第22話・求)不良更生

 今日のお悩み相談は一人の女子生徒からだった。

「わたしは2年の飛野とびの陽毬ひまりです。ワーラビット族です」

 一見すると普通のショートカットの女性なのだが、頭には長い耳が生え、手足の末端はウサギだった。

 ピコピコと動く耳が可愛らしい。

「それでお悩みというのは?」

 部長が話を進める。

「その、私には幼馴染がいるんです。同じく2年の吠崎ほざきれんっていうんですが、小さい頃はまともだったのに、高校になってから生活態度が荒れ始めちゃって……」

 すっと、机にスマホが置かれる。身を乗り出してそれを見ると、そこには狼の獣人が目つき悪く写っている。これが吠崎先輩なのだろう。

「本当の性格は優しくて、勇気がある人なんです。どうにか更生できないかと思いまして……」

 珍しく恋愛絡みではないお悩み相談だ。

 これには部員一同うなりを上げてしまう。

「これはちょっと難しいねぇ」

 部長が机の上でうねる。

「いわゆる不良更生ってやつやな」

 亞殿先輩が机に肘をつく。

「数か月とかの長期戦になりそうねぇ」

 赤延先輩が髪をうねらせた。

「もっと吠崎先輩の情報が欲しいですね。家族構成とか」

 俺の言葉に飛野先輩はうーんと唸ってから口を開いた。

「蓮くんの家族構成は、お父さんだけなんですよね。小さい頃にお母さんを亡くして、男手一つで育てられて、なんでも最近は反抗期がひどいみたいで、家族の交流がないそうです」

「それも要因の一つだろうね」

 部長がうんうんと頷いている。

「あとは憧れてる人が悪い人とかやね」

 亞殿先輩がいうと、ハッと飛野先輩が顔を上げた。

「たしか、蓮くんが今、憧れてる人が半グレみたいなこと言ってました!」

 半グレとは、暴力団までにはいかないけど、暴走族よりタチの悪い人だった気がする。

「それが大きな要因かしら……」

 赤延先輩がため息をつく。

「授業態度とかどうなんですかね?」

「同じクラスの人に聞くと、授業には出てるみたいで、でも勉強はしてる様子ないらしくて」

「テストとかで単位落とさないか心配だね」

 部長が言うと、飛野先輩はうんうんと頷き、長い耳が揺れる。

「心配なんですけど、家での勉強はしてるみたいで、テストはなんとか赤点免れてますね」

 結構真面目な部分もあるのだろうか?

 ともあれ、これは、

「やはり、本人の意見も聞かないとねぇ」

 という部長の一言に集約されていた。


 ということで、吠崎先輩が見つかり次第、部員たちにメールが届くように飛野先輩が対処してくれるようになった。

 そして数日後、ブブブブとスマホが震える。

 メールは飛野先輩からだった。

 見つけたからすぐ来てほしいとのことだった。

 だがその時、部長、亞殿先輩、赤延先輩は動けないとのことで、俺と飛野先輩が吠崎先輩を追うことになった。

 ウサギで足の速い飛野先輩に歩調を合わせてもらいながら、吠崎先輩を探すと、裏門の付近に背の高い狼のシルエットを見た。

 見つけた!

 心に気合を入れて向かっていくと、スマホで見た狼の獣人、吠崎先輩と目が合う。その服装は制服を着崩していていかにも不良ですと言ってるようだった。

「なんだ? お前。陽毬も」

 どすの効いた低い声に心も体も震えてしまう。

「あ、あの……」

 どう話を進めようか口ごもっていると、吠崎先輩の後ろからガラの悪そうなブルドックの獣人が顔をだした。

 その服装は他校の制服だ。

「なんだぁ、そいつと後ろのねーちゃんは」

 グイと前に出てくるブルドックの獣人。

「ちょうどいい。にーちゃん金くれねぇかな?」

「佐山さん」

 吠崎先輩が呼び止めようとするが、佐山と呼ばれたブルドックの獣人はこちらにグイグイ寄ってくる。

「お、お金ですか!?」

「持ってないわけねぇよなぁ」

 これは確実に脅されているわけだが、どう対応していいか分からない。

 戸惑っていると、

「佐山さん、遊ぶ金なら俺が出しますから。移動しましょう」

 吠崎先輩が食い止めてくれる。だが、佐山と呼ばれた獣人はそれ自体が気に入らないらしく、舌打ちをする。

「いらねぇよ! わかってねぇなぁ吠崎! こうやって威厳を示すのも大事な役割でぇ!」

 今度はグイグイと吠崎先輩が、何やら言い続ける佐山の背中を押して移動していく。

 吠崎先輩はチラリとこちらを見て、早く移動しろと顎で促してくれる。

 それを見て慌てて俺と飛野先輩は校内に移動する。

 一連の出来事が落ち着いたが、胸はドキドキしていた。

 いや、怖かった。怖かったけれど、

「カッコイイ~~!」

 まともに見た吠崎先輩は、いぶし銀の渋さがあった!

 思わずつぶやく。すると飛野先輩がニコリとわらった。

「でしょう!? 蓮くんカッコイイの!」

 その満足気で嬉しそうな顔をみるに、吠崎先輩が相当好きなんだなと思わされる。

 こいあい倶楽部の部員としての直感だ。


 だが、話は穏やかにはいかなかった。

 数日後、

 ガララー!

 部室が勢いよく開けられた。ドアにいるのは飛野先輩だ。

「あの! 蓮くんがさらわれたって!」

 全力疾走してきたのか飛野先輩は呼吸が整っていない。

 話したくても呼吸をまず整えなければ。

 どうにか部員があつまって落ち着かせると、

「蓮くんが、校門のところで他校の生徒と喧嘩して、連れ去られたって!」

 ぜいぜいと息をしながら必死にそれを口に出した。

「連れ去られた!? 連れ去られたのはドコか分かるかい?」

 部長の言葉に飛野先輩はスマホをもちだす。

「ち、ちかくのビルの工事現場って」

 スマホには地図のアプリでピンが立っている。ここが吠崎先輩の居るところだろう。

「行くしかないね!」

 部員全員が立ち上がった。

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