第42話・秘密の暴露
「あらやだ、高尾先生、相談中だった?」
上城先生がきびすを返そうとするのを高尾先生が止める。
「待ってください、上城先生!」
「えっ?」
「貴女に言いたいことがあるんです」
お、言うのか!?
部長以下全員は完全に壁になっている。
「僕は、あなたのことが好きです!」
言った!
言うつもりはなかったろうけど、すごい勇気を振り絞ったに違いない。
だが、対して上城先生は冷静だった。
「申し訳ないけれど、あなたの気持ちは」
上城先生が断る前に高尾先生が言い募る。
「聞いてください! これまでの僕は人として生きているとはいえず、自分にも自信がありませんでした。
そんな中であがいてどうにか教員になり、ほそぼそと暮らしていました。
だけど、あなたに会えた時、視界が荒んでいた世界から薔薇色の世界に変わったんです!
何も興味持てなかった僕が、世界のすべてを愛せるようになったんです」
高尾先生はYシャツの胸元を開ける。その胸は膨らみがあった。
「僕は……実は女です。でも女であることが怖かった。自信が持てなかった。だから男装をしていました。
あなたの堂々とした女装の姿を見て、こんな僕でも生きていいんだと思えるようになったんです。
あなたは僕の理想の人だ。
愛おしいんです。
付き合えるなら、上城先生とたくさんの事がしたいんです」
熱烈なラブコールだ。
だが、上城先生は冷静に、
「高尾先生、服装を整えてください」
言われて高尾先生は慌ててYシャツを整える。
終わるのを待って上城先生が問う。
「それで、高尾先生が、付き合えたならしたい事ってなんですか?」
そう言う上城先生の視線は冷たい。
言われた高尾先生は顔を赤くして、もじもじと人差し指同士をくっつける。
「その……できれば……」
デート、二人で散歩、二人で料理、など色々あるだろうけれど、
「交換日記したいです!」
一番ピュアなやつ来た!
しかしこれはどうなる!? 数々の大人な世界を見てきた上城先生には響くのか!?
全員で上城先生を見ると、
「ぷっ、くくく……」
笑っていた。
そこにすかさず高尾先生がフォローに入る。
「なんか子供っぽくてスミマセン……」
意気消沈して肩を落とすが、
「考えてみれば、交換日記なんてやったことないわ」
上城先生が笑い終えて、ウインクをして見せた。
「そんなピュアな付き合い方したことないから、うまくできるかしら」
落ち込んでいた高尾先生が顔をあげる。
そこに上城先生が歩み寄った。
「あのラブコールで貴方に興味が出たわ。そんなに綺麗で崇高なアタシじゃないけど、いいかしら?」
すっと馬体を傾かせて片手を伸ばす。
「お付き合い、お受けします」
上城先生がそう言うと、高尾先生もその手をとった。
「よ、よろしくおねがいします!!」
こうして先生同士のカップルが誕生することとなった。
とはいえ、色々訳アリのカップルなので、我が部では
先生同士のお付き合いも、周りに知られるとややこしいので秘密である。
それに高尾先生が男装だったことも、高尾先生本人が周囲にカミングアウトするまで秘密である。
あまり話を外に漏らすことは無い部員たちではあるが、今回は特に口を堅くする必要がある。
とはいえ、二人のお付き合いはおめでたい。
記念にケーキをと言いたいところだけど、それは叶わないので、赤延先輩の手作りのバナナスコーンが振る舞われた。
まぁ、箝口令は敷かれたものの、二人の先生の仲の良さを見る人が見ればわかってしまうのではなかろうか。
そう悟らせないように付き合うのもまた一興かもしれないが。
秘密のある恋は二人にとってよいスパイスになればいいと思う。
「ひどいのよぉー! 高尾先生ってばー!」
くだをまきにくるのは変わらないらしい。
「高尾先生がどうしたんですかー?」
いつもの事なので、聞きながらお茶を足すことも覚えた。
「この前デートしたんだけどー。あ、健全なほうね?」
いや、健全じゃないほうのデートは……あるのかもしれないけれど。
「エスコートが完璧だったのよぉー!」
言って机に突っ伏してしまう。
「いや、良い事じゃないですか」
「良い事なんだけどぉー! アタシも男としてはエスコートしたかったのもありーの、お姫様みたいにエスコートされて嬉しかった気持ちもありーの、複雑なのよー!」
たしかにオネエとしては複雑な心境なのかもしれない。
「時間も守るし、気配りもできるし、支払い割り勘だし、なんなの? 超人なの?」
というか、それはやろうと思えばできることじゃなかろうか。
「上城先生が今までクズとしか付き合ってこんかったから、高尾先生が眩しすぎるんやない?」
「人の元恋人をクズとか、クズばっかだったけど! 眩しすぎるのよぉー!」
「はいはい、ご馳走様です」
亞殿先輩と赤延先輩に相手をされながらお茶をあおる。
「仲が良いならそれに越したことはないね」
部長がのんびりとお茶をすすった。
コンコン。
ガラガラとドアが開くと、高尾先生が来た。
「失礼します。うちのお姫様を迎えにきましたよ」
「ほらぁー!」
最近特に自信がついたらしく、高尾先生は堂々としている。それか講じてか生徒の中でどうしたのかと噂になっているらしい。
「絶対もうバレてるわよぉー」
「僕はカミングアウトしてもいいよ」
「もぉー、そういうのはちゃんとした場を設けてでしょー」
「君がそう言うなら」
仲良きことは素晴らしきかな。
でも、この高尾先生の豹変で、一部の生徒から黄色い声が上がっているのは、うちの部の秘密だ。
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