8-3
「クラッシュ。スマホが開いたぞ。『チーム』の連絡先はこれだ」
「流石だ」
クラッシュは勢いを付けて立ち上がり、ハックの元へ行く。
「じゃあ、UXを呼んで……」
「もう来てるわよ」
UXがちょうど部屋へ来たところだった。
「ラッキーだったわね、クラッシュ」
「ラッキー……まあそうだが……。新人くん、これが君の見習うべき人格かもしれないぜ」
いつもは言い淀まないクラッシュも流石に閉口する。
「あら、お友達は失くしたかもしれないけど、もう二度と会えないかもしれなかったレディへの手掛かりが手に入ったんでしょう? 物事は前向きに考えるべきよ」
「俺じゃなかったら殴られてるぜ、UX。会えないなんて縁起でもないことも言うんじゃない」
新人は涙も引っ込んでこの舌戦に目を白黒させるばかりだ。UXもトロッコ問題のレバーを引くことに一切の躊躇を持たないといったところか。しかしクラッシュも、さっきに比べると元気を取り戻したようにも見えるので人間味のある対応とどちらがいいのか新人には分からなくなった。
「私こそ貴方じゃなかったら殴り返すわよ。さて、無駄話はここまで。電話を掛けてみましょうか」
職員たちはにわかにざわめく。
「うまく『チーム』の下っ端じゃなく話の分かる上層部が出れば、人質の交換交渉が始まるだろうな」
「そうね。だから向こうはレディの場所は絶対に知られたくないだろうけど。逆探知できるよう、なるべく引き伸ばすわ」
「それと、テレビ電話でレディを映すよう交渉してくれないか。少しでも長く」
「任せて」
UXは自分の居場所が相手に分からないよう、何の特徴もない壁の前に立った。職員たちはテレビ電話の映像がスクリーンに流れるようスマホと接続し、クラッシュたちはスクリーンを食い入るように見つめる。
「逆探知、用意できてます!」
職員の声に、UXは画面の電話番号をタップした。
トゥルルルルル。トゥルルルルル。
通話音は室内に共有され、部屋は息も忘れるほどの緊張感で満たされる。
プツッ、と音が途切れ、男の声がした。
〈ハロー?〉
UXは口を開く。
「私はNSBニューヨーク支部長よ。人質の開放条件を聞くわ。話の分かる人間を出しなさい」
よく声が震えないものだ、と新人は自分の口元を押さえながら思った。危うく、相手が出た瞬間に悲鳴を上げるところだった。
〈……。待ってろ。この番号に折り返す〉
通話が切れたが、誰も言葉を発さずに待つ。長い数分が経った。着信音が鳴り、部屋にいる何名かは肩を跳ねさせる。UXは緑の通話ボタンをタップした。
〈こんにちは、NSBニューヨーク支部長。直々のお電話に感謝する。俺がリーダーだ。アディールと名乗っても分かるか?〉
変声機を使った声が響く。
「ようやく話ができて光栄よ、アディール。噂はかねがね。交渉を始めたいけれど、まずは人質の無事が知りたいわね。今の状態をリアルタイムで見せてもらわないと話にならないわ」
「ではそちらの顔からだ」
「それはもちろん構わないわよ。こんなおばあさんの顔でよければね」
UXがテレビ通話の画面をオンにする。スクリーンにも端に彼女の顔が映し出された。
「彼女は無事だ。今映すから少し待っていろ」
音声がオフになり、数秒で再びオンになる。スクリーンに映像が映し出された。
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