第10話・恋愛をする事とは

 屍蝋先輩と和久津先輩が和解した数日。

 部室の中はずっと二人の話でもちきりだった。

 二人がこの先、友情で終わるのか、はたまた恋愛カップルとして成立するのか、すこし下世話だけど盛り上がっていた。

 そこにコンコンとドアが鳴った。

「失礼します」

 鈴のような声が部室に響く。

 ドアが開き、現れたのは小柄で、茶色の長髪をたなびかせ、清楚の塊のようなきれいな人だった。

 ブレザーの紋章は赤、3年生のようだ。

 そしてその後、遅れて入ってくる男性。

 こちらは薄緑の髪に黒い角が二本生えた、すらっとしたイケメンだ。ちょっとチャラいのが玉に瑕か。

 こちらもブレザーの紋章は赤、3年生だ。

「失礼しまっす」

 彼がドアを丁寧に閉めた。

「こちらが恋愛の困りごとを解決してくれる場所とお伺いしましたが、よろしいですか?」

 女生徒は礼をしてこちらに聞いてくる。

「えぇ、お困りですか?」

 部長が言うと、女生徒と男子生徒はお互いに目を合わせて頷く。

「私は、3年の有栖ありす真里亜まりあ。人間です。そしてこちらが」

「オレは3年の御子柴みこしば琉生るい。……淫魔、インキュバスっす」

 それに倣って僕らも挨拶しながら、二人に椅子をすすめる。

「僕は晧乃宮天、椅子を出してる茶色の髪の方が亞殿君、お茶を用意してるのが赤延君、椅子を出してるもう片方が多田野君。どうぞよろしく」

『よろしくー』

 挨拶は済んだが、有栖先輩はゆったりとしているものの、御子柴先輩はすこし落ち着かない様子であちこちを見ていた。

「それでお悩みは……」

 部長が促すと、有栖先輩と御子柴先輩は顔を見合わせる。

「私たち、付き合っているんですが……、こちらの部活は口が堅い……と思ってよろしいですか?」

「内容的に、他言厳禁でお願いしたいっす」

 一手目がこうくるということはとんでもなくシリアスなのだろうか。

「ということだから、ね?」

 部長の静かな声に外3人もコクリと静かに頷いた。

「悩みは、その……」


 

「琉生がセックスしてくれなくて!」

 

 

「真里亜! 声大きい!! 大きすぎてる!!」

 御子柴先輩は大慌て過ぎて語尾の「っす」も消えている慌てっぷりだ。

 とはいえ、有栖先輩の発言のぶっちゃけっぷりに俺らも目を白黒させている。

「その、夜の営み? 高校生ならあってもいいと思いますよね?」

 改めて言葉を丁寧にして言う有栖先輩。

「ま、まぁ、人族の場合、18歳なら我が国では成人ですからね」

 慌てる部長もレアな感じがする。

「そりゃー、インキュバスがそうなるって、なんか重要な理由があるんやろ? 御子柴君」

 亞殿先輩に言われて、ピクリと動きを止める御子柴先輩。

「本当は、うちら淫魔も18で成人の儀として、人と、その、ち、契り? を結ばないといけないんすけど……」

 そこまで言って、御子柴先輩はもごもごと言いにくそうにしている。

「いけないんですけど?」

 おそらく部室にいる全員が次の言葉を待った。



「だって! 恥ずかしくて!!」



「琉生! 声大きい! そこだけ大きい!」

 有栖先輩が御子柴先輩の背をさすって、落ち着くように促している。

 なんだかんだで二人の相性は良さそうだとは思う。

「昔から淫魔なら恥ずかしがるなと家でも言われてて……インキュバスならやることやれって言われるんすけど、いざとなると体が動かなくて……」

 手で顔を覆いシクシク泣いてしまう御子柴先輩。

「家で十数歳の弟妹たちにいくじなしって罵られる始末」

 恥ずかしいもそうだけど、その情報を家で共有されるのもつらいな、と淫魔族の生活の恐ろしさを思い知る。

「だから何かいい解決方法はないかと思いまして……どうぞよろしくお願いします」

 有栖先輩は御子柴先輩の背をさすりながら、頭をゆっくりと下げた。

 

 さてどうするべきか。

 そもそもこのメンツの中でその手の話に強そうな人と言うならば……

 全員の目が亞殿先輩に集中する。

「……なんでおれ見るん。わかるけど」

 文句言いたそうではあるが、亞殿先輩は両手を上げて降参のポーズをしていた。

「へいへい、見た目通りその手の知識はありますけど?」

「なにか、私たちにいいアドバイスとか……」

「ないっすかね……?」

 二人に拝まれるように言われる亞殿先輩。

「うーん、奥手の子と付き合った時は、ベタかもやけど、手をつなぐとか小さな接触から入ったけどなぁ……」

 言うと、二人はまたお互いを見合い、ため息をついた。

「それも試したんですけどね……」



「指先が触れ合うってエッチじゃないっすか……」



 御子柴先輩は頬を染めてため息をついた。

「御子柴君、ただの恥ずかしがり屋なのか、高度な性癖をお持ちなのかわからんなぁ!」

 亞殿先輩の渾身のツッコミである。

「ほ、他に言うなら……」

 動揺しながら考え込む亞殿先輩。

「そもそも良くそんな奥手でお二人さん付き合えたなぁ」

 改めて言われてみると確かにそうだ。

「これでも1年生の頃から私が告白してたんですよ」

「まぁ、それも恥ずかしかったし、どうしていいか分からなかったんっすけど、2年間口説かれてやっとその告白に向き合えたというか……」

 それはそれで素敵なことだと思う。

 苦手を克服するには、理解者がそばにいることが必要なんだろう。

 それがこと恋愛であるなら、傍に良きパートナーがいることが重要なんだろう。

 少し恋人がいることが羨ましいなと思った。

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