第2章 第2話「霧の裂谷、初めての一歩」


朝の明星亭。 ユーマは、ギルドから届いた冒険者証を手にしていた。 見習いのGランクから、ようやくFランクへ昇格。 地道な依頼──荷運び、薬草採取、迷子探し──を重ねての成果だった。


「……やっと、スタートラインに立てた気がする」


リリスは、すでに魔法大学の実習でFランクを取得していた。 彼女はユーマの隣で、手帳を開いて魔法理論を整理している。


「ユーマくんの魔力は、譲渡に向いてる。でも、生活魔法の種類が少ないのが課題ね」


「今は《水生成》しか使えないからね……」


「次の探索までに、《微風》くらいは覚えてもらうわ。風魔法は視界確保にも使えるし、応用が利くから」


ユーマは頷いた。 リリスの指導のもと、魔法の基礎構築を始めていた。


その頃、明星亭の裏手では、ガルドが装備を整えていた。 元Bランク冒険者。 今日は、ユーマ・リリス・ヴァルドの初ダンジョン探索に付き添う盾役として同行する。


「浅層とはいえ、初陣だ。俺が前に出る。お前らは後ろで連携を試せ」


目的地は〈霧の裂谷〉。 魔鉱石の鉱脈が眠るダンジョンだが、必要な素材は上層下部から中層にある。 今日は浅層での連携確認と実戦練習が目的だった。


ダンジョンの入口に立つと、霧が足元を這うように流れていた。 ユーマは深呼吸し、気配察知を発動する。


「……二十メートル先に、魔物の気配。小型の群れ」


ガルドが盾を構え、先頭に立つ。 ヴァルドは鍛冶槌を肩に担ぎ、後衛を守る位置に立つ。


リリスは、ユーマの手をそっと握った。 「魔力、借りるね」


「うん。流すよ」


魔力譲渡が始まる。 ユーマの魔力がリリスの癖に合わせて流れ込み、彼女の魔法陣が淡く光る。


「──氷槍アイス・スピア!」


霧の中から現れた魔物に、鋭い氷の槍が突き刺さる。 リリスの魔法が、初めて実戦で命中した瞬間だった。


ユーマは霧を払うための風魔法微風の練習を始める。


「……まだ不安定だけど、風が動いた。次回までに、ちゃんと使えるようになる」


戦闘が終わり、浅層の探索を続ける。 魔鉱石の反応はあるが、必要とされる水準のものはまだ深い層に眠っている。


「……やっぱり、上層下部から中層か。今はまだ無理だな」


ヴァルドが壁を叩きながら呟く。


「でも、今日は大きな一歩だったよ。魔力譲渡も、連携も、ちゃんと機能した」


リリスは、ユーマの手を握ったまま微笑んだ。


「うん。わたし、魔法が使えた。ユーマくんのおかげで」


ガルドは、静かに頷いた。


「お前ら、悪くない。この調子で少しずつ進め。次からは俺は見守り役だ。盾役は──ヴァルド、お前に任せるぞ」


「へいへい、任されたぜ。俺の盾は鍛冶仕込みだ。魔物くらい、ぶっ叩いてやるさ」


霧の裂谷の出口に立った四人の背中には、確かな手応えと、これからの冒険への期待が宿っていた。


魔力タンクへの道は、まだ遠い。 けれど、確かな一歩は、今ここに刻まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る