心霊写真2
真希はコンテストの賞金で買った一眼で早速景色を撮りに行った。
家に帰りフォルダを見返して、真希は悲鳴を上げた。
また写っている。あの女性の霊が。
しかも前は一枚だったのに、今回は五枚に写っている。
真希はすぐに消そうとしたが、寸前、違和感を覚えて手を止めた。
写りこんだ女性は、どの写真も腕を曲げたり足を上げたり、奇怪なポーズを取っている。
もしかしてこれって……人文字?
真希は五つの人文字を解読していった。
「か」「ね」「わ」「け」「ろ」
……金分けろ? ああ、賞金のことか。幽霊の癖に強情だな。
ていうか「ね」凄いな。どうやってんだそれ。
「わ」とか「ろ」も凄いけど「ね」のその、くるってなってる所どうやって再現したんだ。霊体だからで済ませられるレベルじゃないぞ。
真希は少し考えたが、結局この要求を無視した。確かに賞金はまだ半分残っているが、勝手に写り込んで怖がらせたのはそっちなんだから、こっちも勝手に写真を使わせてもらおう。
翌日。写真を撮って帰ると、また女性が写っている。今度は七枚。
「し」「ょ」「う」「ぞ」「う」「け」「ん」
肖像権と来たか。幽霊にその権利って適応されるのか? そもそも霊体なのに金貰ってどうすんだ。
ていうか「ぞ」凄いな。どうやってんだそれ。濁点再現できてるのなんなんだ。
真希は少し考えて、「分かった」と呼びかけるように言った。
「山分けしてもいいよ。ただし条件がある。これからも被写体として私の写真に写ってくれない? あなたとならいい写真が撮れる。協力して賞金搔っ攫おうよ。OKなら写って」
そう言ってカメラのシャッターを押した。撮った画像を見ると、隅で女性がサムズアップしていた。
それからの日々は順調だった。様々なコンテストで、真希の撮った自然と人物が調和した写真は高く評価された。賞金もたくさんもらえる、はずだった。
しかし。
あるコンテストの審査員が、真希の写真に不正があったとして賞を取り下げた。
写っている女性の輪郭がぼやけていて、加工した写真だと判定されたのだ。
これを受け、他のコンテストも真希の受賞を取り下げた。賞金は全て貰えなかった。
真希は自暴自棄になった。そして、幽霊に当たった。
「あなたが幽霊だからってはっきり写らないのが悪いのよ! はっきり写るか、もう一切写らないか、どっちかにしてくれない?」
虚空に向かって叫んだあと、真希はハッとした。私はなんてことを。
「ごめん、言い過ぎた。あなたのおかげで受賞できたのに、私なにか勘違いしてた。……残りの賞金はあげるね。こんな事に付き合わせちゃってごめん」
真希は手元の一眼に目をやった。これもあなたがいたから買えたのに。
ふとそれを家の外に向けて、静かな街並みの写真を撮る。
撮れた写真を見て真希は目を見開いた。
「……あなたは」
真希は再び虚空に向かって叫んだ。
「分かったわ、そういうことだったのね。いいよ、私があなたの写真、いくらでも撮ってあげる。それと、あなたの分の賞金も使わせてもらうね」
真希は一眼を持って外に飛び出た。
真希は自費出版した写真集をパラパラとめくった。
月の明かりに照らされて爛々と輝く笑顔。
滝の飛沫によって清廉な雰囲気が演出される立ち姿。
人物を中心にした写真はほとんど撮ってこなかった真希が、何枚も試行錯誤を重ねて作り上げた一冊だ。
あの日写真に写った彼女は、これまでと違ってはっきりとその風貌を写していた。その顔を見て、真希はその女性が一年前に事故で亡くなった女優、
真希はすぐに察知した。叶は、完成しなかった写真集が未練として残っているのだと。それを完成させて出版するためにお金が必要なのだと。
真希は全身全霊をかけて叶の写真を撮った。これ以上ない写真集が完成し、出版され、真希は満足した。叶も満足したのだろう、それ以降真希の写真に写ることは無くなった。
そして、ある日。
真希はまた写真を撮りに外出していた。
もうそこにいないと分かっていながら、つい話しかけてしまう。
「私、景色ばっかり撮ってたんだけど、あなたを散々撮ってから、人を撮るのも好きになったんだよね。人を撮るの上手いね、って褒められるようになって、撮らせてもらう機会も多くなった。でも、やっぱりあなたが一番だよ。人と自然が調和したあの写真は、あなたじゃなきゃ撮れる気がしない。
また被写体になってよ。あなたがいないと寂しいよ。……なんて、聞こえてないんだろうけど」
真希は風景を何枚も撮った。何枚も、何枚も。
そして、家に帰って写真を見返し、思わず叫び声を上げた。
【解説】
写真には叶がまた写っていた。
真希はそれを見て、驚きと喜びの入り混じった叫び声を上げたのだった。
写っている写真はまた五枚。人文字だった。
真希はそれを解読していく。
「あ」「り」「が」「と」「う」
真希は思わず泣いて、笑った。
ていうか「あ」凄いな。どうやってんだ、それ。
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