第2話  いつもの君

ノートパソコンに文字を叩き込む。来週に出す、小説の原稿だ。

時間もあまりないのでこっそり学校に持ってきてるということは内緒にしておこう。

「新作は、順調か?」

次の文に悩んでいると、涼夜が声をかけてきた。

「少し声を小さくして。ここ声響くんだから。」

声を細めながら私が注意すると、涼夜はごめん、ごめんと悪気もなさそうに謝った。

私が作業部屋として使っている空き教室は、元々風紀委員会の部室だった。

部員が少なく、もう今では廃部となって活動はしていない。

「涼夜は試験の勉強できたの?」

「うん。美羅に手伝ってもらってる。」

と文字や図形がびっしり書かれたノートを見せてきた。

「美羅」っていうのは、涼夜のクラスメイトらしく超可愛い名前の男の子のこと。

私もつい最近家に遊びに行ったことがあるけれど、根はいい人なんだよな〜。

なんて考えていると、涼夜が拗ねた声で文句を言った。

「ねえ、俺の話聞いてる?華。」

「ああごめん、ちょっと考え事。何?」

「だから。小説のネタ、俺手伝うよ?」

手伝うって言ってもねー。

それから数分後。涼夜が考えてくれたネタを元に書いた文を見て呟く。

「んー。まあこれで良いか」

独り言を言っていると、涼夜が反論してきた。

「これで良いかって、テキトーだなぁ」

はぁ涼夜って、すーぐ拗ねるんだよね。涼夜のお母さん、よくここまで育てたなぁ

午後の授業も始まるし、そろそろ教室に戻るか。

「涼夜、教室に戻ろ」

「おけ」

少しも面白くない雑談をしながら、廊下を歩いていると部活の部長が歩いてきた。

「華さん。集合かかってますよ」

「うそ、ごめんなさい。放送聞いてませんでした」

正直に伝えると、部長は「良いでしょう」と私を許してくれた。

「ごめん涼夜。ちょっと部活行ってくる。」

そう伝えると、「頑張れよ」と言ってくれた。涼夜の応援の言葉にキュンとする。

私は笑顔で「頑張ってきまーす」と手を振った。

ちなみに私が所属しているのは吹奏楽部。担当の楽器はサックスだ。

理由は一目惚れで、中学の頃からやっていて後輩にも頼られている。

集合をかけたのは来月にある演奏会のことについてだった。

「サックスは主旋律の時、前に出てきて下さい。トローンボーンは…」

顧問の先生の説明を聞きながら、小説のことを考える。

「各パートリーダーは、考えて練習して下さい」

「は、はい!」

やけに元気に返事をしてしまい、部員に笑われる。

「元気がいいですね。その調子で本番も頑張って下さいね」

「はい…」

恥ずかしい……

「あの、高野さん」

同じパートの雪ちゃんが楽譜を見せてきた。高野というのは私の苗字。

ちなみに涼夜の苗字は秋野だ。

「ん?何、雪ちゃん」

「ここの音って、フラットですか?」

「うん、そうだよ。ここでナチュラルね」

雪ちゃんは、「ありがとうございます」とお礼を言って音楽室から出ていった。

(私もそろそろ戻ろう)

そう思った時、音楽室の前に誰かが立っていた。

「涼夜!?」

何でここに居るの…先戻っててって言ったのに。

涼夜は私に気付くと、「あっ」と声を漏らした。

「何でいるの?」

「これ、忘れてたから」

涼夜の手にあったのは、私が大事にしている小説だった。

「ありがとう…助かった」

涼夜はそれを聞いて、「どういたしまして」と小説を渡した。

「教室一緒にいこ」

「別のクラスだけどね。それより美羅くんは?元気にしてる?」

涼夜は不満そうに、私の質問に答える。

「元気だよ。相変わらず、連続で休みだけど」

美羅くんは、ここの所体調がすぐれず学校を何週間か休んでいるらしい。

今日は放課後に何もないので、お見舞いに行こうと思った。

「そっか。大丈夫かな」

「アイツなら大丈夫だろ」

鼻で笑いながら言う涼夜は少し元気がなかった。

まあ、明日にはピンピンだろう。





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