三十三夜 お邪魔虫は消えニャイト
イヴァン・グロズヌイ
ドカン王国の雷神と呼ばれ
その爪は空を引き裂き
その足は迅雷の如く
その瞳は万里を望むものなり
「あ⋯⋯ゔぅ、あぁ゙⋯⋯」
これがその雷神にゃ。
「ノックスさん、本当にいいの?」
「全部使ってくれにゃ。俺にはこんにゃことしか出来にゃーにゃ」
「そんにゃ、ノックスさんはいつもよくしてくれているじゃにゃいですか」
「父さんや母さんが孤児だった俺を拾ってくれてた恩は、もっと大きいにゃ。そして、本当の兄弟のように接してくれた兄貴には、感謝しかにゃいにゃ。にゃのに俺は兄貴を義姉さんに押しつけて、ほっつき歩いているにゃよ。ろくでもにゃーと責めてくれていーにゃ」
ぎゅ。
「そんにゃことにゃいわ。ノックス。そんにゃことにゃい。アナタはとても仁義に厚い猫ですにゃ。このまま、アナタの思うように生きてくださいにゃ⋯⋯私は、私の思うように、ちゃんと生きていますから、ね?」
アーリャさん。こんにゃにいい猫が、兄貴とこんにゃかたちでしか一緒ににゃれにゃーにゃんて⋯⋯!!
どうか! 今度こそ!!
アーリャさんがチュールを匙に乗せて兄貴の口元に運んだ。
匙に乗せたチュールを全て呑み込んだ兄貴。
⋯⋯。
「どうにゃ?」
⋯⋯。
ダメ⋯⋯にゃのか? また、ダメ、だったのか!?
⋯⋯。
だが、これまでとは明らかに違う。まず、うめき声がおさまった。それに、虚ろだった瞳に光が戻っている。そんにゃ気がするのだが⋯⋯しかし。
⋯⋯。
ダメ、か。
「義姉さん⋯⋯俺、また、何か探して来ますから、どうか、落ち込まない──」
「──イヴァン!」
っ!? アーリャさんが兄貴に抱きついた。
「義姉さん!?」
「イヴァン! イヴァン! 私! アーリャよ! わかる!?」
アーリャさん、兄貴はまだ⋯⋯。焦る気持ちは痛いほどわかるけど。
「義姉さん、兄貴は──」
「だ⋯⋯れ?」
「兄貴!?」
「君は、だれ?」
記憶がにゃい!?
「⋯⋯障害は治ったが記憶までは、そう言うこと、にゃのか?」
「イヴァン! いい。それでもいいわ! 意識が戻った、それだけで私は⋯⋯うぅ、イヴァン!」
アーリャさんが兄貴を抱きしめる。
「アー⋯⋯リャ? 君の名前、アーリャ?」
「そう! そうよ、私がアーリャ。あにゃたの婚約者のアーリャよ!」
「ゴメン、何も思い出せにゃいよ。でも、不思議だにゃ? にゃんだか、懐かしい匂いがするにゃ」
「あは、コレね? あにゃたの好きなマリーローズの花の香り。花言葉は『変わらぬ想い・永遠の愛』よ。あにゃたがプロポーズの時に教えてくれたの!!」
義姉さんが絶え間なく兄貴の部屋の窓際に飾っていた花だ。そんにゃエピソードがあったにゃんて、よほど兄貴の事が好きだったのだろう。いや、今さら疑う余地もにゃいが、これほど兄貴を想ってくれる人がいるにゃんて、兄貴は幸せ者にゃ。
「僕が君にプロポーズを? こんにゃ美しい人が僕の婚約者だなんて⋯⋯ははは。まるで夢を見ているようだよ。覚めなければいいのだけれど⋯⋯」
「覚めないわ! 私はずっと、ここにいたんですもの。ずっと、ここであにゃたを待っていたんですもの。もう二度と、夢だにゃんて言わせにゃいわ!?」
「そうか、アーリャ。ただいま。待たせたね? ごめんよ⋯⋯」
「いいえ、いいえ、いいのよ、イヴァン。これからはずっと一緒にゃんですもの!!」
抱き合うふたり。
そうにゃね。記憶より確かにゃものがふたりの間にはあるにゃ。きっとこれから、新しいふたりの時間を作ってゆくんにゃろう。
「良かったにゃ。ふたりとも、お幸せに!」
お邪魔虫は消えるにゃね。
「ノックスさん!」
「ん?」
アーリャさんが走ってきて、ガバと俺を抱きしめた。
「ありがとう!!」
「⋯⋯ふ、いいにゃよ。ふたりが幸せにゃら、それで」
「ううん、本当にありがとう、ノックス!! 結婚式には必ず出席してね!?」
「ああ。約束するよ。ん、兄貴のこと、よろしくお願いしますにゃ」
「うん、ノックス、あにゃたのことも心配だわ? 絶対に無理をしちゃだめよ?」
「ははは、義姉さんは心配性だぜにゃ」
グイッ! 両手で、頬を強く挟むのやめれ。
「心配するわよ。あにゃたは私たちの大切にゃ家族ですもの!」
⋯⋯かにゃわにゃいぜ、義姉さんには。俺が孤児だってこと、ちゃんと解ってるんにゃね。
「ありがとよ! 義姉さん、早く兄貴との子供の顔、見せてくれよな!」
「もう! ノックスったら!!」
真っ赤に赤面しちゃって、ウブにゃね!
「にゃあ、行くぜにゃ!!」
「「にゃ!」」
兄貴、良かったぜにゃ。
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