第40話・拒否反応

 今日明日は学校をやすんで、病院に行く日だった。

 俺自身が病気なのではなくて、ハーフブラッドの治療の初日だったのだ。

 久しぶりに噛まれた当時の吸血鬼の医師に会う。

「多田野君、久しぶりだね。体調はどうだい?」

「好調です。あれから随分と慣れましたね」

 まずは検査をするので、口腔内のチェックだ。

「ふむ。口腔内も調子よさそうだ。次は胸の音を聞くよ」

「はい」

 胸をはだけさせると、ひんやりとした聴診器をあてられる。

 何回か吸って吐いてを繰り返し、聴診器で様子を診てもらう。

「うん、調子よさそうだね。次は身長みてみようか」

 以前は165㎝だったが、今回は168㎝だった。よし、まだ伸びてる。

 体重もそれなりに増えていて、あの200㎖の血でよく成長するものだと思った。

「噛まれたらそこで成長止まるものだと思ってました」

 言うと医師は柔らかく笑う。

「ハーフブラッドの時はまだ成長し続けるよ。純血の儀式をして、純血、シングルブラッドになると成長も老化も止まるけど」

「へー、でも先生は噛まれてシングルブラッドになったわけじゃないですよね。純血の赤ちゃんで生まれても成長しないんですか?」

「あぁ、純血で生まれた子は成長するよ。いずれ成長は止まるけどね。そこが噛まれた人とは違うところだね」

 色々な検査をしてる中で、医師と問答を続ける。

「なかなか多田野君は勉強しているようだね。いいことだ」

 そんな風に言ってもらえた。

「血の操作や変身なんかもできるようになったんですよ」

 この数か月での自分の成長を告げると、医師は驚いたようだった。

「血の操作と変身もできるのかい!? それはすごいな」

「それって噛んだ人が高位の吸血鬼だからですかね?」

「あぁ、多田野君は本当に勉強屋さんだね。そう。高位の吸血鬼になるとそのハーフブラッドも能力が高くなると聞いたことはある」

 医師は机の書類に何かを書き足す。

「とはいえ、高位の吸血鬼は滅多な事で衝動的に人を噛むことは無いから、ハーフブラッドも生まれにくいんだ」

 次は血液を取ってもらう。血液を扱えるハーフブラッドが血液を他人に取られるのはなんだかおかしく感じた。

「では、俺が噛まれたのは、衝動的ではなく故意だったと?」

「いや、高位でも血に飢えることはあるらしいから。当人を見つけないとどうにも言えないね」

 ハーフブラッドの便利なところは採血をされても、すぐに針の穴が回復してしまうことだ。

 そして吸血鬼用にチューンアップされたレントゲンで体の中を診てもらう。

「体の中も大丈夫そうだね」

 レントゲンでとった写真を見ながら医師が言う。

 たぶんこれから治療行為が始まる。

 大分時間をかけたけど、これも経過観察の一環なのだろう。

 聞けば、噛まれて絶望した人は数か月で暴飲暴食を繰り返して、体がボロボロになることがあるらしい。

 そうなれば治療もまた変わってくるため、しっかりと診察するのだという。

「うん、体の方は健康だね」

 医師が準備を看護師に伝えて、看護師は注射器と何かが入った小さな容器をもってくる。

「この注射薬が君を人間に戻す薬だ。これから3年かけて、何回も注射して、体内の吸血鬼の血を分解していく」

 小さな容器を逆さにして、注射器を刺し、中の液体が注射器に移される。

 注射器を指で弾き空気を抜き、俺の腕が消毒される。

 そして、俺の腕に注射器が刺された。

「ん? あれ?」

 俺の腕に注射器を刺したまま、医師が声を上げる。

「薬が入っていかない?」

 ぷるぷると医師が持つ注射器が震えている。

「え?」

 普段あまり注射の状況はみたくない人だったが、見てみると薬が全然減っていかない。

「薬が血に入ることを抵抗してる? そんなことある?」

 医師が不思議そうに声を出す。

 一旦、注射器を引き抜き、注射器の容器と、俺の腕を見比べる。

「うーん。やっぱり高位の吸血鬼の所為なのかなー」

 今まではこんな事なかったとぼやく医師。

 注射器と一緒に用意されていた、そら豆型の膿盆のうぼんに、医師は注射器の薬を出した。

「うん、普通に出るよねぇ」

 そこで、ちょっとごめんねといって、別の注射器で俺の採血をする。

 そうして、薬が入れられた膿盆に注射器で俺の血を掛けた。

「え!?」

 すると、透明な薬が生き物のように動いて血を避けたのだ。

「薬は血液をもとに作ってるから、たまーにこうなるんだよね」

 透明なアメーバと化した薬は、どうにか俺の血から離れようと頑張っている。

「多田野君、血液操作できるんだよね?」

「あ、はい。できます」

「じゃあ、これ混ぜて吸収ってできるかい?」

「え、どうだろう、やってみます」

 膿盆に手をかざし、混ざれと念じてみる。

 最初は薬も激しい抵抗を見せていたが、徐々に血液と混ざっていくと抵抗も収まっていった。

 全部混ざった薬と血液を手のひらから吸収していく。

 薬を吸収するのは初めてだったが、案外すんなりとできた。

「よしよし、吸収できたね。たぶん拒否反応だねぇ」

 俺の手のひらを診ながら先生が呟く。

「もしかしたら、薬の拒否反応で熱出るかもしれない。明日も学校休んだ方がいいかもしれないね」

 手を表裏とみて、ぺちんと叩いて診察が終わった。


 そして、寮の部屋に帰ったあと、猛烈な発熱で俺は倒れることになる。

 24時間寝続け、その間に変な夢をみた。

 白い服を着た何かに、握手され、そしてバイバイを手を振られた。

 白い何かがどこかへ帰っていくと、黒い何かに抱きしめられた。

 体を摺り寄せる黒いなにか。

 と、そんなところで目が覚めた。

 起きてみるとベッドに入らず、床で寝てたらしい。

 シャワーを浴びて体の調子をみるが、特に変わったところはない。

 だった。

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