第44話・嫉妬と甘え

 翌日、夢に和久津先輩のアレを見つつ、ぐったりと起床。

 恐ろしかった……。

 ただの人間があそこまで恐怖を作り上げることができるのか。

 それだけが驚きでしかなかった。

 なんとか授業をこなし、放課後になった。

 急いで中庭に向かう。

 そこにはいつもの黒髪目隠れの和久津先輩と、今日も顔色のいい屍蝋先輩がいた。

「遅くなりました!」

 俺が声を掛けると二人が片手を上げて反応する。

「あ、昨日はごめんね♡」

「い、いえ……」

「ん? 何かあったの?」

「いえ、なんでもないです……」

 なんて話しているとピンクのショートヘアーの王先輩もやってきた。

「なになに? みんな集まってるじゃん」

 初対面なので王先輩には軽く挨拶をする。

「1年の多田野一士です。よろしくお願いします」

「よろしくー。で、明日香っちどうしたん?」

 王先輩は自体を理解してない?

 和久津先輩は手をバッと広げた。

「どうしたもこうしたも、嫉妬って怖いよねって話!」

 言うと、屍蝋先輩の身体が不自然に揺れた。

「嫉妬て?」

 王先輩が笑いながら言うが、もしかして内容知ってる?

「昨日さ、屍蝋先輩がここに来てくれたんだけど、多田野くんと手を繋いでどっかいっちゃったわけ。

 オレってばちょー嫉妬しちゃって、多田野くんにちょーっと脅かしちゃった♡」

 いや、あれはちょーっとどころの話じゃないですが。

 心底、背筋が凍りましたけど。

「そ、そっすね……」

 言いたいことを我慢しながらぎこちない笑みを作る。

 とはいえ、あれは嫉妬だったのか。わかりやすいというか、まさか屍蝋先輩の手を取ったことでああなったとは思いもしなかったですが。

「知ってる多田野くんだから良かったけど、知らない野郎だったらどうなってたか分かんないなぁ♡」

 やばい。俺で良かった。とんでもない恐怖体験だったけど、あれがまだ知り合いだからだったとしたら、知らない人相手にはどうなるか分かったもんじゃない。

「明日香っち、こわぁー」

 どうにも王先輩のノリが場違いに軽い。ギャル、ギャルなのか。

「……でも、それは!」

 屍蝋先輩が一歩前に行く。

「それは僕が悪くて……」

 俯いてしまう。それを王先輩が伺う。

「屍蝋っち、なんかしたん?」

「なんかしたというか、僕は、君、王くんに嫉妬していたんだ。」

「あーし?」

「そう、最近、ずっと和久津くんと王くんが仲良さそうに一緒にいるから」

「あー、そゆことか」

 屍蝋先輩と王先輩が話している中、和久津先輩はニコニコと二人を見ていた。

「あーしと明日香っちが盛り上がってたから妬いちゃったわけだ」

 スッパリハッキリさせる王先輩に、

「うん、そういうこと……だと思う」

 気持ちを整理しきれてない気持ちがまだあるみたいだ。

 そういう嫉妬という気持ち自体が初めてなのかもしれない。

 そんな屍蝋先輩に対して王先輩は顔を伺いつつ、

 

「ごめんね?」


 素直にそう謝った。

「屍蝋っちって、明日香っちの大事な人なんでしょ?」

「そ、そうかな」

「そうでーす!」

 どもる屍蝋先輩に元気よく和久津先輩が答える。

「そりゃ、明日香っちをたくさん借りててごめんね」

 王先輩はぺこりと屍蝋先輩に頭を下げた。

 そして、ウェストポーチから何か白い紙のようなものを出す。

 おもむろに紙で色つやの良い肌をぬぐうと、緑の肌が露出した。

「あーし、キョンシー族だからさー、ゾンビ族と同じくお肌のコンディション最悪なんよー」

 そういいながらウェストポーチからコンパクトを出して、お肌の色を整えていく。

「だから、明日香っちがエンバーミング? とかできるって聞いて、お肌のお化粧の仕方教えてもらったんよ」

 いって、粉を仕タパタはたき終わると、もうその頬は血色の良いお肌に見える。

「ど? ど? すごくない?」

「すごい! 普通の人間の肌だ」

 分かっていたけど言わずにはいられなかった。

 屍蝋先輩の時も思ったが、メイク一つでここまで変化するのだから、エンバーミングってすごいと思う。

「すごい、僕の時みたいに、人間そっくりだ」

 その屍蝋先輩は涙をこぼしていた。

「屍蝋先輩!」

「屍蝋っち、だいじょぶ?」

 俺たちが慌てて近寄る前に、和久津先輩が先輩にハンカチを渡す。

「ゾンビ族の僕だって、王くんの気持ちは分かるはずなのに、自分の事ばかり主張して、情けないよ……」

 ハンカチで涙をぬぐうとお肌の色が薄れていく。

「お化粧、落ちちゃいますよ、先輩」

「うん、ごめん」

「ごめんじゃなくて、」

 和久津先輩が屍蝋先輩の両肩を叩いた。

 屍蝋先輩が視線を上げる。

「『なら君がメイクして』でしょ」

 言われてポカンとする屍蝋先輩。

「屍蝋先輩は、オレを好きに使っていいし、甘えてくれていいんですよ」

 和久津先輩はそう言うと屍蝋先輩を抱きしめた。

「本当はオレも誤解させて悪いんだけど、でも嬉しい方が強くて。屍蝋先輩がオレに嫉妬してくれるって、それって甘えてくれてることと同じだと思うから」

 屍蝋先輩の手も和久津先輩の制服を掴んでいる。

「甘えて、いいのかな……?」

「どんどん甘えてよ。付き合うって多分そういうことだから」

「うん、甘え方分からないけど、頑張るね」

 どうやら二人は「友達」から「お付き合い」に進化できたみたいだ。


「でもさ」

 王先輩が俺に囁いてくる。

「明日香っち、わざと、あーしとのおしゃべり見せてたみたいなんよね」

「え」

「で、あーしが屍蝋っちに近づこうもんなら、「バラすよ」とか冷たい声で言われたもん」

「マジっすか。俺もめっちゃ嫉妬されて……」

「それなー。明日香っち自身が嫉妬深いこと屍蝋っちが分かってないのウケルー」

「確かにー」


「なに君達、四肢バラバラにされたいの?」


『なんでもありませーん』

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