MOON

Y̤̮Ṳ̮I̤̮

episode1 ─美月 side─


何となく寝れなくて

向かった先はマンションの前にある公園。


噴水の前にあるベンチに座り、ボーッと月を眺めていた。



「今日は満月かぁ…」



夜は好き。



暗闇の中で光る月が何よりも輝いて見える。


私の生きている世界みたい。




キャバクラで働いている私はNo.1をずっと維持している。


18で働き始めたその月からずっと。




この広い夜空の中で一際輝く月のように

私もずっと輝いていたい──…。




1人夜空を見上げる私の頭の中は何も考えていなくて、ただボーッとしているだけだった。



だから気づかなかった。




人が近づいてくる気配に───…




「こんな時間に女が1人で危ないぞ」



声のする方へ顔を向けると、そこにはスーツ姿の男性が1人立っていた。



非の打ち所がないくらいカッコイイ。



キリッとした眉


切れ長の目


漆黒の瞳


筋の通った鼻


シュッとした輪郭


それに高身長




テレビで見るような整った容姿に驚いた。


筋肉もしっかり付いていて無駄がない。




「おい、聞いてんのか」



「大丈夫です」




喋り方がすごく偉そうなのは気に入らない。


過保護なシスコンの兄に似ているからかもしれないけど。



「家に帰りたくないのか」



私の事、なんか訳アリの女って思ってる?



「月が見たくなって外に出てきただけなんですけど」



私がそう言うと、男の人は隣に腰を下ろした。


そして私と同じように夜空を見上げていた。


その横顔は月明かりに照らされて綺麗だった。



「名前は」



不意に聞かれた名前。



美月みづきです」



そう答えると、



「似てるな」



と、少しさっきよりは話し方が柔らかくなった。


何が似てるのかよく分からなかった私に、その人は話を続ける。



「俺は維月いつきだ」



“月”が入ってるから名前が似てるって事だったのかな。


ただの偶然なのに。




「維月さんはこんな時間にこんな所で何してるんですか」



今度は私が質問してみた。


スーツ姿で夜中の3時に公園に来るような人では無さそうだから。



「仕事帰りだ」


「随分と夜遅くまでやられてるんですね」


「たまたまだ。普段は寝てる時間だな」


「私とは逆ですね」



夜から仕事が始まる私にとっては今くらいの時間が帰ってくる時間。


そこからお風呂に入って色々としていれば寝るのは朝方。



「何の仕事だ」



夜に仕事をしていて、髪は明るくネイルもしてあれば大体予想はつくだろうけど。



「キャバクラです」



維月さんはベンチの背もたれにもたれかかって小さく「そうか」だけ言った。


維月さんがここに来て5分は経っただろうか。


誰かと話したい気分でもなかったし、そろそろ帰ろう。



立ち上がって帰ろうとすれば「おい」と言われ、左腕を掴まれた。



軽く振り払おうとしてもその手は離れない。



「なんですか」


「番号」


「嫌です」


「指名欲しくないのか」


「別に」



執拗い男は嫌い。


でも何故か強く振り払えないのはこの人の隣にいてもめんどくさいとか執着のようなものを感じなかったからかもしれない。



「せめて店の名前くらい教えろ。それか名刺」


「随分と上からですね」



それでもやっぱり初対面でこんなに上からものを言われるのはいい気がしない。



維月さんは小さくため息をついた。



「もう一度会える機会が欲しいだけだ」



初めからそう言えばいいのに…


まぁ、見るからに高級そうなスーツを着ているから仕事もそれなりの立場がある人なんだろうけど。



「この近くの繁華街にあるclubROSEクラブローズです」


「明日顔を出す」



その言葉を最後に私は公園を出た。



この時はただお客様が1人増えたとしか思っていなかった。





これが私と維月さんの出会い。

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