第29話:新たな世界
王国が終わり、一ヶ月が経った。
王都では、新しい制度が作られていた。
「この法律は、どうでしょうか」
民衆の代表が、リオに相談する。
「いいと思います」
リオは頷く。
「でも、もう少し――」
リオは提案する。
「民衆の意見を、聞いてみてください」
「分かりました」
代表は微笑む。
「勇者様のおかげで、俺たちは前に進めます」
---
リオは、それを見て安心していた。
「みんな、頑張ってる」
リオは呟く。
「……」
「もう、俺がいなくても――」
だが――
その言葉を、最後まで言えなかった。
---
クロウは、民衆と共に働いていた。
「クロウさん、これお願いします」
「ああ」
クロウは荷物を運ぶ。
「重くないですか?」
「平気だ」
クロウは微笑む。
「これくらい、何でもない」
---
民衆は、クロウを信頼していた。
かつての暗殺者は――
今では、英雄の一人だった。
「クロウさん、ありがとうございます」
「いや」
クロウは首を振る。
「俺も、この国の一員だからな」
その言葉に、民衆は嬉しそうに笑った。
---
その日の夕方。
クロウとリオは、屋上にいた。
「……疲れたね」
リオが呟く。
「ああ」
クロウも頷く。
「でも、いい疲れだ」
「……うん」
リオは微笑む。
「みんな、本当に頑張ってる」
---
「国が、変わってきた」
クロウが言う。
「民衆が、自分たちで決めている」
「……」
「それが、一番いい」
クロウは続ける。
「誰かに支配されるんじゃなくて」
「……」
「自分たちで、作っていく」
クロウは空を見上げる。
「それが、本当の国だ」
---
「クロウ」
リオが言う。
「なんだ?」
「この国、もう大丈夫だと思う」
「……ああ」
クロウも頷く。
「民衆は、強い」
「……」
「もう、俺たちがいなくても――」
「……」
「やっていけるだろう」
---
「うん」
リオも頷く。
「だから――」
「……」
「そろそろ、旅に出ようかと思ってさ」
リオは続ける。
「約束したしね」
「ああ」
クロウは微笑む。
「お前と、色んな場所を見て回る」
「……」
「楽しみだ」
---
翌日。
リオは、民衆に伝えた。
「近いうちに――」
リオの声が、広場に響く。
「俺とクロウは、この国を出ます」
「……え?」
民衆がざわめく。
「勇者様が……?」
「どういうことですか……?」
---
「この国は、もう大丈夫です」
リオは続ける。
「皆さんなら、必ずやっていけます」
「……」
「だから――」
リオは微笑む。
「俺たちは、旅に出ます」
「……」
「新しい世界を、見に行きます」
---
民衆は、しばらく黙っていた。
だが――
やがて、一人が言った。
「……そうですか」
老人が前に出る。
「勇者様も、自由に生きる権利がある」
「……」
「なら、俺たちは――」
老人は微笑む。
「送り出します」
「ありがとう、と言って」
---
その言葉に、民衆も頷いた。
「そうだ」
「勇者様、ありがとうございました」
「クロウさんも」
「……」
「俺たちを、救ってくれて」
民衆が、深々と頭を下げる。
---
リオは、涙ぐんだ。
「……みんな」
「……」
「ありがとう」
リオは続ける。
「俺も、みんなに救われた」
「……」
「本当に、ありがとう」
---
その夜。
クロウとリオは、部屋にいた。
「……あと、何日したらここを出る?」
クロウが聞く。
「そうだね」
リオは考える。
「あと一週間くらい?」
「……」
「それまでに、色々片付けよう」
リオは続ける。
「みんなが困らないように」
「ああ」
クロウも頷く。
---
だが――
その時。
リオの表情が、曇った。
「……クロウ」
「なんだ?」
「実は――」
リオは言葉を詰まらせる。
「……」
「どうした?」
クロウが聞く。
---
「もうすぐ――」
リオは呟く。
「俺は、ここにいられなくなる気がする」
「……何だと?」
クロウが目を見開く。
「どういうことだ」
「……」
「分からない」
リオは首を振る。
「でも、そんな気がするんだ」
「……」
「まるで――」
リオは続ける。
「何かに、引き寄せられているような」
---
「引き寄せられている……?」
クロウが聞く。
「ああ」
リオは頷く。
「勇者として、この世界に来た時と同じ」
「……」
「あの感覚が、また――」
リオの声が、震える。
---
「待て待て待て」
クロウが言う。
「それじゃあ――」
「……」
「お前は、消えるのか?」
クロウの声が、強くなる。
「この世界から」
「……分からない」
リオは答える。
「でも、もしかしたら――」
「……」
「元の世界に、戻るのかもしれない」
---
「何だと……?」
「……」
「せっかく――」
クロウの声が、震える。
「一緒に、旅をしようって決めた矢先に」
---
「ふざけているのではないのだな」
「ごめん」
リオが呟く。
「俺も、クロウと旅をしたかったけどさ」
「……」
「でも――」
リオは続ける。
「もし、本当に消えるなら」
「……」
「抗えないかもしれない」
その言葉に、クロウは――
「……くそ」
拳を握った。
---
「でも」
リオが言う。
「まだ、決まったわけじゃない」
「……」
「もしかしたら、気のせいかもしれない」
リオは微笑む。
「だから――」
「……」
「今は、この時を楽しもう」
リオは続ける。
「残された時間を、大切にさ」
---
クロウは、しばらく黙っていた。
だが――
やがて、頷いた。
「……分かった」
「……」
「なら、俺は――」
クロウはリオを見る。
「お前との時間を、全部覚えておく」
「……」
「忘れないように」
クロウは続ける。
「お前が、どこに行っても」
---
「……ありがとう」
リオは微笑む。
「俺も、クロウを忘れないよ」
「……」
「絶対に」
「ここまで育ててくれてありがとう」
「馬鹿野郎。まだ早いだろ」
その夜はお互いに称えあっていた。
---
翌日。
クロウとリオは、民衆と共に働いた。
いつも通りに。
だが――
二人の心には、不安があった。
別れの予感。
それが、徐々に強くなっていく。
---
「クロウさん、大丈夫ですか?」
民衆が聞く。
「ああ」
クロウは笑顔を作る。
「平気だ」
「……」
「少し、疲れただけだ」
だが――
その笑顔は、どこか寂しげだった。
---
リオも、同じだった。
「勇者様?」
民衆が声をかける。
「あ、ごめん」
リオは我に返る。
「どうしたんですか?」
「……いや」
リオは首を振る。
「何でもない」
---
だが――
リオの心は、揺れていた。
「……本当に、消えるのかな」
リオは呟く。
「この世界から」
「……」
「クロウと、離れ離れになるのかな」
その不安が――
胸を、締め付ける。
---
その日の夕方。
アレクシスが、二人を訪ねてきた。
「……聞いたぞ」
アレクシスが言う。
「リオが、消えるかもしれないと」
「……ああ」
リオは頷く。
「まだ、確かじゃないけどさ」
「……」
「そんな気がするんだ」
---
「勇者の役割が、終わったからか」
アレクシスが呟く。
「……え?」
「お前は、勇者として召喚された」
アレクシスは続ける。
「この世界を、救うために」
「……」
「その役割が終われば――」
アレクシスは真っすぐにリオを見る。
「元の世界に、戻されるのかもしれない」
---
「やはりか……」
クロウが呟く。
「なら、どうすればいい」
「……」
「リオを、ここに留める方法は――お前なら知ってるのではないのか?」
「ない」
アレクシスは首を振る。
「それは、この世界の法則だ」
「……」
「抗えない」
---
「くそっ」
クロウが言う。
「そんなの、受け入れられない」
「……」
「せっかく、人に戻りこれからってときに」
クロウの声が、震える。
「俺はリオに恩返しをしていない」
「……」
リオは黙って聞いている。
---
「クロウ」
リオが、拳を突き出す。
「……」
「まだ、決まったわけじゃないから」
リオは続ける。
「もしかしたら、ずっとここにいられるかもしれない」
「……」
「だから――」
リオは微笑む。
「今、この時を大切にしようぜ。相棒。」
---
「……そうだな」
クロウも頷く。
「お前は強いな」
「今を、大切に」
クロウも拳を出し重ねた。
---
その夜。
クロウとリオは、屋上にいた。
星が、輝いている。
「きれいだね」
リオが呟く。
「ああ」
クロウも頷く。
「……」
「この景色を、忘れない」
クロウは続ける。
「お前と見た、全ての景色を」
---
「俺も」
リオも呟く。
「君と過ごした時間を、全部」
「……」
「忘れない」
リオは続ける。
「たとえ、離れ離れになっても」
「……」
「クロウは、俺の心にいる」
その言葉に、クロウは――
「……ああ」
微笑んだ。
---
「でも、まだ諦めない」
クロウが言う。
「……」
「お前を、ここに留める方法を探す」
クロウは続ける。
「絶対に、見つける」
「……クロウ」
「だから――」
クロウはリオを見る。
「まだ、別れを受け入れるな」
「……」
「俺たちは、一緒にいられる」
クロウは拳を握る。
「必ず」
---
リオは、クロウを見て――
微笑んだ。
「……わかったよ」
「『諦めるな』お前の言葉だったな」
「じゃあ、信じようかな」
リオは続ける。
「俺たちが、ずっと一緒にいられるって」
「ああ」
クロウも頷く。
---
翌日。
クロウは、図書館に行った。
古い文献を、調べる。
「勇者の召喚について……」
クロウは呟く。
「何か、手がかりが――」
---
だが――
どの文献にも、明確な答えはなかった。
「……くそ」
クロウは歯を食いしばる。
「何もないのか……」
---
その時――
古い羊皮紙が、目に入った。
「これは……」
クロウは、それを手に取る。
そこには――
勇者の契約について、書かれていた。
---
「契約……?これか!」
クロウは読み進める。
「勇者は、世界との契約によって召喚される」
「……」
「その契約が、完了すれば――」
クロウの目が、見開かれる。
「元の世界に、戻される」
---
「やはり……」
クロウは呟く。
「リオは、消える」
「……」
「でも――」
クロウは続きを読む。
「契約を、改ざんする方法がある」
「……!」
「それは――」
---
だが――
そこで羊皮紙は、破れていた。
「……くそ」
クロウは拳を握る。
「続きが、ない……」
---
クロウは、リオのもとに戻った。
「リオ」
「クロウ?どうした?」
「……見つけた」
クロウは答える。
「お前を、ここに留める方法を」
「……本当?」
リオの目が、輝く。
「ああ」
クロウは頷く。
「契約を、改ざんすればいい」
「……」
「だが――」
クロウは言葉を詰まらせる。
「その方法が、分からない」
---
「……そうなんだ」
リオは少し考えてから――
「なら、探そう」
微笑んだ。
「一緒にさ」
「……ああ」
クロウも頷く。
「必ず、見つける」
---
新しい世界が、動き出した。
だが――
別れの予感も、強くなっていた。
リオが、消えるかもしれない。
その不安を抱えながら――
二人は、希望を探し続ける。
まだ、諦めない。
一緒にいるために。
---
### 次回予告
契約を更新する方法を探す、クロウとリオ。
だが――
時間は、容赦なく過ぎていく。
リオの体が、徐々に透けていく。
「クロウ……俺、消えちゃうのかな」
「させない」
クロウは、リオを抱き締める。
「絶対に、お前を失わない」
そして――
二人は、最後の答えを見つける。
**第30話「別れの時」**
――希望を、探し続ける。
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