第30話:別れの時

契約更新の方法を探し始めて、三日が経った。


クロウとリオは、毎日図書館に通った。


古い文献を、片っ端から調べる。


「……これも、違う」


クロウは呟く。


「次だ」


---


リオも、必死に探す。


「何か、ヒントが――」


だが――


見つからない。


「……」


時間だけが、過ぎていく。


---


その日の夜。


リオは、自分の手を見た。


「……え?」


手が、僅かに透けている。


「まさか……」


リオの顔が、青ざめる。


「もう、始まりだした……?」


---


「リオ?」


クロウが気づく。


「どうした」


「……クロウ」


リオは、震える手を見せる。


「これ……」


「……っ」


クロウの表情が、凍りつく。


「リオ……」


クロウは息を呑む。


---


「はは、やっぱり俺消えちゃうみたいだ」


リオの声が、震える。


「……」


「クロウと別れる日が来るんだね」


リオの目から、涙が零れる。


「嫌だなぁ……」


---


「させない」


クロウが、リオを抱き締める。


「絶対に、お前は俺の光なんだ」


「……」


「必ず、方法を見つける」


クロウの声が、震える。


「だから――」


「……」


「諦めるな」


---


翌日。


クロウは、さらに必死に探した。


睡眠も取らず、ただ――


文献を読み漁る。


「どこかに……」


クロウは呟く。


「必ず、あるはずだ……」


---


だが――


どこにも、答えはなかった。


「……くそ」


クロウは拳を握る。


「どこにもない……」


---


リオの体は、徐々に透けていく。


時間が、ない。


「クロウ……」


リオは、クロウを見る。


必死に探すクロウ。


その姿を見て――


リオは、ある決意をした。


---


その日の夕方。


リオは、クロウに言った。


「……クロウ」


「なんだ」


「もう、いいよ」


「……何が?」


クロウが顔を上げる。


「もう、探さなくていい」


リオは微笑む。


「……」


「俺、分かったんだ」


---


「何を言ってる」


クロウが言う。


「まだ、諦めるな」


「諦めるんじゃないよ」


リオは首を振る。


「受け入れるんだ」


「……」


「俺は、元の世界に戻る覚悟を決めたんだ」


リオは続ける。


「それが、正しいことなんだ」


---


「正しい……?」


クロウが聞く。


「そう」


リオは頷く。


「俺は、勇者として召喚された」


「……」


「この世界を、救うために」


リオは続ける。


「そして、救った」


「……」


「なら――」


リオは微笑む。


「役割は、終わったんだよ」


---


「まだ決断するには早い」


クロウが即答する。


「そんな簡単に受け入れるな」


「……」


「俺は――」


クロウの声が、震える。


「お前と、旅がしたい」


「俺もだよ」


リオも答える。


「でも――」


「……」


「これは、抗えないことなんだ」


---


「なら――」


クロウが言う。


「俺が、お前の世界に行く」


「……え?」


「お前の世界に、俺も行く」


クロウは続ける。


「そうすれば、一緒にいられる」


「……無理だよ」


リオは首を振る。


「君は、この世界の人だから」


「……」


「召喚魔法がないと、来られない」


---


「くそ……」


クロウは拳を握る。


「なら、どうすれば――」


「……」


「どうすれば、お前と一緒にいられる」


クロウの声が、震える。


「教えてくれ、リオ」


---


リオは、クロウを抱き締めた。


「……ごめん」


「……」


「でも、これでいいんだ」


リオは続ける。


「君は、この世界で生きるんだ」


「……」


「人として、せっかく自由になったんだからさ」


リオは微笑む。


「それが、俺の願いだ……相棒」


---


「こんなことがあっていいのか」


クロウが答える。


「お前がいない世界で、俺は生きていく自信がない」


「……」


「お前は、俺の――」


クロウの声が、震える。


「俺の、光だった」


その言葉に、リオは――


「……クロウ」


涙を流した。


---


「俺は――」


リオが呟く。


「クロウに、出会えて良かった」


「……」


「本当に、良かった」


リオは続ける。


「君がいてくれたから――」


「……」


「俺は、勇者になれたんだよ」


リオは微笑む。


「クロウがいてくれたから、強くなれた」


---


「リオ……」


クロウの目からも、涙が零れる。


「お前は――」


「……」


「俺の、物語だ」


クロウは続ける。


「お前と出会って、俺は人になった」


「……」


「お前がいなければ――」


クロウは震える声で言う。


「俺は、ただの道具のままだった」


---


「……」


沈黙が流れる。


「いつか、また会えるよ」


リオは続ける。


「きっと」


---


「……本当か?」


クロウが聞く。


「うん」


リオは頷く。


「信じてる」


「……」


「いつか、また――」


リオは微笑む。


「クロウと、会えれるような気がする」


その言葉に、クロウは――


「……ああ」


頷いた。


---


翌日。


リオの体は、ほとんど透明になっていた。


「……もう、時間か」


リオが呟く。


「……ああ」


クロウも頷く。


---


民衆が、集まっていた。


「勇者様……」


老人が前に出る。


「ありがとうございました」


「……」


「あなたのおかげで――」


老人の声が、震える。


「俺たちは、自由になれました」


---


「いいえ」


リオは首を振る。


「みんなの力です」


「……」


「みんなが、立ち上がったから」


リオは微笑む。


「この国は、変われたんです」


その言葉に、民衆は――


涙を流した。


「勇者様の銅像を建てます」


「勇者様を忘れないように」


「他の村にも協力してもらって」


リオは微笑む。


「それは恥ずかしいな」


---


「アレクシス」


リオが呼ぶ。


「……ああ」


アレクシスが前に出る。


「世話になった」


「こちらこそ」


リオは微笑む。


「ありがとう、アレクシス」


「……」


「君は、いい戦友だった」


その言葉に、アレクシスは――


「……お前もな。光を示してくれてありがとう」


微笑んだ。


---


「そして――」


リオは、クロウを見る。


「クロウ」


「……ああ」


クロウも前に出る。


二人は、向き合う。


「……ありがとう」


リオが言う。


「クロウがいてくれて、本当に良かった」


「……」


「君は、俺の――」


リオの声が、震える。


「一番大切な、親友だ」


---


「リオ……」


クロウの目から、涙が零れる。


「お前も、俺の――」


「……」


「一番大切な、親友だ」


クロウは続ける。


「ずっと、忘れないからな」


「……」


「お前のこと、絶対に」


その言葉に、リオは――


「……うん」


微笑んだ。


---


その時――


リオの体が、光を放った。


「……あぁ、タイムオーバーのようだね」


リオが呟く。


「……」


「さよなら、みんな」


リオは民衆を見る。


「元気でね」


---


「さよなら、アレクシス」


リオはアレクシスを見る。


「この国を、頼んだよ」


「……ああ」


アレクシスは頷く。


「任せろ。立派な騎士になるよ」


---


「そして――」


リオは、クロウを見る。


「さよなら、クロウ」


「……」


「クロウと過ごした時間――」


リオの声が、震える。


「あっちに戻っても一生、忘れない」


---


「待て」


クロウが、リオに駆け寄る。


「まだ、言いたいことが――」


だが――


光が、強くなる。


リオの体が、消えていく。


「クロウ……」


リオが微笑む。


「ありがとう」


「……」


「くどいようだけど、クロウと出会えて――」


リオの声が、遠くなる。


「本当に、良かった」


---


「リオ!」


クロウが叫ぶ。


「まだ、行くな!」


「……」


「まだ、行かないでくれ!」


クロウは続ける。


「お前と、もっと――」


だが――


光が、リオを包み込む。


---


「……クロウ」


リオの声が、聞こえる。


「君は、この世界で生きてほしい」


「……」


「人として、自由に」


リオは続ける。


「それが、俺の願いだ」


「……」


「そして――」


リオの声が、さらに遠くなる。


「いつか、また会おう」


---


「……ああ」


クロウは涙を流しながら――


「また、会おう」


叫んだ。


「絶対に、また――」


---


光が、弾けた。


そして――


リオは、消えた。


---


広場に、静寂が訪れた。


誰も、何も言わない。


ただ――


クロウが、その場に立ち尽くしていた。


「……リオ」


クロウは呟く。


「行ってしまった……」


---


涙が、止まらない。


「……くそ」


クロウは拳を握る。


「一緒に旅をしたかった……」


「……」


「お前と、もっと――」


クロウの声が、震える。


「話したかった……人の心を取り戻したのに」


---


アレクシスが、クロウの肩に手を置く。


「……クロウ」


「……」


「辛いだろうが――」


アレクシスは続ける。


「リオは、望んで行った」


「……」


「お前のために」


アレクシスは続ける。


「お前が、この世界で生きるために」


---


「……分かってる」


クロウは答える。


「でも――」


「……」


「辛い」


クロウは涙を拭う。


「こんなに、辛いなんて……」


---


その夜。


クロウは、一人で屋上にいた。


星が、輝いている。


「……リオ」


クロウは呟く。


「お前は、どこにいる」


「……」


「元の世界で、元気にしてるのか」


---


風が、吹く。


優しく、温かく。


「……」


まるで、リオが――


そこにいるかのように。


「……ありがとう、リオ」


クロウは微笑む。


「お前のおかげで、俺は人になれた」


「……」


「だから――」


クロウは拳を握る。


「俺は、生きてみるよ。この世界で」


---


「人として、自由に」


クロウは続ける。


「それが、お前の願いなのだから」


「……」


「そして――」


クロウは空を見上げる。


「いつか、また会おう」


「……」


「その時は――」


クロウは微笑む。


「お前に、色んな話をしてやる」


「……」


「俺が見た、色んな景色を」


---


翌朝。


クロウは、民衆の前に立った。


「……俺は」


クロウが言う。


「この国を、出ることにした」


「……え?急になんで?」


民衆がざわめく。


「クロウさんも……?」


---


「ああ」


クロウは頷く。


「リオと、約束したんだ」


「……」


「一緒に、旅をするって」


クロウは続ける。


「だから、俺は――」


「……」


「その約束を、果たす」


クロウは微笑む。


「リオの分まで、色んな景色を見る」


---


「止めはしないよ」


老人が前に出る。


「なら、俺たちは――」


「……」


「あんたを、送り出す」


老人は微笑む。


「行ってらっしゃい、クロウさん」


「……」


「そして――」


老人は続ける。


「いつか、帰ってきてくれ、ここはあんたの居場所がある」


「……ああ」


クロウも微笑む。


「必ず」


---


民衆が、拍手する。


「行ってらっしゃい!」


「元気でね、クロウさん!」


「また、会いましょう!」


その声に、クロウは――


「……ありがとう」


深々と頭を下げた。


---


クロウは、旅支度を整えた。


剣、荷物、そして――


リオとの思い出。


「……行くか」


クロウは呟く。


「リオ」


「……」


「お前の分まで――」


クロウは微笑む。


「俺は、生きる」


---


クロウは、王都の門を出た。


振り返る。


民衆が、手を振っている。


アレクシスも、手を振っている。


「……またな」


クロウは呟く。


「また、いつか」


---


そして――


クロウは、歩き出した。


新しい世界へ。


リオとの約束を果たすために。


人として、自由に生きるために。


---


光は、消えた。


だが――


影は、まだ歩いている。


光の想いを胸に。


光との約束を胸に。


それが――


クロウの、新しい物語だった。


---


### 次回予告(最終話)


クロウは、一人で旅に出た。


色んな場所を巡り――


色んな景色を見た。


そして――


ある日、クロウは気づく。


「……リオ」


「お前は、ここにいる」


「俺の心に、ずっと」


**第31話「旅立ち」(最終話)**


物語は、終わる――そして、また始まる。

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