――静かに沈み、静かに輝く物語。
- ★★★ Excellent!!!
まるで祈るように読んでしまう短編小説です。
『水に沈めば人魚になれる』という一文から始まり、現実と幻想、死と美、生と執念が静かに交錯していく。
この作品の魅力は、決して恐怖や悲劇だけで終わらせないところにあります。
結核に蝕まれた乙女が『とつくに』や『わだつみ』といった異界に憧れ、人魚へと変わっていく過程は、逃避ではなく、ひとつの“生き方”として描かれている。
その筆致は凛としていて、死をも美学として受け止める強さがある。
幻想譚でありながら、描かれるのは痛いほど人間的な孤独と美への渇望。
「変わる」ことの苦しさ、そして「美しくありたい」という祈りが、泡となって海へ昇る最後の場面に結晶しています。
読後には、静かな余韻が長く残る。
古典的でありながら新しい“美の死生観”を描いた美しい幻想物語です。