妹のようでもあった。
夜の寮。
レオンは眠りながら、再びあの夢を見る。
暗い玉座。
泣く少女。
そして、“自分が誰かを抱きしめる”感覚。
『どうか、あなたを忘れないで。
私たちは、ずっとあなたを待ってる。』
目を覚ましたとき、手のひらの黒い紋章が光っていた。
> レオン:「……この声……また、俺の中に誰かが……」
外では風が鳴る。
その風に混じって、確かに聞こえた。
> (――ルシフェル。)
誰かが、その名を呼んだ。
──第2章・完。
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