第37話・守りたい

「湊太! 結婚しよう!」

 ユー先輩の熱烈なラブコールが始まった。

「ユーシン、おまちなさい!」

「ユー女史、こういうものは段階を踏むべきで!」

 白鷺先輩もリシェル先輩も慌てて諭すものの、押さえつけたとて、ポイと人形のように放り出されてしまうのであった。

 武術の心得がある二人を簡単に放り投げるなんて、ユー先輩のポテンシャルがすごい。本当に人間族なのだろうか。

 対して言い寄られている比嘉先輩は、というと。

「結婚だなんて、まだ何も知らないのに……!」

 巨大な体をフリフリと、乙女チックなノリをしていた。

 さきほどから比嘉先輩を見ていると、繊細で優しくて乙女な、見た目と対極な人柄が見えてくる。

 後に聞くと趣味は手芸で、特技は刺繍なのだそうな。やはり乙女だった。

 比嘉先輩とユー先輩の身体が逆なら、大分収まりがよさそうな二人である。

 だがしかし、世のなかとは上手くいかないもので。

 

 そんなさなか、ドアがバン!と開いた。

 そこには黒づくめの男性がいた。服も黒いが、サングラスにマスクと身に着けているものみんな黒い。

 手には拳銃のようなものが握られている。

 ドバン! と僕らの前には部長の身体が横たわった。きっとこれは守ってくれるのだろう。

 パンパン!

 黒づくめの男が拳銃をウー先輩に向けて撃つ。

 それをユー先輩はクナイではじく。

 はじく間に白鷺先輩とリシェル先輩が黒づくめの男を麻酔銃と麻酔針で倒す。

「かかったな!」

 黒づくめの男が崩れ落ちる中、真反対からもう一人の黒づくめの男が現れる。

 一人目は陽動か。

 そいつの狙いもユー先輩。

 だが、この角度からはユー先輩の防御が間に合わない。

 白鷺先輩とリシェル先輩も一歩及ばない位置だ。

「くっ」

 ユー先輩が呻いた。

 パンパン!

 銃声が鳴る。

 ユー先輩が硬く目をつぶったが、その前に比嘉先輩が躍り出た。

 パス! パス!

 その身に銃撃を喰らう。

「湊太!」

 悲鳴のように叫びながらユー先輩が二人目の黒づくめの男を倒した。


「湊太! 湊太! 大丈夫か!」

 ユー先輩が飛び掛からんばかりに比嘉先輩をゆする。

「大丈夫だ。怪我はない」

 比嘉先輩が手のひらに弾丸二つがあるのを見せてくれる。

 その弾丸は見事につぶれており、皮膚の中も到達してないようだった。

 鬼の耐久力おそるべし。

「よかった! 湊太」

 泣いてしまったユー先輩を、どう扱っていいか分からずオタオタする比嘉先輩だった。

「今のはおそらく、ユーシンの元組織の者でしょうね。組織の足抜けを許さないという襲撃はたまにありますわ」

 たまにあるんだ。なにそれ怖い。

 とはいえ、そのたびに白鷺先輩とリシェル先輩が対応しているのだろうなと想像がつく。

 ただ、その襲撃があるのではまともな友人は作りにくいだろう。

 彼女は普通を求めて、普通に暮らしたいのに。

「泣かんでもよい」

 比嘉先輩がおそるおそる大きな手で、ユー先輩の頭を撫でる。

「ワシは滅多な事では死なん」

「ホント?」

「本当じゃ。だからまずは友達になってくれ」

「友達? 襲撃またある。友達ケガする」

「ああ、また変なのが来てもワシが盾になろう」

「もう、大事な人、無くしたくない」

 組織にいるときは、大事な人を無くしたりしてたんだろう。彼女の心を思うと胸が痛い。

「大丈夫だ。居なくならない」

「約束」

「指切りしよう」

 でっかい小指とちっさい小指で、しっかりと約束を結ぶ。

「我爱你」

「ん? なんか言うたか?」

「なんでもない!」

 お二人はこいあい俱楽部がなくてもうまくまとまったみたいです。


 ちなみに、現れた黒づくめの男たちは前回のごとく、リシェル先輩がドナドナしました。

 行先は知りません。南無南無。


 やっぱりこういう襲撃があると防犯意識も高まるもので。

 数日は亞殿先輩と受け身を取ってみたり、赤延先輩が投げる物を避けてみたり、簡単な防犯の運動をしてみる。

 それにしても部長の肝の据わり方は違うなぁ。

 襲撃の時の話をしてみると、

「銃弾くらいなら弾けるらしいよ。僕の鱗」

 なんて言っている。

 前にもらった鱗のお守りもワンチャン、銃弾を弾けるかも……?

 それと前に瀬名に見てもらった変身の再チャレンジをやってみる。

「それ!」

 ボンと煙が立ち、煙が晴れると、俺の額には立派な角が生えた。

「おれとおそろやん!」

 なんて亞殿先輩に好評だった。

 やっぱり段階を踏んでいかないとうまくいかないらしい。

 全身を何かに変化させるのはまだ難しそうだ。

 引き続き、血液操作もやっていて、今度は血を針のように尖らせて、的に当てる。

 まぁ、的に当てるのは俺の基礎能力によるものなんで、ど真ん中とはなかなかいきませんが。

 そして的に当たった針を溶かして、自分の足元まで引き寄せ、足から吸収するということが出来るまでになった。

「おおー!」

 部員からは賞賛の声が上がる。ちょっと照れながらそれに応える。

「すごいわね! 吸血鬼っぽい!」

 赤延先輩は髪の手と、腕の手とでたくさん拍手してくれた。

「輸血パックからじゃなく、自分の血を扱えるようになったんだね」

 部長も小さな手でパチパチしてくれる。

「そうなんですよ。瀬名のおかげで色々できる幅が広がったんです」

 瀬名と友人関係になったのは、少し前に、みんなに伝えてあった。

「彼のおかげで、多田野くんが吸血鬼らしくなっていくわね」

 赤延先輩はそう言ってくれる。

 けれど部長は、

「でも、まぁ、君は3年後には人間に戻るつもりなんだろう?」

 人間に戻れば使えなくなる技術ではある。

「そうですけど、戻るまで自分の能力として磨いていきたいです」

 何かを守れるなら。何かに役立てるなら。

 でも、まだやっぱり、人間に戻るべきか、人ならざる者になるか迷ってはいる。

 答えは簡単には出ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る