第15話・身の守り方

「まずはおめでとう」

 二人が浸る余韻が引くころ、部長がきりだした。

「大人しく祝福したいところだけど、君達はこれからが勝負だ」

 その言葉に白鷺先輩とリシェル先輩がすっと並び立つ。

『はい』

 二人が返事するのを待って、部長が頷く。

「リシェル君、君はこれから帝王学を学ぶんだ。経営学も学んだ方がいいだろう。そうして屋敷の主と同じくらいの知識やスキルを持つようにする。つまり、屋敷の後継者として恥じぬ実力を身につけねばならない」

「はい。お嬢様と共にあるためなら」

「白鷺君もそのサポートをできるようにしなければならないのは、知っていると思う」

 リシェル先輩と結ばれなかった場合でも、白鷺先輩は淑女としての学びはしなければならないはずだ。

「はい。ですが、私が次の女主人として帝王学も経営学も学んでしまえばいいのでは?」

「馨お嬢様!! それは荷が重すぎます!」

「そうだね。淑女としてマナーも帝王学、経営学もとなると荷が重いかもしれない。だから二人で頑張ってみるのはどうだろう? お互いの得意な分野を分担して学ぶのが一番ベターではないかな」

「そうですわね」

「そのつもりです」 

 

 ややこしい話がようやくまとまったその時、ガタリと物音がする。

 それと共にか、一歩早くか、二人が動いた。

 白鷺先輩は懐から拳銃のようなものを出し、手慣れた様子で銃を持つ手を支え、一発二発と引き金を引く。

 そしてリシェル先輩は逆に向いて、懐から何かを出して投げた。

 二人が交差するように動く、その一瞬の姿は何か映画のワンシーンのようだった。

「ぐわっ」

「クソッ」

 二人が攻撃した辺りから男たちが出てくる。いや、一体どこに隠れていたのか、全く気付かなかった。

 男たちは声を上げながらもズルズルと身体が崩れていく。

「安心なさい。ここでは麻酔銃しか使いませんわ」

 銃を構えながら白鷺先輩が呟く。

「同じく麻酔針だ」

 リシェル先輩も拳の隙間にごん太の針がずらっとならんでいた。

「さすが、白鷺ファミリーはすばやいね」

 呆然としてる部員たちをよそに部長がひとりごちる。

 ファミリー? ということは?

 後で教えてもらうのだけど、白鷺家はマフィア系のおうちらしく、日頃から命目的や、人質目的で白鷺先輩が狙われることも多いのだそうな。

 リシェル先輩は執事とそのボディーガードも兼ねてるらしい。

「皆様お怪我はありませんわね? お目汚し失礼しました」

 チャキッと懐のホルダーに麻酔銃を仕舞い、こちらに礼をする。

「いえいえ。お疲れ様」

 すらすらと話せる部長以外はガチガチに固まってしまっている。

 白鷺先輩はキリッとした緊張感のある顔から、ふんわりと優しく微笑む。

「皆様、ありがとうございます。皆様のおかげで……リシェルとの新しい道が進めそうです」

 言う途中でちらりとリシェル先輩を見、さらに笑みが柔らかくなる。

「こいあい倶楽部には足を向けて寝れないですね」

 そう言うリシェル先輩と白鷺先輩の距離は最初より近い気がした。

 どうやら二人の悩みは解決できたようだ。

 と、感動に浸りたかったが、リシェル先輩が首根っこを掴んでいる、気絶した二人の男がチラチラして素直に感動できなかった。

 ちなみに二人の男はどうなるのか聞いてみたが、「秘密のおしゃべり」をするとのことで引きずっていってしまった。

 なんとなく合掌してしまう。

 

 二人が部室を出てから部長に聞くと、部長もそういう家柄として、人質として狙われることもあるので、始終落ち着ていたらしい。

 聞けば、部長もそれなりに護身術として、ブレス攻撃が使えるようにしてあるという。

 お金持ち繋がりの亞殿先輩に聞いてみると、親から覚悟はしておけと言われてはいるが、改めてそういう場面にはあったことがないらしい。

 とはいえ、念のために薬はと用意しているとのことだった。

 赤延先輩と俺は平民でよかったねと励ましあったが、平民でも護身術があって不足はないだろう。

 ちょっと学んでおこうかなとつぶやくと、

「ハーフブラッドだから普通の人間よりは丈夫だけどね。けれど、もしもの為に、何かを守るために攻撃の手も覚えておくといいかも」

 と赤延先輩が言ってくれる。

「吸血鬼だと、血液操作とか、血液にちなんだ術が得意だと思う。だけどハーフブラッドだとどうなんだろうね。あまり聞いたことないかな」

 と部長も俺の武力向上に好意的ではある。

「でもまずは、おれも多田野君も基礎的な体の動かし方からやけどね」

 亞殿先輩の言う通り、俺も先輩もそういう事にはまったくの素人だった。


 そして部活が終わり、みんなと別れ、購買部で輸血パックをもらって自室に帰る。

 輸血パックを見ながら、少し思案する。

 そこで棚から小さい皿を1つテーブルに置いた。輸血パックから皿に数滴たらし、うん! と力を込めて頭で「動け」と命令した。

 すると血液が微々たる動きながら、形を丸から歪んで見せた。

「おおー」

 思わず声を上げてしまう。

 ちょっとこれは嬉しいかもしれない。

 そこから色々試してみると、皿の上で血液がカチカチに固まることができた。

 ちょっと触って、叩いてみてもビクともしない。

 だが「解けろ」と念じると皿の上でピシャリと液体に変わって広がった。

 何か『不穏』に対しての攻撃としては頼りないが、何も無いよりはいいだろう。

 今後はこれを鍛錬しようかなとぼんやりと思うのだった。

 

 多田野一士は血液操作スキルの実績を解除し、レベル1になった!

 

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