第31話:旅立ち(最終話)

クロウが旅に出て、三ヶ月が経った。


草原、山、海――


様々な場所を巡った。


「……きれいだな」


クロウは呟く。


風が、優しく吹く。


---


小さな村で、一泊した。


「旅人さんかい?」


宿屋の主人が聞く。


「ええ」


「いいねえ、若いうちに色々見ておくのは」


主人は微笑む。


「大切な場所、見つかるといいね」


「……ええ」


クロウも微笑んだ。


「もう、見つけました」


---


旅を続けた。


川を渡り、谷を越え、都市を訪れた。


市場には人々が集まり、笑っている。


「……平和だ」


クロウは呟く。


「これが、リオが守った世界だ」


---


半年後。


クロウは高い山に登った。


頂上から、世界を見下ろす。


「……遠くまで、来たな」


---


風が、強く吹く。


「リオ」


クロウは呟く。


「お前と、一緒に見たかった」


だが――


すぐに微笑んだ。


「いや、お前は見てるんだよな」


---


山を下り、街道を歩いた。


その時。


「クロウ」


声が聞こえた気がした。


「……!」


振り返る。


だが――


誰もいない。


---


「……そうか」


クロウは微笑む。


「お前は、ここにいるんだな」


心の中に、ずっと。


---


一年が経った。


クロウは、海辺の町に辿り着いた。


青い海が、広がっている。


「……」


砂浜に座り、波の音を聞く。


「これが、海だ」


---


風が、吹く。


優しく、温かく。


「リオが見たがっていた海だぞ」


クロウは呟く。


「お前のおかげで、俺は人として生きているよ」


---


その夜、宿で日記を書いた。


旅の記録。


見た景色、出会った人々。


全てを、書き留める。


「……俺は、もう道具じゃない」


クロウは呟く。


「俺は――語る者だ」


ペンを走らせる。


「自分の物語を、紡ぐ者だ」


---


ある日。


クロウは丘に立った。


夕日が、沈んでいく。


「リオ」


クロウは呟く。


---


「お前がいなければ、俺はただの道具のままだった」


クロウは続ける。


「でも、お前が俺を人にしてくれた」


「……」


「ありがとう」


---


風が、吹く。


まるで、リオが答えているかのように。


「ああ」


クロウは頷く。


「お前も、ありがとうって言ってるんだな」


---


「俺は、これからも旅を続ける」


クロウは呟く。


「色んな場所を見て、色んな人に会う」


「……」


「そして、全部お前に話してやる」


クロウは微笑む。


「いつか、また会えた時に」


---


夕日が、沈む。


空が、茜色に染まる。


「これが、俺たちが守った世界だ」


クロウは呟く。


「美しい世界だ」


---


「俺は、この世界で生きる」


クロウは拳を握る。


「人として、自由に」


「……」


「それが、お前の願いだから」


クロウは微笑む。


「そして、俺の願いでもあるから」


---


クロウは、歩き出した。


新しい道を。


「お前は、いつも俺の傍にいる」


クロウは呟く。


「俺の心に、ずっと」


---


風が、クロウを押す。


前へ、前へ。


「ああ、分かってる」


クロウは微笑む。


「俺は、一人じゃないんだろ」


---


太陽が、昇る。


一歩、また一歩。


「見ていてくれ、リオ」


クロウは微笑む。


「俺が、人として生きる姿を」


---


クロウは、旅を続ける。


終わりのない、旅を。


光を失った影は――


だが、もう闇ではない。


光の想いを胸に――


影は、歩き続ける。


人として。


自由に。


---


## エピローグ


数年後。


クロウは、図書館で本を書いていた。


「影と光の物語」


それが、タイトルだった。


---


ペンを走らせる。


出会い、旅、戦い、別れ。


全てを、書き留める。


「俺は、語る者だ」


クロウは呟く。


「物語を、紡ぐ者だ」


---


窓の外から、風が吹き込む。


優しく、温かく。


「お前も、いつか読んでくれよ」


クロウは微笑む。


「この物語を見守ってくれ」


---


答えは、返ってこない。


だが――


クロウには分かる。


「ああ、お前は笑ってるんだな」


---


そして――


クロウは、また書き始めた。


新しい物語を。


だが、その心には――


いつも、あの光がある。


永遠に。


---


光は消えた。


だが――


影は、光を失っていない。


心の中に、光はある。


それが――


クロウとリオの、物語だった。


---


**暗殺者だけどステータスが勇者より高いので、監視任務のはずが守る側になってました 完結**

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暗殺者だけどステータスが勇者より高いので、監視任務のはずが守る側になってました マスターボヌール @bonuruoboro

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