第33話・ドキドキ恋占い

「やっぱり僕に恋愛なんて……―――――――!」

 と綾小路先輩は部室を飛び足していった。

 噂によると、この後、角で男子生徒とぶつかり、告白し、そして別れたらしい。

 元気ならそれでいいかと部員たちは思うことにした。

「なんだアレ……」

 湾野先輩は呆然と彼が消えた廊下をみていた。

 なんでしょうね。

「良かったら、湾野君も自己紹介あると助かるな」

 部長が言うと、湾野先輩も頷いた。

「私は湾野わんのりん。3年だ。種族はバイコーンだ」

 バイコーンってたしか、ユニコーンの亜種だった気がする。

「そう! だからユニコーンの敵! おれの敵ってわけやな!」

 そしてユニコーンとバイコーンは仲が悪いと聞いたことがある。

 だからこんなに亞殿先輩と湾野先輩は喧嘩しているのか。

「私たちは小さな時からこんなでな。これでも大分落ち着いたほうなんだ」

 まぁ、ギスギスというよりかは、もっと軽い感じではある。

「落ち着いたは落ち着いたけど、ライバルなのは変わらへんけどな!」

 どちらかというと、亞殿先輩から吹っ掛けることの方が多そうだ。

「まだ背を抜かしたこと根に持ってるのか? たかが3㎝だろうが」

「きぃぃ! 気にしてることをー!!」

 やいのやいのしている二人に割って入るのは部長だった。

「まぁまぁ。そういえば湾野君は占いが得意だったね」

 部長の一言で湾野先輩がニコリと笑う。

「カードはあるからできるよ。やるかい?」

「占いとか興味あります―!」

 と髪の手を上げる赤延先輩。

「俺も興味あります!」

 「朔」を探すヒントになればいい。

 わいわいしてるさなか、亞殿先輩だけが取り残されていた。

「みんな占いやるん?」

 ぽつんと呟くその姿はどこかさみしそうだった。


「まずは多田野くんから行こう」

「はい、よろしくおねがいします!」

 机を一つ置き、そこに湾野先輩と対面に俺が座る。

 沢山あるカードを切り、混ぜていく。

「ふむ。大きな歯車、小さな歯車。運命の歯車が様々に関わり合っている。これはこいあい俱楽部のことかもしれない」

 たしかに、この学園に入り、こいあい俱楽部に入り、今は様々な恋愛模様と見ているし、関わっている。

 机に広がったカードを一枚ずつめくっていく。

「大きな運命は近くにある。と出ているね」

 これは「朔」のことだろうか。確かに彼女はこの学校にいる。

 最後のカードをめくると、

「月。月はまだ現れない。まだその時ではない」

 月のカードがなぜかこちらを見ているように感じた。

「まぁ、こんな感じかな。当たるも八卦。当たらぬも八卦だ」

「なんとなく当たってる感じはしました!ありがとうございます!」

 信じるも信じないも自分次第。そして運命に任せるも抗うも自分の意志次第だ。


「次は、赤延くん、やろうか」

「よろしくお願いいたします」

 机の対面に赤延先輩が座る。

 先ほどと同じくカードが切られ、混ぜられる。

「『大きな歯車、小さな歯車』あれ、同じのが出たね。これはこいあい俱楽部の事なんだろうね。様々な人との関わりが見える」

「ふむふむ」

 赤延先輩は食い入るように聞いている。

「そして……うん?」

「どうしたんですか?」

 先輩が聞くと、湾野先輩がうなりを上げる。

「また同じ。『大きな運命は近くにある』いや、これは同じ意味じゃない。きっとさっきとは違う意味なんだろう」

 赤延先輩の求める運命もきっと身近にあるんだろう。

「ラスト……『月はまだ現れない』まだその時ではない」

 月の描かれたカードも見慣れたものだ。

「おかしいな。こういうことは滅多にないんだが」

「でも、参考になりました! ありがとうございます!」

 湾野先輩は納得いかないような顔だが、赤延先輩はすっきりしたようだった。


「じゃあ、次は晧乃宮くん」

「了解」

 言われて部長が湾野先輩の対面に座る。

 カードが念入りに切られ、混ぜられていく。

「……『大きな歯車、小さな歯車』これはこいあい俱楽部の事で……」

「たしかに人と関わり合うことが多いからね。僕らは」

「それにしても同じカードが出すぎだなぁ。ほら『大きな運命は近くにある』まぁこれも違う意味なんだろうとは思うが」

 一枚一枚めくられるが、その絵柄は見た事がある。

 カードがラストになり、

『月はまだ現れない』

 部長と湾野先輩の声が重なった。


「おう、湾野、おれもやる」

「ああ、良いけど……」

 部長がどいた後、ドカリと対面に亞殿先輩が座る。

 そして今度は亞殿先輩がカードを切り、混ぜた。

「うーん、やっぱりか」

 そのめくった絵柄は同じ。

「『大きな歯車、小さな歯車』。これはこいあい俱楽部なんだろうな」

 湾野先輩は言いながら、目を閉じて集中する。

「次は『大きな運命は近くにある』これも各人意味は違うだろう」

 言って、すでにあるラストのカードをめくろうとして、亞殿先輩が先にめくった。

 それは月の描かれたカード。

「『月はまだ現れない』その時ではない。ってか」

 亞殿先輩が代わりに言うと、湾野先輩が肘をついた。

「私の腕が落ちたとは思わないんだけど、どうしてこうなるんだろうねぇ」


「湾野、お前自分を占ってみ」

「それは……まぁいいか」

 カードを念入りに切り、ゆっくりと混ぜる。

 そして出てきたのは、


「白紙だ」


「私は自分を占えないんだ。いつも白紙になる。白紙を避けておいてもね」

 湾野先輩が何度やってみても出てくるのは白紙だった。

「俺はコイツに関して占いだけは信用してるねん。コイツはチャチな占い師ちゃう」

 亞殿先輩も肘をついてしまう。

 こいあい俱楽部のみんながみんな同じ結果になろうとは。

「でも、俺は学びになりましたよ! こういうことかもしれない! とか」

 言って見せると湾野先輩が微笑む。

「解釈は人によって違うからな。そう、当たるも八卦。当たらぬも八卦だ」

 内容的に必ず悪いことが起きるわけでもなさそうだ。

 ならこういう結果もあっても良いと思う。

 不思議な占い体験はこうして幕を閉じるのであった。

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