第41話・純粋と欲望
「ねぇー、もう聞いてよー!」
和やかな部室にそんな低音の声が響いた。
「はいはい、上城先生どうしたんです?」
部長がBarのマスターのように話を促す。
「アタシってば恋愛運ほんとなくてぇー」
飲んでいるのはただのお茶なのだが、上城先生は酔った時のようにくだをまいていた。
今話してるのは、
いつもはキリっとしたキャリアウーマン的なケンタウロスの先生なのだが、恋愛の事を話し出したら場末のBarのオネエになってしまっている。
酔っていなくてもオネエはオネエなのだが。
「カズトも良いなって思ったのに肝心な時に逃げていくしぃー」
本当にお茶にお酒の成分ないよな? と自分のお茶を飲んでみる。普通のお茶だ。
「ヒロシも長く続なかったしぃー。アタシ多分恋愛の才能無いんだわ」
言い終わるとわっと泣いてしまう。
近くにいた亞殿先輩がよしよしと上城先生の馬体をさする。
「こないな良い馬体してるっちゅーのに、上城先生を振るなんて、なんてヤツらや!」
「アドちゃーん! アンタが生徒じゃなきゃ、アンタに恋してるわぁー!」
「それはそれで優しさに弱すぎやんな」
コントをしながら、抱き着いてくる上城先生を亞殿先輩が抱きしめ返す。
「先生はやっぱり男の人のほうが良いんですか?」
何気ない赤延先輩の質問に、上城先生はキリッと、
「別に女の子もいけるわよ。この体でこの服装だから女の子寄って来づらいみたいだけど」
まぁ、いい感じにムキムキした男の身体に、女性もののスーツで女装のような状態ですからね。
「そう、アキコも良い子だったけど長続きしなかったわぁー」
そういって、亞殿先輩を締め上げる。
「ギブギブギブ!」
悲鳴を上げていた先輩だが、しばらくしてクタっと意識が落ちた。
「いつか運命の相手に会えるんだろうけど、それがいつか分からないのがねぇ」
部長が尻尾をぺちんぺちんさせながら言う。
「それが恋愛の怖いとこよねぇ」
「案外、学校でもう会ってたりして」
俺が言うと、上城先生はきりっとした顔になった。
「学校はないわね。公私混同したくないのよね」
ここらへん、とても真面目な先生である。
真面目な先生ではあるが、亞殿先輩はまだ抱きしめていた。欲望には忠実である。
「なんだかんだ愚痴ってすっきりしたわ。ありがとう」
座っていた馬体を起こすとさすがケンタウロス族、体が大きい。
「じゃ、みんな数学の宿題わすれないようにね。またくるわ」
この一言で、上城先生が帰った後は部員全員で数学の勉強をすることになる。
さすが公私混同しない先生だ。
数日後、コンコンと部室のドアをノックする音が。
ガラガラっとドアが開き、出てきたのは別の先生だった。
「こんにちは。国語の高尾
高尾先生は国語の先生だ。先生もこいあい倶楽部に相談あるんだなぁ。透野先生や、上城先生は別枠で考えていたので、普通の先生が来るのはちょっと意外だった。
「どうぞ。いま椅子出しますので」
慌てて亞殿先輩が椅子をだし、俺がお茶を出す。
この高尾先生は人間族の男の先生で、髪が黒髪にピンクのインナーカラーを入れてるオシャレさんだ。
「椅子とお茶も、ありがとう」
椅子につき、お茶を飲み、一息を入れるのを俺たちは待った。
「ふう、落ち着くのを待ってくれてありがとう」
「いえいえ」
部長が微笑む。
「その、悩みというのは……好きな人がいてね」
ふむふむ。
「相手がその……上城先生なんだ」
この前来てましたよ、上城先生!
でも、公私混同しないって言ってたしなぁ。
俺のこの一瞬の思考は、部員全員もやっていたようで、なんとなくみんなの目を見てわかった。
「上城先生は知っての通り、真面目で純粋で美しくて」
Barこいあいの時の上城先生を知ったらビックリするのではないだろうか。
「そんな彼女に僕は好きになってしまって、どうしたらいいかな?」
相談に来る内容の中で一番ピュアな相談が来てしまった。
「うーん、好きになって、どうしたいですか?」
難しい問いだったが、部長がさばく。
「そうだなー。上城先生ともっと仲良くしたい」
大人とは思えないほど、すごく純粋な答えだ。
「仲良くっていっても、いろいろありますし……」
赤延先輩がうまく誘導していく。
「一緒に歩いたり、ご飯食べたりしたいなぁ」
「うん、デートしたいっちゅうことやな」
亞殿先輩もうまく誘導している。
「そしたら夜になって……」
「夜景とか見たり、」
俺もうまく誘導を……
「夜のホテル街にしけこんだり!」
なんでそこで欲望にまみれた!
高尾先生はキャーと恥ずかしそうに手で顔を覆っているが、言っていることは大分ピュアじゃない。
でも子供が言う大人っぽいセリフの様に中身は伴ってない気がする。
恋愛に対して高尾先生は本当に純粋なんだろう。
純粋すぎるからこそ、何をしたらいいのか分からないのかもしれない。
そのままならないもどかしさは何となく分かる。
さて、どうしたものか。
考えている時、
「この前愚痴ってごめんねーって、高尾先生じゃない」
当人がご登場だ!
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