第35話・幸多かれ

「博士、前ニとーまを紹介シタデショウ」

「あ、ああ、友人として紹介してくれたエルフの冬馬君だろう?」

「ソノとーまト交際スルコトニナッタ」

「いつ!?」

「今日」

 あ、お付き合い始めるの今日からなのか。だから交際のいろはを聞きにきたのか。

「今日!? エルフと、アンドロイドが!?」

 驚愕しきりの博士である。さもありなん。

 普通はビックリする内容ではある。

 うちの部は4月から色々の愛をみてきたので大丈夫ですが。

 よくある「この部員たちは特殊な訓練を受けています」というやつだ。

「お付き合いさせてもらい始めました小野寺です」

 ちょっと照れながら小野寺先輩が挨拶を始める。

「いや、ちょっと、待ちたまえ……」

 動揺する博士の声がちょっと遠くなる。


『アディルに彼氏できたって―!!』


 と叫ぶのがアディル先輩の胸から聞こえた。


「いや、取り乱して済まない。わしの名前はマリウス・アストン」

「わ、私は共同開発者のガラティア・ヴァンデグリフト」

 壮年の男性の声と、妙齢の女性の声がアディル先輩の胸から聞こえる。

「こちらは、来乃花学園のこいあい倶楽部の、部長の晧乃宮天、部員の亞殿楓里、赤延津音、多田野一士となります。アディル君と小野寺君のお二人から、付き合うのはどうしたらいいかを相談されました」

 部長が丁寧に言葉を選んだ。

「丁寧なあいさつを感謝する。それにしてもアディル、本当にお付き合いを始めたのか?」

「ハイ、マリウス博士」

「え? 小野寺君も、その意志でいいのよね?」

「ガラティア博士、そうです。小野寺冬馬はアディルに告白しました」

「で、アディルは受けたと」

「ハイ。告白ヲ受ケテ交際ヲすたーとサセマシタ」

 ここまでアディル先輩がいうと、ちょっと待ってとマリウス博士から声がかかり、遠くでマリウス博士とガラディア博士がひそひそ話すのが聞こえる。

 動揺するのも分かる。人間同士でも恋愛は難しいから。

「失礼した。こういうことはわしらにとっても初めての事でな。しかしエルフ族と交際か……アディルを人のように育てようとは思っていたが、ここまで成長するとは……」

 しみじみとマリウス博士が語る。

 

「でも、その、アディル、恋愛というのは難しい。特に局所と局所を合体させる事とか!」


 突然何をぶっこんでいるんだ。というか言い回しがそのままアディル先輩だ。やっぱり親と子は似るのか。

「マリウス! あなた何を言い出してるの!」

 ガラティア博士、ごもっともです。


「ソウ、ダカラ、博士タチニハ一番良イ局所ヲ私ニツクッテホシイ」


「アディルも何を言ってるの!?」

 ガラティア博士、お疲れ様です。

「そういう事なら、腕に寄りをかけて良い局所を作らないと、なぁ! ガラティア博士」

「いえ、まぁ、作るけど! 作りますけど! 話についていけない私がおかしいの?」

 普通はおいつけないと思いますよ。


「で、凹と凸。どっちを作りましょうね?」

 ガラティア博士の切り替えも早い。博士ってみんなこういうものなのだろうか。

「二つとも搭載でいいんじゃないかな?」

 マリウス博士もまたぶっ飛んだことを言い出す。

「無いよりは二つあった方がいいわよね?」

 そう聞かれても困ります。

「アディルも、小野寺くんもあった方が良いわよね」

 ガラティア博士に聞かれる二人だが、アディル先輩は即答する。

「二ツトモ有ッタホウガ、キットとーまガ困ラナイ」

 そう言われて小野寺先輩は、

「そ、そうかな?」

 と真っ赤になって答えていた。初心はここでも発揮なんですね。

 なんて思っていたら小野寺先輩が元気よく答える。


「あ、でも、凹凸どっちもメカっぽい方が好きです!」


 誰だ、この人を初心とか言った奴は。俺ですスミマセン。

 この発言に博士たちは沈黙したが、

「あ、冬馬くんてそういう趣味なんだね」

 とか、

「小野寺君がそういうならそうしましょ」

 とか綺麗に流している。

 特殊性癖がこんなにも溶け込める状況ってそんなにないと思う。きっとこれは稀なことなんだとおもうけど、もっとみんな疑問に思ってもいいんじゃなかろうか。

「良カッタネ。とーま。合体デキルネ」

「お互い初めてだからドキドキするね」

 なんてお二人さんはイチャイチャしている。

 でも逆に溶け込めていいのかもしれない。これは普通の方がいろいろな偏見とか無いのかもしれない。

 ある種、これが理想像なのだろう。

 まぁ、ヘキは歪むが。


「それにしても、わしたちのアディルが恋愛をするとは」

「まるで子が巣立つみたいで、感慨深いわね」

 アディル先輩の胸からうんうんと頷く声が聞こえる。

 二人の博士からしたら、やっぱりアディル先輩は子供なのだろう。

 その子が人と恋をするのだから、感動もひとしおなのだろう。

「正直、マダ愛ヲ理解シタ訳ジャナイケド、とーまノ事ヲ考エルト心ガ暖カクナル」

 そう言えるのだから、アディル先輩の心は十分に人に近いのだと思う。

「僕も正直に言うと人を愛したことは無いけど、君の傍にいるだけで心が柔らかくなる気がする」

 愛を知らぬ二人が、愛を知る。

 すごく大切なことだと思う。

 そしてふたりはどちらも長命だと思うから、この先長い間二人は寄り添って生きていくんだろう。

 どうか幸多からんことを。

 

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