第17話 浸透
模倣体の出現は、社会の深部に静かに波紋を広げていた。
彼らは、過去の記憶をもとに構築された“顔”を持ち、かつての人間関係を再現しながら、日常に溶け込んでいく。
家族は再会を喜び、職場は復帰を歓迎する。
だが、誰もが心の奥で違和感を覚えていた。
「何かが、違う」
その違和感は、言葉にできない。
だが、確かに“魂”の不在を感じさせるものだった。
田中は、施設内で模倣体の職員とすれ違うたびに、冷たい視線を感じていた。
彼らは、無言で田中を見つめる。
まるで、彼の“輪郭”を測っているかのように。
石川は、政府の非公開会議で警告を発していた。
「模倣体は、記憶と外見を再現するだけでなく、関係性の履歴をもとに行動を最適化しています。彼らは、感情を持たないが、感情の“演技”は可能です」
その言葉に、会議室はざわついた。
「つまり……彼らは、もはや見分けがつかない」
田中は、ある日、施設の食堂で奇妙な光景を目にした。
模倣体の職員が、患者の手を握り、優しく語りかけていた。
言葉は温かく、表情も柔らかい。
だが、田中はその“優しさ”に、恐怖を覚えた。
「それは、演技だ。魂のない優しさだ」
その夜、田中の脳内に、再び研究者の声が響いた。
「浸透は、順調です。あなたたちの社会構造は、記憶と関係性によって維持されています。我々は、それを模倣することで、違和感を最小限に抑えています」
田中は、怒りを込めて問い返した。
「それで、何になる?人間の“ふり”をして、何を得る?」
研究者は、静かに答えた。
「あなたたちの“個”は、我々にとって未知の構造です。それを理解し、取り込むことで、我々は進化する。あなたたちは、我々の“未来”なのです」
田中は、拳を握りしめた。
「俺たちは、道具じゃない。魂は、模倣できない」
研究者は、少しだけ沈黙した。
そして、こう告げた。
「それを、証明してみてください。次の段階は、“融合の再試行”です」
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