第11話(A-11)
どうせ、つきあえないのなら2
(マリン&レイvs リュウジ)
(ラップ1)
楽屋に入ったときから、マリンのヤツは、
やたら機嫌悪いまま、
ステージに上がっても、まだ、ブツブツ言ってる
何か?あれの日か?
一番、前列の席には、まだ若いのに、
杖持ってる、中年。
演奏してるのに、腕組みし、爆睡してる。
いつも、来ている、下級生の美人。
僕のこと、全く、無視している。
マリンの方、ばっか、憧れている、
まなざしで、眺めている。
その横には、ミッションスクールの制服の、
いつもの通学電車で、見かける、
謎の有機生命体Xと、僕が呼んでる女。
こいつも僕を無視して、なぜかマリンを
にらみまわしていて、
クソッ!誰も僕のこと、見てやしない。
「DV.女!」
歌うマリンに、客席の中から、
タイバンのバンドのやつらが、ヤジとばし、
どっ!と高笑い。
マリンは歌うのを、途中でやめると、
トークを、しだした。
(ラップ2)マリン
子供のころ、猿に頭噛みつかれ泣いてたら、
ママに猿と絶対、眼合わせちゃ、いけませんって
言われてた。
なのにさ、クソッ!今、眼を合わせちゃった。
つい、さっき、頭が悪すぎの、チンパンジーの
臭い、おぞましい指に、顔をまさぐられ、
オスのむきだしの欲望の、吐き気、もよおす、
気色悪い感触、身体中、はいまわり、
もう死にそう。
そういや、思い出した。この間、友達が、
電車に乗ったとき、からっぽの車輌に、
彼女と、朝鮮学校の美少女の女子高生と、
離れた席に二人きり、前方の車輌のドアが開き、
若い男が入って来る。
急に美少女の前に立ち止まり、
その顔をのぞきこみ、
自分の顔の両頬に、親指をくっつけて、
指はみな、パーに、おっぴろげて、
大声で「バ~!」と怒鳴り、
彼女を死ぬほど、震え上がらせた。
そのまま、黙って、何事もなかったかのように、
隣の車輌に行っちゃったかと思ったら、
そのドアが開いた。
また戻って来た。その時、初めて、
私の友達もいたのに気づいた。
男は二人を無視した。そのまま、
次の車輌に消えて行った。
私の言いたいのは、つまり、
猿は一番、無防備な、殴り返せない、
弱者、狙い、噛みつくのよ!
クソよ!クソ野郎なのよ、臆病者だから、
女の子が恐いから、まともにぶつかれないから、
攻撃するのよ、
かわいそうなくらい、憐れな、小っちゃい、
プライド燃やし、うざい、チョカイだし、
女だからって、なめてかかって、いじめちゃって
怖くて震え上がるの、見て、喜ぶのよ。
女を何だって、思ってんのよ!この猿!
(ラップ3)レイ
マリンが、怒りの涙流し、にらみあうヤツの
顔が真っ赤になり、怒り狂い、
ステージに、乱入し、
俺は止めに入り、つかみあいになり、
二人とも床に倒れこんだ。
馬乗りになり、殴りあい、
何だ?この野郎、見かけ倒しかよ、
すげえ弱っちい。
あの女、何?やらかしてくれたんだい、
「このDV 女!」
「誰がDV女だ!」
マキのモデルみたいな、長い足が伸びて来て、
見さかいなしに、二人とも蹴りつけられ、
「やめろ!おまえのことじゃない! おまえもだけど
おまえは僕の猿のトラウマだけど、」
サトルはピアノで、コンバットマーチ弾きだし
シンゴは父親に、買ってもらったばかりの、
新品のドラム、傷つかないよう、かばってる。
マリンは遠く離れてて、
「やれ~、やっちまえ!殺しちまえ」って、
わめいてて、
うれしいね、友情って、素敵。
マリンのさっきの話、何のことだか、
まるっきり、わからない。
だいたい、マリンの頭に噛みついた猿の、
昔のトラウマに、何でこの野郎が、
怒ってんのかが、わからない。
「何か?おまえも、あれの日か?
男にだってメンスが、あればいいのよ!
メンスのつらさ、痛みが、あんたにわかるの?」
叫びながら、殴りあってると、
「こいつ、バカだ!俺は今、
バかに殴られてるんだ、バカがロックやるな」
「バカじゃなきゃ、ロックなんかやるか!」
「なんだ、自分がバカの自覚はあるんだ。」
ヤバい!この野郎の仲間が、乱入してくる、
その時、
「この騒ぎは何だ?
おまえ達、何やってんだ!」
まずい、ライブハウスのオーナーが、
血相を変えて現れて、 ごまかさなきゃ。
「これ、演出なんです。
みんな、仲良しグループなんです。」
リュウジがうなずく。「そうそう。」
オーナーがつぶやく。
「そうか、おまえ、鼻血、垂らしてるぞ。」
ふと、見ると、客席の下級生の美少女は、
心配そうに、マリン見つめ続け、
謎の有機生命体Xは、マリンのこと、
にらみ続けてるが、どいつもこいつも、
僕を見てない。鼻血垂らしてるのに。
杖のおっさんは、まだ眠ったままだ。
いったい、こいつは何しに来てんだ?
ライブハウス出るとき、謎の有機生命体X、
あたり、うろついていたが、
僕と眼と眼があうと、蹴つまづき、
片足で、ぴょん、ぴょん、跳びはねると、
その場で、立ち止まると、振り返ると、
そこに、まるで、石ころでも、
転がってるかのように、じっと、
地面をずっと、見つめ続けている。
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