君の声が、時間を動かす

凪砂 いる

1.ヒミツの話

 私は、昔から不思議な目をしていると言われる。

 人の心が揺れる瞬間――たとえば、隠したつもりの寂しさとか、言えない気持ちとか。

 そういったものが、なぜか伝わってくる。


 でも、それが私にとってはごくありふれた普通のことで。

 誰でも『なにか伝わってくるもの』があるんだと思っていた。

 それが私の『特別な力』だなんて考えたこともなかった、そう、あの日まで。


 うちのリビングには、昔、父さんが描いた小さな『彼岸花』の絵が飾られている。

 真っ赤で、少しさびしくて、それでいて、なぜかとても温かい――不思議な絵。


 小さい頃、その絵の前で母さんに聞いたことがある。

「ママ、この絵はなに?」


 母さんは、少し笑って私に話してくれた。

「それはね、侑。呪いを越えた証なの。……父さんと母さんの、ちょっと変わったおとぎ話」


「アカシってなに?」


「んーとね、あの絵があるから父さんと母さん、そして侑も、こうして仲良くいられますっていうお守りみたいなものかな」


 その時は、よくわからなかったけど――。

 なんとなく、それは私たち家族にとってとても重要なことのような気がした。


 私の名前は、一ノ瀬 侑いちのせ ゆう

 中学2年生。

 よく『人と少し違う変わった感覚』を持っていると言われるけれど、いまいちピンとこない。


 父さんは画家。家にはアトリエがあって、そこには父さんが描いたたくさんの“不思議な絵”が並んでいる。

 子どもの頃から、その絵を眺めるのが好きだった。それは絵の中にもうひとつ世界があるような生きているような絵。


 もしかしたら、どこかに誰も知らない秘密の世界がひっそり息を潜めてるんじゃないかと。


 そんなことを考えていた、ある日――。

 私は、「彼」と出会った。

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