4-6

 カンカンカンカン!

 新人は金属製の階段を駆け下りる。

「レディ! レディ!」

 先ほどから繰り返し呼んでいた。クラッシュはその声を聞きながら僅かに眉を寄せる。

「応答がないのか」

 短く呟き、走りながら思考を巡らせた。

 彼にも何が起きているのか全て分かっている訳ではない。だから可哀想に動転しているであろう新人に説明してやることもできない。

「左に寄れ! 階段の外側を走れ」

 クラッシュが言った時、上の階の非常扉が激しい音を立てて開く。何やら聞き取れない外国語が叫ばれ、銃声が鳴った。発砲音の直後に、銃弾が金属の階段で弾かれる音。新人の悲鳴が上がる。

「射線を気にしろ! 上から狙われてるからそのまま外側寄りを走れよ」

 クラッシュは彼女に声を掛けておいて、内ポケットから拳銃を抜く。立ち止まり上を向いて階段内側の吹き抜けから狙いを付けようとしたが、逆に幾つもの銃弾が身を掠めたため諦めた。今日は新人がいるので追っ手を減らしておきたかったが高低差の不利があるので仕方ない。

 数段飛ばしで階段を駆け下り、まさに

地上に辿り着こうとしている新人に追いつく。

「屈んでろ」

 言うと同時に彼女の頭を押さえつけて下げさせ、一階のドアからちょうど飛び出してきた男たちを撃ち抜いた。銃声を聞き、掌の下で小さく悲鳴が上がる。

「車に向かって走れ!」

 新人の背中を押し出し、階段と出口の両方から続々と現れる武装した男たちに向かってポケットから取り出した物体を投げた。液体の入ったビー玉のようなそれは、彼らの前の床に落ちた瞬間に割れ炎を上げて爆発する。

「悪いがこっちはまだ新人研修中なんだ、ちょっとは手加減してくれ」

 彼らを背にそう吐き捨て、新人に追いつくと地下鉄で見せていたスマートキーのような機器のボタンを押して路駐していたピックアップトラックを開錠した。新人はすぐさま乗り込み、クラッシュはエンジンを掛ける。

「シートベルトしろよ」

 車を急発進させながらクラッシュは言った。

「こんなときに妙なところで常識人」

 新人は驚き呆れながらも、発進時に座席へ押し付けられる凄まじい力に今から行われる運転の荒さを予感し慌ててシートベルトを着ける。

「これで電話を掛けてくれ。『スナイプ』で登録してあるから」

 クラッシュはポケットからスマホを取り出しロックを解除すると、助手席の新人に投げた。その間にも道路交通法など一切無視して一車線にもかかわらず前の車を追い越し、外では衝突寸前でかわした対向車からのクラクションが鳴り続けている。

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