第11話:王国の矛盾

新たな任務が下った。


「西の村で、魔王の配下が暴れている。討伐せよ」


重臣の命令は、いつも通り簡潔だった。


「了解しました」


クロウとリオは、すぐに出発した。


---


道中、リオが不安そうに呟く。


「最近、魔王の動きが激しいね」


「……ああ」


「何か、狙いがあるのかな」


「分からない。だが――」


クロウは続ける。


「違和感がある」


「違和感?」


「魔王の配下は、明らかに無差別に攻撃している」


クロウは眉を顰める。


「まるで――何かから注意を逸らそうとしているようだ」


「……」


リオも、その言葉に考え込む。


「クロウは、何か知ってるの?」


「いや。だが――」


クロウは視線を逸らす。


「この国には、何か隠されている気がする」


---


村に到着すると、そこは既に廃墟と化していた。


家々が焼かれ、人々が倒れている。


「酷い……」


リオが息を呑む。


「急ごう」


二人は駆け出す。


---


村の中央で、デーモンが暴れていた。


「また、あいつか」


クロウが短剣を抜く。


「お前は村人の避難を。俺が時間を稼ぐ」


「分かった。気をつけて」


リオは駆け出す。


クロウは、デーモンに向き合った。


---


「また来たか、暗殺者」


デーモンが嗤う。


「前回は運が良かったな。だが、今回は――」


「黙れ」


クロウが飛び込む。


短剣が閃き、デーモンの腕を切り裂く。


「ぐっ……!」


「お前に、聞きたいことがある」


クロウが言う。


「何だ?」


「なぜ、村を襲う」


「……は?」


「魔王の目的は、何だ」


クロウの問いに、デーモンは――笑った。


「知らないのか?」


「……」


「お前たち、王国に騙されているんだぞ」


その言葉に、クロウは――眉をひそめる。


「どういう意味だ」


「教えてやろう。魔王は――」


だが、その時――


デーモンの体が、突然崩れ始めた。


「な、何だ……?」


「……これは」


デーモンの体が、黒い霧となって消えていく。


「くそ……呪いか……」


デーモンは、苦しそうに呻く。


「王国め……口封じを……」


そして――完全に消滅した。


---


「……口封じ?」


クロウは呟く。


今の現象は、明らかに異常だった。


まるで――


デーモンが何かを話そうとした瞬間、殺されたかのように。


「王国が、魔王の配下に呪いをかけた……?」


「いや、それとも――」


クロウの脳裏に、不穏な予感が走る。


「まさか……」


---


村人を避難させた後、クロウとリオは王城へ戻った。


だが、クロウは重臣への報告をせず――


セルヴァンのもとへ向かった。


「セルヴァン」


「どうした、クロウ」


「聞きたいことがある」


クロウは真剣な顔で言う。


「魔王について、お前は何か知っているか」


「……」


セルヴァンの表情が、僅かに曇る。


「なぜ、そんなことを聞く」


「今日、魔王の配下と戦った」


クロウは続ける。


「そいつは、何かを話そうとした瞬間――消滅した」


「……」


「まるで、口封じをされたかのように」


その言葉に、セルヴァンは――深く溜息をついた。


「……やはり、気づいたか」


「何を知っている」


「クロウ」


セルヴァンは真剣な顔で言う。


「お前、本当に真実を知りたいのか?」


「……ああ」


「知れば――お前は、王国を裏切ることになる」


「構わない」


クロウは即答する。


「俺は、もう決めた。真実が何であれ――俺は、リオを守る」


---


セルヴァンは、しばらく沈黙していた。


そして――


「……分かった」


小さな包みを取り出す。


「これを、見ろ」


「何だ?」


「王国の機密文書だ。俺が、盗み出した」


クロウは、文書を開く。


そこには――


『魔王生成計画』


という文字があった。


「……これは」


「読めば、分かる」


クロウは、文書を読み進める。


そして――


「……嘘だろ」


愕然とした。


---


文書には、こう書かれていた。


『魔王は、王国が生み出した兵器である』


『目的:戦争の継続による軍事力の強化、および民衆の統制』


『方法:禁術を用いた人造魔物の生成』


『状態:制御不能。現在、独立行動中』


「……」


クロウは、言葉を失った。


魔王は――


王国が作り出したものだった。


「なぜ……」


「分かるだろう」


セルヴァンが言う。


「戦争があれば、王国は軍備を拡大できる」


「……」


「民衆を恐怖で支配できる」


「……」


「そして――勇者を召喚して、英雄譚を作れる」


セルヴァンの声が、冷たく響く。


「全ては、王国の思惑通りだ」


---


「だが、計画は失敗した」


セルヴァンは続ける。


「魔王は制御を外れ、独立した」


「……」


「今、魔王は王国に復讐しようとしている」


「復讐……」


「ああ。自分を作り出した者たちに、な」


その言葉に、クロウは――拳を握る。


「つまり――」


「魔王は、被害者だ」


セルヴァンは断言する。


「そして、勇者も――王国に利用されている」


「……くそ」


クロウは壁に拳を叩きつける。


「何もかも、嘘だったのか」


「ああ」


「正義も、英雄譚も――全部、茶番だったのか」


「そうだ」


セルヴァンの声が、静かに響く。


「この国は、腐っている」


---


「……リオに、伝えるべきか」


クロウが呟く。


「それは、お前が決めろ」


セルヴァンは言う。


「だが、知れば――彼も苦しむぞ」


「……」


「勇者として召喚された意味が、失われる」


「……分かっている」


クロウは拳を握る。


「だが、嘘をつき続けることは――できない」


「……そうか」


セルヴァンは、クロウの肩を叩く。


「なら、お前の好きにしろ」


「……ああ」


クロウは、文書を懐に入れた。


---


その夜。


クロウは、リオを王城の屋上に呼んだ。


「どうしたの?急に」


リオが不思議そうに聞く。


「……話がある」


「話?」


「ああ」


クロウは深く息を吸い込んでから、言った。


「リオ。お前に、真実を伝える」


「真実……?」


「王国について。そして――魔王について」


その言葉に、リオは――真剣な顔になった。


「……何があったの」


「聞いてくれ」


クロウは、文書を取り出す。


「これを、見ろ」


---


リオは、文書を読み進める。


最初は、困惑した表情。


やがて、驚愕。


そして――


「……嘘だろ」


愕然とした。


「魔王は、王国が作った……?」


「ああ」


「俺は、利用されていた……?」


「……」


リオは、その場に座り込む。


「じゃあ、俺は――何のために、ここにいるんだ」


その声が、震えていた。


「勇者として召喚されたのは――王国の茶番のためか」


「……」


「俺が守ろうとしていたものは――嘘だったのか」


リオの拳が、震える。


クロウは――その隣に、膝をついた。


---


「リオ」


「……」


「お前が守ろうとしたものは、嘘じゃない」


クロウは言う。


「王国が嘘をついていても――お前が救った人々は、本物だ」


「……」


「お前が流した涙も、お前が守った笑顔も――全部、本物だ」


クロウは続ける。


「それを、忘れるな」


その言葉に、リオは――顔を上げた。


「クロウ……」


「お前は、利用されたかもしれない」


クロウは真っすぐにリオを見る。


「だが、お前がしてきたことは――本物だ」


「……」


「だから、誇れ」


その言葉に、リオの目から――涙が零れた。


「……ありがとう」


リオは、涙を拭う。


「君がいてくれて、本当に良かった」


「……」


「一人だったら、俺は――きっと、折れてた」


リオは微笑む。


「でも、君がいるから――俺は、まだ前を向ける」


その言葉に、クロウも――微笑んだ。


「……ああ」


---


「ねえ、クロウ」


「なんだ?」


「俺たち、これからどうする?」


リオの問いに、クロウは――少し考えてから答えた。


「……まず、真実を確かめる」


「真実?」


「ああ。魔王が本当に王国の産物なのか」


クロウは続ける。


「そして、魔王が何を求めているのか」


「……」


「それを知った上で――俺たちは、選ぶ」


「選ぶ……?」


「誰を守るのか。何のために戦うのか」


クロウはリオを見る。


「王国のためじゃない。俺たち自身の意志で」


その言葉に、リオは――力強く頷いた。


「……うん。そうだね」


リオは拳を握る。


「俺たちは、俺たちのために戦う」


「……ああ」


「誰かに言われたからじゃなく――俺たちが、そうしたいから」


その言葉に、クロウは――微笑んだ。


「……そうだ」


---


「じゃあ、まずは――」


リオが言いかけた時、


足音が聞こえた。


「誰だ」


クロウが振り返る。


そこには――


騎士が数人、立っていた。


「勇者リオ、暗殺者クロウ」


騎士の一人が言う。


「王国への反逆の疑いで、拘束する」


「……」


クロウは、短剣に手をかける。


だが――


「待って、クロウ」


リオが制止する。


「ここで戦ったら、俺たちが悪者になる」


「……」


「今は、従おう」


リオの言葉に、クロウは――短剣から手を離した。


「……分かった」


---


二人は、地下の牢に連れて行かれた。


「なぜ、俺たちが……」


リオが問う。


「王国に反逆の意志を持ったからだ」


騎士が冷たく言う。


「監視は、常にしていた」


「……」


「お前たちの会話も、全て聞いていた」


その言葉に、クロウは――舌打ちする。


「くそ……」


「大人しくしていろ。裁判は、明日だ」


騎士たちは、去っていった。


---


牢の中。


クロウとリオは、並んで座っていた。


「……ごめん、クロウ」


「何が」


「俺が、真実を知りたいって言ったから――」


「違う」


クロウは首を振る。


「これは、俺が選んだことだ」


「……」


「後悔は、していない」


その言葉に、リオは――微笑んだ。


「……そっか」


「……」


「じゃあ、俺も後悔しない」


リオは拳を握る。


「俺たちは、真実のために戦う」


「……ああ」


クロウも頷く。


「たとえ、世界を敵に回しても」


---


その時、牢の扉が開いた。


「誰だ」


クロウが警戒する。


だが、現れたのは――


セルヴァンだった。


「……セルヴァン」


「時間がない。逃げろ」


「え?」


「王国は、お前たちを処刑するつもりだ」


セルヴァンの言葉に、二人は愕然とする。


「裁判は、茶番だ。結論は、最初から決まっている」


「……」


「だから、今のうちに逃げろ」


セルヴァンは、牢の鍵を開ける。


「でも、君はどうするの」


リオが聞く。


「俺は、大丈夫だ」


セルヴァンは微笑む。


「お前たちを逃がした罪は――後で何とかする」


「……」


「行け。早く」


---


クロウとリオは、地下通路を抜けて王城を脱出した。


「……これで、俺たちは」


リオが呟く。


「ああ」


クロウは頷く。


「王国の、敵だ」


「……」


二人は、夜の闇に消えた。


---


王国を裏切った、影と光。


これから、彼らは――


真実を求めて、戦い続ける。


誰のためでもない。


自分たちの意志で。


---


### 次回予告


王国を脱出したクロウとリオ。


二人は、逃亡者となった。


追手から逃げながら、真実を探る日々。


そして、クロウは決断する。


「俺は、お前を守る。王国の命令じゃなく――俺の意志で」


任務と感情の、最終決戦。


**第12話「影の選択」**


影は、自らの道を選ぶ。

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