第34話・交際のいろは

34話・交際のいろは

 今日のお悩み相談はなかなか難しそうな二人が来ていた。

 ひとりは、メタリックな体とシルエットは中性的なアンドロイド。

「名ヲADR0522、別名ヲ「アディル」トイウ。3年ノアンドロイドダ」

 後に部長から聞くと、隣国「ザイオン」とうちの国「豊之国とよのくに」との共同研究として、アンドロイドの高校生というものを研究することになったそうな。

 その栄えある1号目がアディル先輩になったそう。

 そしてその隣にいるのは、

「小野寺冬馬といいます。3年のエルフ族です」

 エルフ族は初めてみたけれど、やはり長身でほっそりとしていて耳が長い。髪は黒髪で短髪だから、耳の事が無ければ普通の人間のようにも見える。

 そんな生まれも育ちも違う二人がこいあい俱楽部に来た。

 ということは……、

 

「とーまト付キ合ウニハ、ドウシタライイダロウカ?」


 という剛速球から始まった。

 アンドロイドの急成長だなぁ。

 隣にいる小野寺先輩もうなりながら、


「僕もあまりこの手の話は初めてなので……」


 アンドロイドとのお付き合いは誰でも初めてだと思いますよ。

 よくよく聞くと人とのお付き合い自体が初めてだったそうですが。

「付き合うことに境目とか手本とかないと思うよ」

 部長はおだやかにいった。

 たしかに。あらためてする事ってあまりないように思える。

「そうやなぁ。一緒におって楽しいとか」

 亞殿先輩が指を折って言っていく。

「手を繋ぐとか……?」

 赤延先輩も乗っていく。

「デートをするとか?」

 経験はまだないけど、デートは鉄板だと思う。

「あとは相手を人に取れたくないとか思う事とか」

 部長がおっとりという。親しくなると嫉妬はあると思う。


 

「後ハ、オ互イノ局所ト局所ヲ合体サセルトカ?」


 

「そ、それは大分段階が飛んだねぇ!」

「プラトニックな恋愛ならいらんかなぁ!」

「二人が熱く! それを求めるなら! しかたないけれど!」

「赤延先輩、落ち着いて!」

 なんて部員全員で動揺していると、小野寺先輩がぽつりと、

 

 

「局所と局所の合体って何だい?」


 

 あなたがそれを言うのか!

 それを説明するのも大変そうではある。

 ごまかしつつ、伝えていくとなんとか伝えられた。

 小野寺先輩は真っ赤になっていたが。

 初心ウブにもほどがある。それともエルフはこういうものなのだろうか。

 ともあれ、交際とは何なのかは二人に伝わったようである。

「とーま、ソウイウ事シヨウ」

「うん、順々にね?」

「マズハ、でーとヲシヨウ」

「そうだね。明日にでも晴れたらどこかに行こうか?」

「でーとニ良サソウナ場所ヲさーちスル」

 なんてほのぼのとしたやりとりを見ていた。

 これ自体も交際ではないのかなと思ったけど、なんとなく水を差しそうで黙っていた。

 

「二人は目標とかあるのかい?」

 ぽつりと部長が言うと、二人は顔を見合わせた。

『目標?』

「交際というか恋人同士は同じ目標に切磋琢磨することも、心の交流としていいのかなって思ってね」

 それはたしかに心の交流が深まりそうだ。

「僕の目標は、アディルを自分でメンテできるようにすることかな。だから工学系の大学にも行くつもりだよ」

 おおー、志しが高い。好きな相手を診てあげたいというのは分かる気がする。

「とーま、有リ難ウ。私モ自分ノ外身ヲヨリ人間ヤ、えるふニ近ヅケタイト思ッテイル」

 おお、こちらも志しが高い。皮膚も人工皮膚とか、髪も人工の髪とかの研究も今は発達していると聞く。

 お互いの理解があれば素敵な高め合いができるのだろう。

 と思っていたら、


「待って。アディル。君はそのままで美しいんだ!」

 

 小野寺先輩が特殊な感情を見せてきた。

「そのメタリックなボディも美しい。そして男性とも女性ともつかない、いかついシルエット。そして冷たくて硬い感触。何を取っても君は美しいんだ」

 アディル先輩の手を取り、うっとりとしゃべる小野寺先輩は先程とは別人のようだった。

「本当に君は絵に描きたくなる姿形をしている。僕はそこに恋をしたんだ」

 イメージとして、こちらの小野寺先輩の方がエルフ味を感じる気がした。

 熱烈な愛情表現=西洋的なイメージがあり、エルフ=西洋のイメージが強いからだろう。

 とはいえ、後で調べてみると、この特殊な性癖はおそらく「機械性愛メカフィリア」というもののようだ。

 果てはバイクや工業製品に性的嗜好をもつことらしい。

 ようするに「男の子ってメカ好きだもんね!」をとことんまで拗らせたような感じだという。

 俺はだいぶ、ネクロフィリアの和久津先輩などの時で学んだから理解はあるけど、普通はあまり理解しきれないのではないだろうか。

 もちろん、我が部の部員はみんなそれを理解している。特殊な愛ってあるよねって。


 だが、もちろん理解できない人もいる。

 ピピーピピー。

 アディル先輩から音がする。

 ピッ。

 アディル先輩が胸のボタンを押すと声が聞こえ始める。

「アロー、アディル、元気かい?」

 小野寺先輩は小声で「アディルの親に当たる博士との通信だ」と教えてくれた。

「ハイ、体調ハ良好。不具合有リマセン」

「そうかい、なによりだ。今は何をしているのかな?」

「今ハとーまト交際デキルカヲ相談シテイルトコロデス」

 そうか、向こうの博士とも恋仲なことを公表しているのかー、と思った瞬間。



「は? アンドロイドと交際?」

 


 なんて聞こえてくる。

 教えてなかったんかーい! いや説明困るだろうけど!

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