第14話・執事の覚悟
「どうした?」
リシェル先輩に問われて部員全員で顔を横に振る。
「なんでもない!」
「それよか、執事で主人に懸想は難しいなぁ!」
「しかも種族も違うんでしょ!?」
「……そこまでは言ってないが、当たってる。お嬢様は人間だ。まさか……知ってるのか?」
赤延先輩があわてるあまり余計なことを言ってしまう。
「いえいえいえ、難しそうなお顔してるから、普通よりもっと難しいんだろうなぁと思って!」
苦しい! 苦しいが、
「そうか。そうなんだ。普通より何倍も難しい関係なんだ……」
うまく回避できたようだ。ほっ。
「ということは、種族違い、身分違い、同性同士と」
「スリーアウトですね」
どうしても昨日の話に引っ張られがちになる。
「そうだ。だがお嬢様を諦めたくない! 何かいい案はないだろうか?」
そして昨日の流れと同じになる。
どうしたところでこの流れにはなってしまう。
だが、
「お相手の気持ちはどうなんでしょう?」
思い切っていってみた。
「お嬢様の気持ち……?」
「えぇ、もしかしたら、ですけど、お嬢様も同じようにリシェル先輩を想っている。その可能性もあるわけじゃないですか。その気持ちが知れたらお互いの話も進めやすくなるんじゃないかって」
要は両想いなんだから伝え合えばいいじゃない。という話で。
「それは、同じ気持ちなら嬉しいが、きっとお嬢様は私とは同じじゃない」
「そんなこと……!」
「だって、日も日がなお嬢様の事を考えて、隙あらばお嬢様とのことを妄想して、こうねっとりとねっちょりとくんずほぐれつ。そんな汚らわしいことお嬢様はなさってなんかいない!」
おや? なんか見えてきたぞ?
「そ、それはそうかもしれませんね……」
思わず出た言葉に周りから『負けるな!』と小声のエールが入る。う、うっす。
「お嬢様だって10代の女性ですよ!? 妄想だってしているかもしれない! その可能性は否定できない!」
「そ、そうだろうか……」
「むしろそうあって欲しいのでは?」
「……はっ!!」
「むしろ貴方も思っているのではないですか? お嬢様が自分で妄想していると」
「そ、そんなこと……」
「そしてそうあったらと妄想しているのでは……?」
(そんな訳ないだろう! 失礼だな!)
「お嬢様ペロペロ! ごちそうさまです!」
「リシェル先輩たぶん、心の声漏れてます……」
「はうっ」
怒涛の流れでリシェル先輩の素が暴かれていく。
白鷺先輩もクセがあったが、リシェル先輩も相当に癖が強いようだった。
これも抑圧された環境が生み出すのか、ちょっと研究でもしてみたくなる。
なんにしてもこのままでは埒が明かない。
「やっぱ、告白から行くしかないんちゃう?」
「う……」
亞殿先輩も同じ意見のようでリシェル先輩を説得にかかる。
その後数時間かけて説得して、三日後、告白の場を設ける約束をした。場所はこの部室だ。
そして三日後。
部室には、にらみ合う白鷺先輩とリシェル先輩がいる。雰囲気はさながら決闘でもする勢いだ。
「リシェル、話とは何です。こ、ここはなんなのですか?」
白鷺先輩としてはここを知らない体でいくらしい。
「馨お嬢様、お呼びだてして申し訳ありません。お嬢様に言いたいことがありまして……」
「言いたい事? ま、まさか……」
すぅとリシェル先輩が息を吸うと、白鷺先輩は逆につらそうに眉を寄せた。
「お嬢様、大好きです!」
「リシェル嫌いにならないで!」
二人の心からの叫びが重なる。
『へ?』
そこにいた部員も言った本人たちもハテナマークを浮かべていた。
「お、お嬢様?」
「え、リシェル、今なんて」
状況が分かってくるとだんだん白鷺先輩の顔が赤くなっていく。
「あの、あの、てっきりリシェルに引導を渡されるのかと……」
白鷺先輩の顔が赤を通り越して茹ってしまう。
(私がお嬢様を嫌いになんてなりません!)
「お嬢様、デラ可愛いいいいい。食べちゃいたい!!」
「リシェル先輩、本音と建て前が逆です」
「はうっ」
興奮するリシェル先輩を落ち着かせ、改めて二人で対話させる。
「お嬢様、執事を辞する覚悟で申し上げます。お嬢様が好きです。愛しております」
片膝をつき、白鷺先輩を見上げるリシェル先輩は、物語上のナイトのようだった。
「そ、そんな、リシェルがわたくしのことを……?」
「はい、長年の間、お慕いしておりました」
「まさか、そんな……」
「ご迷惑とは思いますが、この気持ちを知っていただきたく……」
本当に執事を辞する覚悟なのだろう。
リシェル先輩はそこまでいうと俯いてしまうが、白鷺先輩が一歩前に出る。
「リシェル、嬉しいです。わ、わたくしもあなたが好きだから……」
そこでバッと顔を上げるリシェル先輩。白鷺先輩がにこりと笑った。
「……お嬢様、本当ですか?」
呆然自失なりシェル先輩に向けて、白鷺先輩が片手を差し伸べる。
「本当よ。あなたが居ないとわたくし、ダメになってしまうから、いつでも一緒についてきてくださる?」
おそるおそるリシェル先輩が白鷺先輩の手をとった。
「喜んで。ああ、これは夢ではありませんよね?」
とった手の甲にリシェル先輩がキスをする。
そうして二人は微笑み合うのであった。
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