十五夜 覆面じゃニャイト

 オークションハウスはニャトル大聖堂の地下にある。地下に作られたオペラ座のような空間に、世界各国から集まったバイヤーたちが集う。ゴテゴテ着飾った猫が集まるのかと思っていたにゃが、そこは偽装工作が成されているみたいで、皆一様にフードを深く被った修道服を来ている。

 にゃが、お粗末と言うべきか、そのブクブクと太った恰幅は、隠そうとしても隠しきれにゃいようにゃ。


「今夜の目玉にマヌル族が出品されるそうですにゃ。にゃんとか落札して隷属契約させ、愛玩動物として飼いたいものですにゃ」

「にゃふふふふ。ボクチンがでったいに落札してやるんだにゃ! マヌルちゃん、メタメタにして可愛がってやるんだにゃ!」

「坊ちゃま。先日落札したトイガー族の小娘はどうなされたのですにゃ?」

「ふんっ! あんにゃのもう使い物ににゃらにゃいにゃ! 鉄の森に捨ててきてもらったんだにゃ!」


 くっ⋯⋯猫をモノでも捨てるかのように!


 俺も修道服を着て潜入していたが、話を聴いているだけでも吐き気を催してくるにゃ。得にこのブタのように肥えたどこぞの国の貴族のボンボンは、タコ糸をグルグルに巻いて、グツグツ煮込んで、浮き上がってきた自分の脂で揚げ焼きにして、丸焦げにしてやりたいにゃ。


「大変長らくお待たせ致しました。本日は遠いところお集まりいただきありがとうございますにゃ。皆さん既にお耳に入っていると思われますが、本日の目玉は『マヌル族』のメスの仔猫キティでございます。どうぞ素晴らしいハイ・エスティメート(高値)を期待しておりますにゃ。それでは皆さん、お楽しみ下さいませ!」


 オークショニアが壇上にあがり、開会を宣誓すると盛大な拍手とともにオークションが始まった。

 宝石、アーティファクト、希少素材、モンスターとわけのわからない値段で落札されてゆく。ん? モンスター? 猫身売買だけじゃなく、魔物まで扱ってやがるのか。こんにゃもの街で暴れたらどうすんにゃ? それにどうやってこんな街中まで運び込んだにゃ?


「さあ皆さん、『マヌル族』の次に目玉とも呼べる、ロットナンバー126番『ドラゴンファング』の子どもの登場ですにゃ! 竜種の血を引く狼、それがドラゴンファング。この銀色の見事な鬣とドラゴン譲りの角と牙はその証にゃ! リザーヴ価格(最低価格)は五億プスからとなります!」

「五億五千」

「五億六千!」

「六億!」

「六億五千」

「七億!」

「七億五千」

「⋯⋯」

「七億五千、七億五千、他にはおりませんか?」

「九億!」


 おお〜!! 会場がどよめく。


「九億が出ました! 九億、他にはおりませんか!?」


 ⋯⋯。


「はい、九億プスでハンマープライス!!」


 パチパチパチパチパチパチ⋯⋯。

 本日の最高値にゃ。つまり『マヌル族』はそれを超えてくるにゃ。オルガがいくら集めるつもりだったか知らにゃーが、ここにいる奴らを出し抜ける気がしにゃーにゃ。


 会場がざわめき始める。


 ついに目当ての登場にゃ。買い取り手続きのために席を立つものも出始めた。それに紛れて俺も席を立ったにゃ。


 会場内には複数人の衛士が常時監視している。場内で何かあっても制圧できるだけの人員が用意されているにゃ。バイヤー席にいては迂闊な動きは出来にゃいと言うわけにゃ。とにゃれば策戦はひとつにゃ。


 会場はちょうど大礼拝堂の真下に位置していて、大礼拝堂の真上は大鐘楼となっているにゃ。


 さて、ひと暴れするにゃ!


「さあさあ皆さん! 本日の大目玉、マヌル族のメスの仔猫キティの登場です! リザーヴ価格は二百億にゃ!!」


「三百!!」

「おおっといきなり三百まで跳ね上がりましたよ!? 三百、三百、他には──」


 ──キン!→ズドン!

 礼拝堂の足元を円形に斬り落とす。

 ちょうど教壇の上にゃ。

 用意しておいた煙幕をばら撒く。

 すかさずマヌルを抱えてベルトに固定。


「しっかり掴まるにゃ」

「きゃあっ!!」

「なんだ!? 賊か!?」

「煙で何も見えん!! 衛士! マヌルを守れ!」

「遅いにゃ!」


 シュルルッ────→カキン!

 ワイヤー付きのロケットフックを射出。


 ヒュ──────ン⋯⋯スタ!

 リールを一気に巻き上げて脱出。

 大礼拝堂に着地。

 見おろした会場は大混乱にゃ。


「ニャハハハハハハハハハハ! 怪傑マーベル参上! 娘はいただいた! サラバにゃっ!」

「なんだ、あの怪しい覆面猫は!?」


 ヒュルルッ────→カキン!

 先ほどのフックを更に上に射出。


「おっと、忘れていたぜにゃ」


 ギュン─────→ザシュ!

 スローイングダガーでドラゴンファングの首輪を斬った。既に猫族より大きにゃ体躯。隷属の首輪じゃなくて良かったにゃ。


「ガルルル⋯⋯」

「お前なら逃げられるよにゃ?」

「ガウッ!」


 ⋯⋯今のは返事かにゃ? おっと、俺も脱出しなくちゃ逃げれなくなっちみゃー。


「いたぞ! 捕まえろ!!」

「ニャハハハハハハ! 捕まえるにゃら捕まえてみろにゃ! んべぇ!」


 ダ──────ン⋯⋯シュタッ!


「クソっ! 上だ、追い込め!!」


 ふっ

 そろそろ月が真上に来る頃にゃ?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る