セレスト

夏宵 澪  @凛

プロローグ

「はぁ〜……終わったぁ!!」


教室に響いた自分の声が、やけに間抜けに聞こえた。

今日は理科の追試があって、いつもより帰るのが遅くなっちゃった。

出来はまあまあ。たぶん、凡ミスも――ない、はず。……たぶん。(願望)


時計を見ると、針はちょうど五時を指していた。

んー、思ったよりも遅くなっちゃったな。

外は小雨のあとみたいで、空気がしっとり冷たい。

秋の終わり、冬の入口。

そんな言葉がふと頭に浮かんで、思わず息を吐いた。


放課後でも部活終わりでもない、この微妙な時間帯。

校門の前にはもう人影もほとんどなくて、世界に自分だけ取り残されたみたいだ。

冷たい風が頬を撫でて、ちょっと背筋がぞくっとした。


――そういえば、あの日もこんな感じだったっけ。


霞色だった私の日常が、

セレストの光で一瞬にして塗り替えられた、あの午後。


今思えば、あれが私の初恋だった。


中学生になった今でも、

彼の笑顔や声、何気ない仕草、

そして、あのときかけてくれた言葉たちが、

頭の中でずっとリピートしている。


……うん。少しだけ、思い出してみよう。

あの、私の世界が色づいた日のことを。

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