第15話:魔王の影
戦闘は、激しさを増していた。
クロウ、リオ、アレクシスの三人は、王国軍と戦い続けていた。
「はあっ!」
リオの剣が、兵士を薙ぎ払う。
クロウの短剣が、敵の武器を弾く。
アレクシスの魔法が、敵陣を吹き飛ばす。
三人の連携は完璧だった。
だが――
「……数が、多すぎる」
クロウが呟く。
倒しても、倒しても――
次々と、新たな兵士が現れる。
「このままじゃ、消耗する」
アレクシスが言う。
「どうする?」
---
その時、クロウの胸に痛みが走った。
「……っ!」
刻印が、再び疼く。
「クロウ?」
リオが心配そうに声をかける。
「……大丈夫だ」
クロウは首を振る。
だが――
刻印の痛みは、止まらなかった。
激しい戦闘。高まる感情。
それが、刻印を刺激している。
「くそ……」
クロウは歯を食いしばる。
今は、倒れるわけにはいかない。
---
「もう一度、突破を試みる」
クロウが言う。
「このまま消耗するよりは――」
「待って」
リオが遮る。
「クロウ、無理してるよね?」
「……」
「顔色が悪い。刻印が、また――」
「問題ない」
クロウは言い切る。
「まだ、戦える」
「でも――」
その時、新たな敵部隊が現れた。
「増援だ!」
「くそ……」
三人は、再び戦闘態勢に入る。
---
だが、クロウの動きが鈍っていた。
刻印の痛みが、体を蝕んでいる。
「クロウ、後ろ――!」
リオが叫ぶ。
兵士の剣が、クロウに迫る。
クロウは反応が遅れた。
避けられない――
その瞬間、
「させるか!」
リオが飛び込んだ。
リオの剣が、兵士の剣を弾く。
「……リオ」
「大丈夫?」
リオはクロウの前に立つ。
「君は、下がってて」
「だが――」
「俺が、守るから」
リオは真っすぐにクロウを見る。
「今度は、俺の番だ」
---
リオは、クロウを庇いながら戦った。
剣を振るい、魔法を放ち――
必死に、敵を食い止める。
「はあっ!」
だが、敵は次々と襲いかかる。
リオの体力も、限界に近づいていた。
「くっ……」
その時、アレクシスが叫んだ。
「こっちだ!」
「何?」
「城の地下に、隠し通路がある!」
アレクシスが指差す。
「そこから、逃げられる!」
「……」
リオは、クロウを見る。
「行こう、クロウ」
「……ああ」
---
三人は、城内へと駆け込んだ。
追手が、後ろから迫る。
「急げ!」
アレクシスが先導する。
廊下を抜け、階段を下り――
やがて、地下へと辿り着いた。
「ここだ」
アレクシスが、壁を押す。
隠し扉が開き、狭い通路が現れた。
「入れ!」
三人は、通路に滑り込む。
扉が閉まり――
追手の足音が、遠ざかっていく。
---
「……ふう」
リオは、安堵の息をつく。
「助かった……」
「まだ、油断するな」
アレクシスが言う。
「奴らは、すぐに気づく」
「……ああ」
リオは頷く。
そして――
クロウを見る。
彼は、壁にもたれて座り込んでいた。
「クロウ!」
リオが駆け寄る。
「大丈夫?」
「……ああ」
クロウは苦しそうに笑う。
「少し、疲れただけだ」
「嘘だ……」
リオは、クロウの顔を見る。
刻印が、顔のほとんどを覆っている。
「また、悪化してる……」
---
「すまない」
クロウが呟く。
「足手まといに、なった」
「何言ってるの」
リオは首を振る。
「クロウは、ずっと俺を守ってくれてたじゃないか」
「……」
「今度は、俺が君を守る番だ」
リオは微笑む。
「だから、休んでなって」
その言葉に、クロウは――
「……ありがとう」
小さく呟いた。
---
「少し、この場所を探索する」
アレクシスが言う。
「何か、使えるものがあるかもしれない」
「うん、頼む」
リオは頷く。
アレクシスは、通路の奥へと進んでいった。
---
リオは、クロウの隣に座る。
「……ねえ、クロウ」
「なんだ?」
「刻印って、どうやったら止まるの?」
「……分からない」
クロウは首を振る。
「前は、過去を受け入れたら止まった」
「……」
「でも、今回は――」
クロウは胸を押さえる。
「感情が高ぶると、また暴走する」
「じゃあ……」
リオは不安そうに眉をひそめる。
「戦えば戦うほど、悪化するってこと?」
「……ああ」
クロウは頷く。
「だから――」
「だから、何?」
「……いや」
クロウは視線を逸らす。
「何でもない」
---
その時、アレクシスが戻ってきた。
「おい、これを見ろ」
「何?」
「地下室がある。そこに――」
アレクシスの表情が険しい。
「王国の記録が、山ほどある」
「記録……?」
「ああ。魔王創造計画、勇者召喚の真実――」
アレクシスは続ける。
「全てが、書かれている」
その言葉に、リオとクロウは顔を見合わせた。
「……行こう」
クロウが立ち上がる。
「それを、確認する必要がある」
「でも、クロウの体――」
「大丈夫だ」
クロウは微笑む。
「これくらいなら、動ける」
---
三人は、地下室へと向かった。
そこは、広い部屋だった。
壁一面に、棚が並んでいる。
そして、その棚には――
無数の書類が、積まれていた。
「これは……」
リオは息を呑む。
「王国の、記録庫か」
「ああ」
アレクシスが頷く。
「禁術の研究記録、政治的機密――」
「……全てが、ここにある」
---
リオは、一つの書類を手に取る。
『魔王創造計画・実験記録』
それを開くと――
「……酷い」
リオの顔が、歪む。
そこには、人体実験の記録が書かれていた。
何人もの人間が、実験台にされた。
魔力を注入され、体を改造され――
魔物へと変えられた。
「これが……」
リオは震える声で言う。
「王国が、やってきたことなのか」
「……ああ」
アレクシスが答える。
「俺も、その一人だった」
---
クロウは、別の書類を手に取る。
『勇者召喚計画・目的と方法』
それを開くと――
「……やはり、な」
そこには、こう書かれていた。
『勇者召喚の目的:
1. 魔王討伐という名目で、民衆の支持を得る
2. 勇者を英雄として祭り上げ、王国の正当性を示す
3. 必要に応じて、勇者を排除する』
「……排除、だと?」
リオが呟く。
「勇者を、排除する……王国が?」
「ああ」
クロウは頷く。
「お前が、王国の方針に従わなければ――」
「……」
「排除される。それが、計画だった」
その言葉に、リオは――怒りを覚えた
---
「俺は……」
リオの声が、震える。
「俺は、ただの――駒だったのか」
「……」
「利用されて、捨てられる――そのための、駒」
リオは書類を握りしめる。
「なんて、酷いんだ……」
その時、クロウがリオの肩に手を置いた。
「リオ」
「……」
「お前は、駒じゃない」
クロウは言う。
「王国がどう思っていようと――お前は、お前だ」
「……」
「前にも言ったと思うが、お前が救った人々は、本物だ」
クロウは続ける。
「それを、忘れるな」
その言葉に、リオは冷静になる。
「……うん、わかってる」
小さく頷いた。
---
「この記録を――」
リオは書類を見つめる。
「世界に、伝えなきゃ」
「……」
「王国の真実を。魔王の真実を」
リオは書類を握る。
「みんなに、知ってもらわなきゃ」
「だが――」
アレクシスが言う。
「これを公開すれば、王国は必死で止めにくる」
「分かってる」
リオは頷く。
「でも、やるしかない」
「……」
「真実を隠し続けることは――できない」
リオは真っすぐに二人を見る。
「俺は、これを世界に伝える」
その決意に、クロウは――微笑んだ。
「……そうだな」
---
「なら、まずは――」
クロウが言いかけた時、
地下室の扉が開いた。
「見つけたぞ!」
王国の兵士たちが、なだれ込んでくる。
「くそ――」
「逃げるぞ!」
アレクシスが叫ぶ。
リオは、手当たり次第に書類を掴む。
「これを、持っていく!」
「急げ!」
三人は、別の出口へと駆け出した。
---
地下通路を抜け、三人は森へと逃げ込んだ。
追手の声が、遠くから聞こえる。
「……まだ、追ってくる」
「このままじゃ、捕まる」
「どうする?」
その時、クロウが言った。
「……分かれよう」
「え?」
「俺が囮になる」
クロウは続ける。
「その間に、お前たちは逃げろ」
「待って――」
リオが反論しようとする。
だが、クロウは――
「リオ、頼む」
真剣な顔で言った。
「その記録を、世界に伝えてくれ」
「……」
「それが、俺たちにできることだ」
---
「……分かった」
リオは、涙を堪えながら頷く。
「でも、絶対に――」
「ああ」
クロウは微笑む。
「また、会おう」
「……約束だよ」
「ああ。約束だ」
二人は、拳を合わせる。
そして――
クロウは、追手の方へと走り出した。
「クロウ――!」
リオの叫びが、背中に届く。
だが、クロウは振り返らなかった。
---
「……行くぞ、リオ」
アレクシスがリオの腕を引く。
「でも――」
「クロウの覚悟を、無駄にするな」
「……」
リオは、クロウの背中を見つめる。
そして――
「……うん」
涙を拭い、走り出した。
---
アレクシスとリオは、森の奥へと消えていった。
手には、王国の記録。
それが――
世界を変える、鍵になる。
---
一方、クロウは追手を引きつけていた。
「こっちだ――!」
兵士たちが、クロウを追う。
クロウは、わざと姿を見せながら逃げる。
「……これで、いい」
リオたちを、逃がせた。
それだけで――
「……十分だ」
クロウは、木の陰に隠れる。
追手の足音が、遠ざかっていく。
---
だが、その時――
クロウの胸に、激しい痛みが走った。
「……っ!」
刻印が、また暴走する。
「くそ……」
クロウは、その場に倒れた。
「まだ、倒れるわけには……」
だが、体が動かない。
視界が、霞む。
「……すまない、リオ」
クロウは呟く。
「約束を、守れそうにない……」
---
そして――
クロウの意識は、暗闇に沈んでいった。
---
### 次回予告
記録を手にしたリオとアレクシス。
だが、クロウは倒れた。
二人は、決断する。
「クロウを、助けに行く」
そして、再び王国へ。
だが、そこで待っていたのは――
王国の最高権力者、そして――
クロウを捕らえた、冷酷な真実。
**第16話「闇の記録」**
真実は、さらなる闇を照らす。
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