第4話・おいでませ
次の日、一応色々な部活を見て回って一日が潰れた。
サッカー部も野球部も足が自慢の獣人族が多くて、それぞれの特性が良く生かされていて感心しきりだった。もちろん人間もちらほらいてうまく溶け込んでいるようだった。獣人族と人間では体力差がひどくあるのではと思っていたが、そこはハンデなどを付けて対応していた。
どこの部でも
それに……
ポケットに手を入れると、指先に硬い感触があった。俺が首を噛まれた後に握っていた大きな鱗だ。晧乃宮先輩と話してるときは忘れていたが、この鱗はきっと晧乃宮先輩のものだろう。迷子の時に部室まで誘導してくれたし。それがなぜ俺の手に握られていたのか。もしかしたら俺を噛んだ吸血鬼のあの子に、何か、近づけるのではないかと思った。
晧乃宮先輩とあの吸血鬼の子にどんな関係があるのかは分からないが、何か繋がるものがあるといい。
その次の日、そんなわけで入部届けを手に『こいあい俱楽部』の部室前までやってきた。
「た、たのもう!」
ガララとドアを開けると、今日も三人が俺に注目していた。
「キターーーーーーー!!」
「うわっ!」
パパパン! とクラッカーが鳴らされる。
「多田野君、いらっしゃーい!」
先輩たちは満面の笑顔で出迎えてくれた。
「部長はクールに「彼はうちに来てくれるよ」とか言うけど、やっぱ来てくれるまで心配ですしおすしー!」
テンションの高いユニコーンの亞殿先輩が叫び、
「部長だけ余裕そうでずるいですよー!」
黒髪がうねうねする二口の赤延先輩。
「余裕ぶってただけだよ! でもやっぱり実際に来てくれると嬉しいね」
身体もうねうねしてくれる晧乃宮先輩……いや、晧乃宮部長。
「これからどうぞよろしくお願いします!」
なんだか妙に俺もテンションが上がって、入部届を部長の机に叩きつけた。
「で、この鱗って、部長の鱗ですか?」
鱗をポケットから出してみるとなんだかほのかに温かくなった気がする。
「あぁ、それは僕のだね。今は換鱗期(換毛期のようなものだろうか?)だから、どこかに落ちてたかな?」
「実はかくかくしかじかで――」
俺は吸血鬼に噛まれたこと、ハーフブラッドになったこと、手になぜか部長の鱗を持っていたことを話した。(ここのメンツにも童貞がうっすらバレたが、考えてみるとハーフブラッドですって言う限りバレているのではないか?)
「ふぅむ、興味深いね……」
部長は体の割に小さな手で俺が握っていた鱗を調べる。
「でも僕はその吸血鬼の子を知らないな。というか、その状況で個人は断定できないな。まだ情報が足りないね」
鱗を返されると思いきや、はむっと部長は手に持った鱗を牙で噛んだ。
そして今度こそ鱗を返されると、その鱗のてっぺんに穴が開いていた。
「これで穴が開いたから、紐でも通してお守りにするといいよ。それなりにお守りになるらしいから」
「あ、ありがとうございます」
礼を言うと、先輩たちも寄ってくる。
「ええなー」
「君達もいる?」
「良いんですか!?」
「勝手に抜け落ちる奴だから気にしないで」
ブチブチと部長は生えている(抜けかけている?)鱗を取って、はむっと噛んで穴を開けていく。
「そんな乱暴な……」
少し呆れていうと、部長はすこし赤くなった。
「呆れるよねっ。どうも性格がおおまかでねっ」
短い手をパタパタと振っている。ついでに足もパタパタとちいちゃく揺れていた。
「……」
そんな様子を見ると、『エモい』という気持ちがわかる気がした。というか、龍にエモいと思ったのも今回が初めての事だった。思わず有難くて合掌してしまう。チラリと横をみると先輩二人も合掌していた。
「なんで君達、合掌してるのかなっ」
慌てる姿がまたエモい。
ガララー!
部室のドアが勢いよく明け放たれた。
「す、すみません!」
声を出したのは人間の女生徒のようだった。その隣には猫のような獣人が支えられている。その人はぐったりとしているようだった。
「ここって、困りごとに対応してくれてる部だと聞いて来たんですが……!」
突然の緊急事態にバッと全員が立ち上がる。
猫のような獣人の彼はサッカーのユニフォームを着ている。そういえば、昨日の部活巡りで見たかもしれない。
「ひとまず、獣人の彼を寝かせようか。亞殿君、赤延君、多田野君、机を並べて彼を寝かせよう」
「はい!」
部長の一言で先輩たちもサッと動く。俺も遅れまいと獣人の彼を女生徒から預かった。
「すごく気持ち悪くて……すまない……」
獣人の彼はつらそうに言うと目を閉じてしまう。
赤延先輩がならべた机の上に、亞殿先輩と連携して獣人の彼を寝かせる。そこに部長が来て、獣人の彼を検分しているようだった。
「本当はこういう医療行為は専門じゃないんだけど、保健医はどうしたんだい?」
部長がチラリと女生徒を見ると、泣きそうな女生徒が、
「保健室に先に行ったんですけど、今日は出張らしくて……!」
落ち着かせようと赤延先輩が女生徒についていてくれる。
「ふむ。亞殿君、生薬は持ってきてるね?」
「はいな。もちろん。まずはちょっと吐かせた方がええかも」
亞殿先輩は懐から袋を出して、その袋に指を伸ばす。
そんなこんなで俺の入部は波乱の始まり方をするのだった。
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