第26話:光の導き

魔王兵器を倒してから、三日が経った。


王都では、新たな体制作りが始まっていた。


民衆による、民衆のための――


新しい国。


リオは、その中心にいた。


「勇者様、この件についてですが――」


「はい」


リオは、民衆の相談に答える。


一つ一つ、丁寧に。


「ありがとうございます、勇者様」


「いえ、当然のことです」


リオは微笑む。


---


だが――


その傍らで、クロウは――


「……っ」


壁にもたれ、苦しそうに息をしていた。


---


「クロウ?」


アレクシスが気づく。


「大丈夫か?」


「……ああ」


クロウは無理に笑顔を作る。


「少し、疲れただけだ」


「……」


だが、アレクシスには分かった。


クロウの体が、限界に近いことを。


刻印が、全身を覆っている。


顔も、首も、手も――


全てが、黒く染まっていた。


「……クロウ」


「大丈夫だ」


クロウは繰り返す。


「心配するな」


---


その時――


クロウの足が、崩れた。


「……っ!」


「クロウ!」


アレクシスが駆け寄る。


だが――


クロウは、その場に倒れた。


「クロウ――!」


---


リオが、気づく。


「クロウ?」


リオも駆け寄る。


「しっかりして!」


だが――


クロウは、意識を失っていた。


「嘘だ……」


リオの顔が、青ざめる。


「クロウ……クロウ――!」


---


クロウは、部屋に運ばれた。


ベッドに寝かされる。


リオが、治癒魔法をかける。


だが――


効果がない。


「どうして……」


リオの手が、震える。


「治らない……」


「……」


「クロウ……」


リオの目から、涙が零れる。


「起きてよ……お願いだから……」


---


「リオ」


アレクシスが声をかける。


「少し、休め」


「嫌だ」


リオは首を振る。


「クロウの傍にいる」


「……」


「離れたくない」


リオの声が、震える。


「俺がいない時に――もしものことがあったら俺は後悔する」


アレクシスは、深く溜息をつく。


「……分かった」


「……」


「だが、無理はするな」


アレクシスは続ける。


「お前が倒れたら、意味がない」


「……うん」


リオは頷く。


「ありがとう、アレクシス」


---


アレクシスは、部屋を出る。


リオは、一人――


クロウの傍に座る。


「……クロウ」


リオは、クロウの手を握る。


冷たい。


リオの涙が、止まらない。


「約束したじゃんかよ……」


---


その夜。


リオは、眠らずにクロウの傍にいた。


「……なぁ、クロウ」


リオは呟く。


「覚えてるかな?」


「……」


「初めて会った時のこと」


リオは続ける。


「君は、無表情で――」


「……」


「怖かった」


リオは微笑む。


「でも、優しかった」


---


「クロウは、いつも俺を守ってくれてさ」


リオは続ける。


「魔物から、王国から――」


「……」


「そして、俺の心も」


リオの声が、震える。


「クロウがいてくれたから、俺は前を向けたんだぜ」


「……」


「だからさ――」


リオは、クロウの手を強く握る。


「今度は、俺がクロウを守りたい」


「……」


「絶対に、助けたい」


リオは涙を拭う。


「だから、諦めないで、目を覚ましてよ」


---


翌朝。


リオは、民衆の前に立った。


広場には、多くの人々が集まっていた。


「みなさん」


リオの声が、響く。


「今日、お願いがあります」


「……」


「クロウが――」


リオの声が、震える。


「クロウが、倒れました」


民衆がざわめく。


「え……」


「暗殺者が……?」


「どういうことだ……?」


---


「クロウは――」


リオは続ける。


「ずっと、俺たちを守ってくれました」


「……」


「命を削って、戦い続けてくれました」


リオの目から、涙が零れる。


「だから――」


「……」


「お願いします」


リオは、深々と頭を下げる。


「クロウのために、祈ってください」


---


その言葉に――


民衆は、動いた。


「……分かりました」


老人が前に出る。


「俺たちも、祈ります」


「……」


「暗殺者……いや、クロウのために」


老人は続ける。


「あの人は、俺たちを守ってくれた」


「……」


「なら、今度は――」


老人は拳を握る。


「俺たちが、あの人を助ける番だ」


---


民衆が、手を合わせる。


祈る。


クロウの回復を。


クロウの生を。


その想いが――


一つになる。


---


その時――


リオの体が、光を放った。


「……え?」


【勇者リオ】

レベル:97

攻撃力:950

防御力:870

魔力:1020


「レベルが……」


「民衆の想いが、お前を強くしている」


アレクシスが言う。


「だが――」


「……」


「その力を、クロウに」


アレクシスは続ける。


「お前の力を、分け与えろ」


---


「分け与える……?」


リオが聞く。


「ああ」


アレクシスは頷く。


「治癒魔法では、刻印は治らない」


「……」


「だが、お前の生命力なら――」


アレクシスは続ける。


「もしかしたら」


「……」


「クロウを、救えるかもしれない」


その言葉に、リオは――


「やる」


即答した。


「俺の全てを、クロウに」


---


リオは、クロウの部屋に戻る。


ベッドに横たわるクロウ。


その傍らに、座る。


「クロウ」


リオは、クロウの手を握る。


「今、俺の力を――君に渡す」


「……」


「だから――」


リオは目を閉じる。


「受け取って」


---


リオは、魔力を集中させる。


自分の生命力を、クロウに流し込む。


光が、リオから溢れ出す。


そして――


クロウへと、注がれる。


「……っ」


リオの顔が、苦痛に歪む。


自分の生命を削る、痛み。


だが――


「……平気だ」


リオは歯を食いしばる。


「クロウのためなら」


---


やがて――


クロウの体に、変化が現れた。


刻印が、僅かに薄くなる。


「……!」


リオは目を見開く。


「効いてる……」


「……」


「もっと……」


リオは、さらに力を注ぎ込む。


「もっと……!」


---


だが、その時――


リオの体が、崩れた。


「……っ」


力を使いすぎた。


リオは、その場に倒れる。


「……クロウ」


リオは、かすれた声で呟く。


「助けて……あげられなくて……」


「……ごめん……」


そして――


リオも、意識を失った。


---


どれくらい時間が経ったか。


リオは、声で目を覚ました。


「……リオ」


それは――


クロウの声だった。


「……え?」


リオは目を開ける。


そこには――


クロウが、座っていた。


「クロウ……?」


---


「……起きたのか」


クロウは微笑む。


「良かった」


「クロウ……」


リオの目から、涙が零れる。


「良かった……本当に、良かった……」


「……」


「目を覚ましてくれて……」


リオは声を上げて泣いた。


---


「お前、無茶しすぎだ」


クロウは、リオの頭を撫でる。


「自分の命を削って、俺を助けようとするなんて」


クロウは続ける。


「危なかったんだぞ」


「……ごめん」


リオは涙を拭う。


「でも、君を助けたかったから」


「……」


「君を、失いたくなかったから」


その言葉に、クロウは――


「……ありがとう」


微笑んだ。


---


「刻印は?」


リオが聞く。


「……少し、良くなった」


クロウは胸を見る。


刻印は、まだ全身を覆っている。


だが――


以前よりは、色が薄くなっていた。


「お前の力のおかげで、な」


「……」


「まだ完全じゃないが――」


クロウは続ける。


「もう少し、持ちそうだ」


その言葉に、リオは――


「……良かった」


安堵の息をついた。


---


「でも、リオ」


クロウが言う。


「もう、無茶はするな」


「……」


「お前が倒れたら、意味がない」


クロウは真っすぐにリオを見る。


「約束してくれ」


「……うん」


リオは頷く。


「約束する」


「……」


「でも、クロウも約束してくれ」


リオは続ける。


「諦めないってことを」


「……ああ」


クロウも頷く。


「諦めないさ」


---


だが――


クロウの心の中では、不安があった。


刻印は、まだ進行している。


リオの力で一時的に抑えられたが――


完全に止まったわけではない。


「……」


いずれ、また暴走する。


その時は――


「……」


クロウは、窓を見上げる。


でも、今は――


この時間を、大切にしよう。


リオと、共にいる時間を。


---


翌日。


民衆が、クロウとリオを訪ねてきた。


「クロウさん、無事だったんですね」


老人が微笑む。


「……ああ」


クロウは頷く。


「心配をかけたようだな」


「いえ」


老人は首を振る。


「あなた達は、俺たちの英雄じゃ」


「……」


「だから、これからも――」


老人は続ける。


「生きてくだされや」


その言葉に、クロウは――


「……ああ」


微笑んだ。


「生きる。みんなのためにも」


---


光が、影を導いた。


リオの想いが、クロウを救った。


だが――


まだ、終わりではない。


刻印は、まだクロウを蝕んでいる。


完全な救済は――


まだ、先だ。


だが、今は――


二人は、共にいる。


それだけで、十分だった。


---


### 次回予告


クロウは一時的に回復した。


だが――


刻印は、まだ進行していた。


そして、ある日――


刻印が、最終段階に入る。


全身が黒く染まり、意識が遠のく。


「もう、駄目だ……」


だが、リオは――諦めない。


「君は、人だ」


「だから、生きていい」


その言葉が――


奇跡を起こす。


**第27話「刻印の最終段階」**


影は、光によって――救われる。

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