都市伝説課の俳優パロ

@mojikaku

第1話

「本日の撮影は終了です!お疲れ様でしたー!」

「「お疲れ様でした〜」」

今日の撮影も終了、今やっている撮影は「ようこそ!迷冥市役所都市伝説課へ!」というドラマ作品。

人気小説が原作の作品で、都市伝説課職員の職員黒玉と新人のうさぎのバディものの作品だ。

今回俺はこの新人であるうさぎを演じる、そして黒玉を演じるのは。

「お疲れ様です!ゆきさん!」

この子、桂木こうきである。

まだ若いながら迫力ある演技と若さゆえのエネルギーが売りの俳優で俺の今のイチオシだ。

演技をしている時のキリリとした空気感とは一変、普段は今のように元気に話しかけてくれる、とても可愛い後輩だ。

「あぁ、お疲れ様、今日の演技も良かったよ」

「そんなそんな……!光栄です」

彼の演技は本当に素晴らしい、彼が演じる黒玉は比較的無口な役柄で、言外の表情や仕草で語ることも多い、それをまだ拙いながらやり切って見せている。

(特にあの目は良かったな……)

まるで射抜くような目、ガラスが割れる演出と相まって物理的な力があると勘違いさせる目は横から見ていた俺でもその衝撃は相当だった。

「そうだ、この後暇かな?良ければご飯でもどお?いい所を教えてあげよう」

「え…!いやでも…以前もそうやって奢ってもらっちゃいましたし……今回は俺に奢らせてください!」

「気にせず奢られてくれていいのに……」

「いえ!今回は奢ります!」

「そうかい?でもなぁ、うーん」

(こういう子に奢るのも、俺の趣味の1つなんだけどな……いい事を思いついた)

「ねぇ、こうきくん、お財布と携帯、持ってるよね?貸してくれる?」

「えっ?」

何も分からないと言う顔で首を傾げる彼に手を差し出しながら笑いかける。

「大丈夫、勝手に使ったり見たりしないからさ」

「あ!いや疑ってるとかじゃなくて!雪さんはそんな事しないって分かってますよ!」

「ふふ、そうかい?じゃぁ貸してくれるかな?」

「は、はい」

「うん、確かに、ありがとう」

まだ困惑しているようだが渡してくれた、本当に素直な子だ。

つい零れた笑みを受け取った財布とスマホで隠す。

(ほんとに、可愛い子だなぁ……揶揄い甲斐がある)

「じゃぁこれはここにしまっておくね?」

彼に見せつけるようにふところに仕舞い、自分のスマホで店のウェブサイトを開いてみせる。

「で、ここなんだけどさ、どうかな?」

「……?いいですね!えっと、じゃぁ僕が予約するので……」

彼はそう言って、スマホを覗き込んだ姿勢のまま、少し見上げるようにして困り気味にこちらを見ている。

「ふふ、でも君スマホ持ってないから予約出来ないでしょ?」

「いや、1度返して頂いても……」

「だめ、まだ俺が借りてるからね、まだ返してあげられない」

「え、いたでも……」

「ダメだよ?君が貸してくれたんだから」

そう言いきっても「いや……でも……」ともごもごと手をこまねいている。

「そういえば君、財布も俺に貸しちゃったね?」

さっきまで戸惑いを顔全体に広げていたのが、ハッとしたような驚きの顔に変わった。

このコロコロと変わる表情もこの子の可愛さの一つだ。

「えっ、あの雪さ……」

「これなら仕方ないよね?今回も俺が支払いも予約もしちゃうね?」

と言ってスマホを操作する。

彼はまだ言いたいことがあるようだったが、人差し指を口に当てて黙らせる。

「じゃぁ行こうか、こうきくん?」

手早く予約を終わらせて店へ向かう。

彼は少し不満顔で、でも素直に俺の後ろを着いてきてくれる、本当に、素直で可愛らしい。

(あぁ、次はどうやって奢って《揶揄って》あげようかな……?)

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