第31話・疑心暗鬼

 「さく」の行方を追えなかったショックは一日経っても続いた。

 授業中もけだるげにやっていたら、色んな先生から心配されてしまった。

「大丈夫かい? 多田野君。調子が悪いなら今日は休みなさい」

 八木沢先生に声を掛けられる。

「あ、いえ、大丈夫です」

 いけない。気持ちをきりかえなければ。

 頭を振って気持ちを切り替え、放課後のこいあい俱楽部の戸を叩く。

「おはようございます!」

 すると中にはすでに相談者たち(?)がいた。

「あ、遅くなりました。多田野です!」

 あわてて挨拶をする。

 一人は赤髪のショートカットの女子だった。

 もう一人は上半身は茶色のボブカットの人間の女子なのだが、下半身はウニョウニョとしたスライムだった。

「私は2年の醍醐だいごうらら。種族は人間です」

「あたしは2年の瑞野みずのぷるる。種族はスライム族です」

 そして他の部員も挨拶していく。

「それでは、二人のお悩みを聞こうかな」

 部長が言うと醍醐先輩が身を乗り出す。

「私たち付き合ってるんですけど……」

 きっと強気な視線が瑞野先輩を射る。


「別れたくて」

 醍醐先輩がきっぱり言うと、

 

「麗ちゃん、だから誤解なの!」

 瑞野先輩があわてて言い募る。

「誤解ってなによ! 浮気は浮気じゃん!」

「だからそれは誤解なの!」

「また兄弟って言うつもり!?」

 喧嘩真っ最中の中を部長がなだめる。

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」

 落ち着かせるが、醍醐先輩は肩で息をしている。

「事の発端はなにかな?」

 部長が醍醐先輩に聞いた。

「私たち、付き合って一年くらい経つんですけど、最近、ぷるるが他のスライム族と会ってるの見ちゃって……」

「他のスライム族?」

「はい、一人や二人なら同族同士の付き合いかなとも思うんですけど、軽く数えて10人近くの男のスライム族と毎日のように話してて……しかも聞けば全部兄弟っていうし。これって私じゃなく男の同族と付き合いたいってことかなって……」

 10人とは数が多い。

「はい! あたしからも言いたい!」

「はい、瑞野君」

 部長に指された瑞野先輩は椅子から立った。

「信じてもらえないのもわかるんだけど、その男のスライムたち、みんなうちの兄弟なんです。スライム族は多産で、うち15人兄弟なんですよ! 今年も母が双子を生みました!」

 この発言に醍醐先輩は訝しげだが、亞殿先輩は頷いた。

「ああ、知り合いのスライム族も20人兄弟とかいうてたな」

 そして赤延先輩も頷いた。

「うちの弁当屋のお客さんもスライム族で多産っていってた」

 次々に出てくる意見に醍醐先輩が驚きを隠せない。

「え、え、多産って本当なの?」

 亞殿先輩や赤延先輩を見てキョロキョロしている。

 そんな中、瑞野先輩が醍醐先輩に訴える。

「それにあたしが好きなのは女の子で、それは麗ちゃんなの! 男に興味はないの!」

 きっぱりと言い捨てる。

 ここまで言い切れるのは見ていて気持ちがいい。

 なりふり構ってられないというのはあるかもしれないが。

「ホントにぃ?」

 まだ醍醐先輩は懐疑的ではあるが、

「ホントに! 家族全員紹介しようか? っていうか麗ちゃんなら紹介したいし!」

 と言って家族の写真を広げ始めた。そうしたら居るわ居るわ、ちゃんと15人兄弟だった。しかも瑞野先輩だけが女の子だった。

 何気に瑞野先輩が外堀埋めようとしてないか? と思ったのは内緒だ。

「私だって、ぷるるを家族に紹介したいけど……」

 いやに醍醐先輩の語尾が濁る。

「お父さん、不倫してたことあるんだよね……いまはお母さんだけって言ってるけど……」

 なるほど。それで自分の恋愛も疑心暗鬼になっているのだろう。

「あたしは!」

 瑞野先輩は醍醐先輩の手をとる。

「あたしは、麗ちゃんを裏切らないし、愛し続けるって約束する!」

「ぷるる……」

「不安に思うなら何か証拠のもの……記念にペアリングとか付けようか?」

「浮気疑惑解消の記念?」

 醍醐先輩は言いながらクスクス笑った。

「そう。よくない? ペアリング」

「良いかもしれない。ちょっと安心できるかも」

「よし、今度の土曜、デートしながら買いに行こう!」

 二人は喧嘩などどこ吹く風で、デートの計画を立て始めた。

「なんか俺たち出番ありませんでしたね」

 二人の様子を微笑みながら言うと、部長は首を振る。

「こういう事を言える場を提供するのも、僕らの倶楽部だよ」

 改めての場は作りづらいことも考えると、こいあい俱楽部がそれを担っているのは良い事なのだろう。

 カップルだからこそ、別れる時も来るかもしれない。だがそれが誤解のまま終えてしまうのは悲しい事だ。

 それを気兼ねなく話せる場があればいい。

 その場にこいあい俱楽部が成れていれば尚良い。


 ちなみにスライム族の性自認はわりとあやふやらしい。

 女の子になりたいと思ったら女の子で、男の子がいい。と思ったら男の子になるんだそうな。

 体の凹凸もスライムだから変化可能なんだそう。

「麗ちゃん、男の子が好きになったら言ってね! 男の子になるから!」

「いや、別にぷるるは女の子でいいし……」

 瑞野先輩の意気揚々に醍醐先輩はちょっと引いていた。

 もしかしたら、すこしだけ男性恐怖症もあるのかもしれない?

 複雑な親子関係だから、変に傷ついていない事を祈るばかりだ。

 悩んだときはまたこいあい倶楽部に来てくれたらいいなと思った。

 恋愛のことも、そうでないこともお悩み事はこいあい俱楽部まで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る