第12話・選択の先に
「まぁ、この4つのカプセルとは別に、こっちの青い錠剤もある」
亞殿先輩は別のところから青い錠剤を持ち出してくる。絵面が完全に裏社会のやり取りになりつつある。
「怪しい錠剤やと思うだろうけど、これはちょい強めの睡眠薬や」
「睡眠薬?」
亞殿先輩のチョイスに赤延先輩が不思議そうに声を上げる。
「そう、御子柴君の言う成人の儀って要するに、18歳の時に性交渉を済ませてしまえばええ。だから御子柴君は寝ててもろて、そこを有栖君がちょちょいとしたらええ。それが一番手っ取り早い」
「あー、なるほど」
部長はそう声を上げるが、やっぱりそれは正当な方法とは言いにくい。
「でもやっぱり、セックスには二人の意志が重要だと思うし……」
赤延先輩の言うことももっともだ。
けれど、どうしても無理なら有りなのかもしれない。
「さぁ、どうする? 選ぶのは二人の好きにしたらええ」
亞殿先輩の言葉に部室内が静まり返る。
有栖先輩も御子柴先輩も考え込んでいるらしかった。
しばらく沈黙がその場を支配する。
ゆっくりと手が伸びた方は4つのカプセル。
だが、それは有栖先輩の手ではなく、御子柴先輩の手だった。
「……いつも真里亜に頑張ってもらってるから、こういう時ぐらいオレが頑張らないと……」
そう言って有栖先輩に微笑む御子柴先輩だった。
「琉生……~~っ!」
有栖先輩を思いがあふれたのか、思い切り御子柴先輩に抱き着いた。
「真里亜! いやちょっと抱き着きすぎ! なんか柔らかい! エッチだ!」
「おもっくそ当ててんのよ!」
そんな叫び声をあげる御子柴先輩と有栖先輩。
「おっと」
そんな中ですかさずカプセルと錠剤を一時回収している亞殿先輩は凄い。
「有栖君! 御子柴君が真っ赤になってる! 気を失ってる!」
部長が気付き、あわてて赤延先輩が有栖先輩を剥がしにかかるが、当人は感激のあまり力の調整ができてないようで、引きはがしには俺と亞殿先輩も必要になった。
肉食女子の上に、
それから御子柴先輩が復活してから、二人でカプセルを受け取った。
そんな二人を部員全員で送り出す。
彼らの未来に光があらんことを。
後日、二人から報告があった。
どうやら4つのカプセルは役に立ったらしい。
報告に来た二人だったが、御子柴先輩はカラッカラに燃え尽きていた。なぜそうなったのか、薬の効果なのか別の要因なのかは、おそろしくて聞くに聞けなかった。
逆に有栖先輩はツヤツヤで、とても満足気な慈悲溢れるシスターの様子だった。それが逆に怖い。
インキュバスを燃え尽きさせるシスターの絵面が強烈だ。
とりあえず有栖先輩と御子柴先輩が幸せそうで良かったと思う。
それが原因で二人のミゾになるのは惜しいから。
どうか末永くお幸せに。
有栖先輩、そこでコンドーム付けたとか大声で言わなくていいんです。大切ですけど。
そしてその日の部室は二人の話で持ち切りだった。
亞殿先輩は薬の効き目なんかを詳しく聞いたらしく、今後の参考にさせてもらうと楽しそうだった。
インキュバスというか淫魔のデータが取れたのはとても貴重らしく、家族内でもそのデータを共有するらしい。
そう、亞殿先輩が言ってたように実家が関西の方にある製薬会社なんだそうな。
本人は小さい会社と言ってたが、スマホで調べたらそこそこ大きい会社だった。
社長令息ってわけだ。すげぇ。
そこで各自の家の話になり、俺は両親とペットの暮らしをしていたことを話した。
俺も、亞殿先輩も、部長も、一人っ子同士だった。
赤延先輩は兄弟がたくさんいて、疲れるとはいってたが、毛嫌いしてる感じはなかった。
部長の家は理事長の家庭だし、さぞ大きいんだろうなぁ。
「いや、別に大きくないよ、ただ、その、執事がいるくらいで」
執事いるのは大きいと思いますよ!
亞殿先輩もうちにもおらんよ。と言って笑っていた。
「あ、バイトの時間迫ってる!」
赤延先輩は家が弁当屋をやっていて、そこでバイトもしているので、部活を先に切り上げた。
すこし楽しそうにめんどくさいといいながら荷物をまとめていた。
そういう様子をみているとバイトもいいなぁと思ってしまう。俺も何かやろうかな。
とは思うものの、みんなでこうしてダベる放課後も捨てがたい。
そして帰宅の時間が迫る。
部室に挨拶をして鞄をもって購買部にいく。
「おう」
「いらっしゃい」
「いつものやつね」
そういって、購買部のケルベロスの獣人のお兄さんに輸血用紙パックをもらう。
まだ通って日数は経ってなかったが、しっかり覚えられている。
まぁ一人きりの1年生なら仕方ないか。
「ありがとうございます」
「おう」
「まいど」
「また明日な」
挨拶すると寮に向かって歩き出す。
いつも見ている風景だが、廊下に煌々と灯りが照らされている。普通の学校にくらべたら夜の学校とは異質な感じがするが、通ってみるとさほど日中の学校とそんなに差はないように思える。
校内に関しては電灯で普通に照らしているが、敷地内の外に関してはふんわりとした灯りが浮いているのを見かける。たしか学園から寮までの道にも同じ明かりがあったのを思い出す。
何か魔術的なモノなのだろうか。
蛍より明るい、優しい物を感じる。
目を奪われていると、その光をいじっている何かがいた。
毛むくじゃらで大きな何か……人あらざる者が光を調節しているようだった。
部長に聞いたら何か分かるかな? 明日聞いてみよう。
そうして穏やかな学園生活の1日が終わるのだった。
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