第45話・幽霊部員

「そういえば」

 俺が声をあげると、部員のみんなが俺に注目する。

「こいあい俱楽部って部員はこれだけなんですか?」

 ふと気になった事を聞いてみる。

 たぶん歴は長いのであろうから部員がこれだけとは思いにくい。

「あぁ、まともに出てくるのはこのメンツだけだけど、幽霊部員はまだいるよ」

 部長があっけらかんと答える。

「成人で仕事のあるメンツや、本当に気分で出たり休んだりするメンツもいるんだ」

 3年生は卒業しないでもいい制度とかがあるこの学園だから、いろんな都合に人もいるんだろう。


「そう、小生とか」


 突如、俺の後ろから声がした。

「なっ!?」

 いつの間にそこにいたのか、振り向くとそこには狐面の上半分を被った長身の男子生徒がいた。

「君が独りぼっちの1年生かー、よろしくね多田野くん」

 紫の髪の毛で頭には狐のような耳も生えている。おそらく、これが、

「幽霊部員の与羽瀬よはぜあさでーっす。3年生のサトリ族でーっす」

 たしかサトリとは人の心を読む妖怪だったはずだ。

「与羽瀬くん、お久しぶりだね。仕事はうまく行ってるのかい?」

 部長が動じず声を掛けると、与羽瀬先輩は片手を上げる。

「うん、なかなか好調よ。鍼灸院が落ち着いたから久々に登校してみた」

 ふむふむ。針とお灸の専門家なのか。

「うむ。一生懸命覚えようとして、素直でいい子だ」

 そういって俺の頭をポンポンと軽く叩く。

 はっ、これも読まれている?

「詳しく読むのは狐面で抑えてるけど、簡単な考えとかは狐面を付けててもわかるんだよね。とはいえあまり人の考えを読むのは失礼だから、ほとんどスルーしちゃうけどね」

 仮面の中の瞳がニコリと笑った。

「まぁ、君は素直な子だからそういう能力なくても分かるけどね」

 確かにそんなに難しいこと考えない性格ですけども。

「ハゼっち、久々やん。元気しとるん?」

「おう、楓里。元気してるよ。ってお前はいまだに愛欲にまみれてるねぇ」

「愛欲とかいうな。愛の伝道師と呼んでほしいわ」

「ハゼ先輩、お久しぶりです」

「津音ちゃんお元気? バイトが忙しいかー、元気そうならなにより」

「まぁ、バイトも家業ですからね。仕方ないというか」

 すごい、各人の考えの表面をさらって挨拶してる。

 そして慣れた様子の部員たちの対応。

「ね、面白いだろ?」

 部長が俺にパチリとウィンクをした。

 確かに面白い。

「人の能力を面白いで片づけないでもらえるかなー。天ちゃんにいたっては相変わらず心のガードがっちりしてるねぇ」

「そりゃあね。そうする事が部員であり友人への公正な態度だと思うからね」

「読まなくていいから、有難いんだけどね。」

「有難いんですか?」

 ふと疑問に思って口に出してしまった。

 少し与羽瀬先輩は僕を見た後、ニコリと笑う。

「ああ、心が見えないほうが有難いんだ。小生は当たり前に心が見えてしまうから。狐の面で力を抑えてはいるけど、それまでは当たり前に人の考えが頭に入ってきてしまっていたんだ。

 元々山で育ったから、山は人が少なくて考えが頭に入ってくることは少なかったんだけど、都会に住むようになってからは、ひっきりなしに人の考えが頭に入ってくる。ノイズみたいなものだね。

 狐面を手に入れるまではノイローゼになりかけたよ。」

 そう言って仮面を撫でる与羽瀬先輩。

「心が読めるっていうのも難しいものですね……」

「まぁ、狐面で聞こえる範囲をコントロールできるから、ずいぶん楽になったよ」

 たしかに聞きたい物は良いとして、聞きたくないものが聞こえてしまうのは苦痛だろう。

 狐面様様ということか。

「そいうこと」

 たしかに考えてることに返事をされると不思議な気持ちになる。

「いやな気持になったらごめんね」

 いえ、嫌な気持ちはしてないです。

「ならよかった」

「ほら、ハゼっち、人の考えと会話しないー。オレらにわからんやろ」

「ごめん、ごめん。つい癖でね」

 そんなこんなで、与羽瀬先輩は今後少し余裕があるから登校するのだそうだ。

 だからこいあい俱楽部に新たなメンバーが追加となる。

「与羽瀬朝、好きなものは女の子です!」

「えー、やだー、近づかないでくださいー」

「津音ちゃんにはお触りしません! 髪のおててでバチンされるから!」

「ならばよし。っていうか、普通の女の子にもお触りは禁止です」

「あちゃー」

 大分軽いやりとりではあるが、能力的にも頼りになりそうな先輩だ。

 これで『朔』のことも知っていたら助けになるのだが。

「ん? 誰を知ってたらって?」

 与羽瀬先輩に考えていたことが聞こえたらしく『朔』について問われた。

「そういえば、みなさんにも聞きたいんですけど、『朔』って女生徒を知ってますか?」

 たしか部員にも聞いていなかった。

 『朔』は用務員さんが名付けた名前で正式名ではないこと、俺をハーフブラッドにした張本人であること、新月の時に目撃例が多いこと、この学園の生徒であることを話した。

「だれか『朔』を知りませんかね」

 聞いてみるが、みな顔を横に振っている。

「小生、女の子は忘れないたちだけど、銀髪赤目の吸血鬼レディはまだ会った事ないなぁ」

 と与羽瀬先輩が言い、

「僕も何年もこの学園にいるけどそういった女生徒はみたことないな」

 と部長も首を横に振っている。

「ふむ。『朔』ちゃんねぇ。一応、頭ん中入れとくわ」

「私も近くにそういう人いないか、気にしてみるわ」

 亞殿先輩と赤延先輩も『朔』探しを協力してくれるという。

「すみません、ありがとうございます」

 素直に頭を下げるその中で、与羽瀬先輩の視線がとある人に向けられていたのには気づかなかった。

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