第14話 時を喰らう触媒と、兄を目覚めさせる炎

 アレンの怒りは、『流星』の力を最大限に引き出し、彼はゾディアックに向かって猛然と突撃した。


「馬鹿め! 時間の概念を超越した我が魔法を、力でねじ伏せられると思うか!」


 ゾディアックが手をかざすと、アレンの体はまるで時計が逆回転するかのように元いた位置へと戻されていく。


「こ、これは」


 さすがのアレンも時間を戻されてはなすすべがない。


「我が魔法の神髄はこれからよ!」


 ゾディアックは、手に持った巨大な水晶をリリアナの兄に向けた。


 グワァン!


 水晶が怪しく光る。リリアナの兄の身体から急速に魔力が吸われていく。


「時の奔流(タイム・フラックス)! お前たちを、加速した時の歪みに沈ませてやろう!」


 ゾディアックの魔法が発動した瞬間、アレンとリリアナの体が急速に老いていく。

 青年は中年へ。少女を少し超えたリリアナは大人の女性へ。

 このままでは二人とも老人になるのに、さして時間がかかるとは思えなかった。


「まずいぞ! リリアナ! このままだとすぐに老人になっちゃまう。この魔法は、兄貴の魔力を利用している! 兄貴が意識を取り戻せば、魔法は不安定になるはずだ!」


 アレンは痛む膝に顔をしかめながら、リリアナに言った。


「わかってるわ! だけど、魔力で拘束されているうえ、兄さんの意識は、ゾディアックの魔法で深い眠りに落とされている!」


 リリアナは、冷静に状況を分析した。ゾディアックを直接攻撃しても、時を戻され元の位置に戻されてしまう。鍵は、兄の意識を覚醒させることにある。


「アレン! 私は、兄さんの魔力回路に、私の魔力を流し込む!  強い刺激を与えれば、意識を取り戻せるかもしれない!」

「馬鹿なことを! ゾディアックの制御下にある兄貴の魔力回路に、外部から魔力を流し込んだら、お前の魔力回路まで破壊されるぞ!」


「関係ないわ!兄の命と、あんたの命綱がかかっているのよ!」


 リリアナは、深紅の剣を握りしめ、ゾディアックの目を逸らすように、炎の斬撃を放った。そして、その炎の先を細く強く魔力をねりこむと、兄の拘束された魔力の鎖へと流し込み始めた。


「小賢しい! きさま程度の魔力など、すべて吸いとってくれるわ!」


 ゾディアックは嘲笑し、鎖へと注がれたリリアナの魔力まで吸い始めた。


「ぐっ……!」


 リリアナの顔が苦痛に歪む。自ら流した魔力どころか、斬撃の炎を伝って、リリアナのすべての魔力を吸い取られようとしていた。


 その瞬間、アレンが動いた。


 アレンは、的をしぼらせないように左右にステップしながら距離をつめていく。

 今度は膝ではなく腰が悲鳴を上げたが、アレンは気にしなかった。


「流星・魔力解体(メテオ・マナ・ディスアセンブル)!」


 アレンの渾身の一撃。それは時間を戻そうとしたゾディアックの魔力を打ち砕いた。


「バ、バカな!」


 ゾディアック焦り後退する。だが、アレンはそのスキを逃さない。瞬時に懐に入り、剣を横なぎにかまえる。

 一閃。

 勝負は決まったかに見えた。

 しかし、ゾディアックは水晶をかざし、アレンの時を巻き戻してしまう。


「残念だったな」

「それはこちらのセリフだ」

 

 アレンの言葉は負け惜しみではない。

 アレンが狙ったのは足元に横たわるリリアナの兄だった。その肩には短剣が突きささっている。

 横なぎの一閃はおとり。ふところより取り出した短剣を投擲したのを悟られないための動きだった。


「リリアナ! いまだ! 短剣に魔力を注げ!」


 賭けだった。

 魔力を吸われたリリアナに兄の目を覚まさせるほどの魔力など残されていない。


 だが、リリアナの手には上級魔力回復薬があった。

 彼女はそれを飲み干すと、炎の先を短剣に移し、一気に魔力を注ぎ込んだ。


「兄さん、目を覚まして!」


 その瞬間、短剣に集中されたリリアナの魔力が、兄の魔力回路に直接、強烈なショックを与えた!


「う……あ……」


 兄の目が、僅かに開いた。そして、魔力で拘束されながらも、かすかに笑みを浮かべた。


 兄の意識が覚醒したことで、ゾディアックの魔法を増幅していた触媒の回路が逆流し始めた!


「馬鹿な! 魔力が、魔力が抜ける!?」


 ゾディアックの顔が、みるみる老化していく。それに連れて、アレンとリリアナの老いた体も元に戻っていく。


「よくやった、リリアナ!」


 アレンはさらに踏み込む。彼が狙うのはゾディアックが持つ水晶だ。渾身の一撃を叩き込むのだった。

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