#2 S級ダンジョン

「――いやあ、すまない。まさかあんな所に落とし穴があったとは」


 頭に手を当てて俺に謝るのは、ダン対(=ダンジョン対応戦隊)の宇藤うどうさんだ。

 俺――破瀬はせ鋼侍こうじは、いまA級ダンジョンの入口で無事にダン対の方々と合流を果たしていた。


 俺はダンジョンの配信施工せこう員。

 このダンジョンで一部のカメラが故障していたので、ダン対の隊員5名を護衛に交換修理に来ていたのだ。


「――しかし、私が言うのもなんだが、よく無事だったね。かなりモンスターがいてたと思うんだが……」

「そうですか? ほとんど見かけませんでしたけど」


 俺はすっとぼけた。

 実際には見かけたけど、モンスターに見つかる前にさっさと逃げて来たのだ。だが、そう話すと面倒なことになる気がするので、こんなときはウソをつくことにしている。


 俺の探索者資質はE級だ。一般人よりはマシだが、本来は活動期のA級ダンジョンを1人でうろつくのは自殺行為だ。……実際には、全く危険は感じなかったが。


 ちなみに、ダン対――ダンジョン対応戦隊というのは、国が持ってるダンジョン対策のための戦闘部隊だ。

 警察の特殊部隊みたいなもんかな。

 創設初期には、自衛隊の中から探索者資質を持つ者をかき集めて部隊を作ったんだとか。


「なるほど……。君は稀有けうな幸運の持ち主のようだ」

「この仕事のときぐらいっすけどね。役に立ってるの」


 そういうことにしておいた。


 探索者ランクで言うと、宇藤さんともう1人がA級、ほか3名がB級とのことだった。

 A級ダンジョンということもあって、なかなか手厚い護衛だった。……落とし穴に落ちてたけど……。


「いいじゃないか。命あっての物種ものだねだよ」


 と、宇藤さん。


 ダンジョン内で護衛の方々とはぐれた後、手際よくカメラの交換を終えた俺は1人で地上を目指すことにした。

 その場で待っているとモンスターにおそわれそうだったので、仕方なくだ。

 ――なんとなく勝てそうな気もしたんだが、まともな武器も持ってないし、わざわざ危ない橋を渡ることはない。




 宇藤さん達とは現場で別れ、俺は機材等を置きに最寄もよりの管理局の事務所に戻った。

 ブルブルと仕事用のケータイがふるえたのはそんなときだ。Dフォンという、探索者が使うものと同じ頑丈がんじょうなスマホが配信施工員にも支給されている。


 見れば、電話の着信だった。


「破瀬です」

『あ、ハセ君。お疲れさま』


 電話を掛けてきたのは、東京都のダンジョンを束ねるエリア統括の津川つがわさんだ。

 俺の担当地域のマネージャーより上の立場の人なのだが、なぜか最近、直接のやりとりが増えていた。


 ……嫌な予感がする。


「何かありました?」

『察しがいいわね……。仕事が終わったばかりで本当に申し訳ないんだけど、今からもう1件頼めるかな?』


 そんなことだろうと思った。


「また修理ですか?」

『そうなのよ。最近トラブルが多くて』


 津川さんのため息が聞こえてきた。

 俺は腕時計で時刻を見る。午後4時か……。


「いいですよ。どこのダンジョンですか?」

『……龍ノ顎りゅうのあぎとダンジョンよ』

「え゙っ」


 変な声が出た。


 龍ノ顎ダンジョン――それは、日本に5つしかないS級ダンジョンの1つの名前だった。

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