第5話 黒崎の弁当

黒崎さんに言われて俺は顔をそむける。


「い、いやーほんとどうしてなんだろねー」


「教えてあげるそれはね、あなたがヘタレだからよ」


「はい。おっしゃる通りです……」


図星過ぎて何も言えませんでした。どうにかしようとはしてみたんだが、なにせ、花森さんは大人しくてあまり目立ちこそしないが男性に人気がある。


そしていつも一緒にいる黒崎さんにいたっては学校中の有名人だ。そんな二人に声をかけるのは俺にとってハードルが高く、結果ヘタレて挨拶のみになってしまったというわけだ。


「私言ったわよね。あまり私が露骨に手伝うといくら桜でも不審がるってだからあなた主導で頑張ってねって言ったわよね?」


「はい…聞いてました。」


「はあ、あなたに任していてはらちがあかないわ。きっかけは私が作りましょう。とりあえず明日、桜にあなたがお昼を一緒に食べないかと誘われたのだけどと言ってみるわ。」


「分かった。」


よかった。俺では間違いなくお昼は誘えないからな。


「場所は、そこのベンチにしましょうか。ここなら人もあまり来ないし目立たないわ。そして明日、あなたには任務を与えるわ。お昼に桜に少しでも話しかけて明日一緒に帰るように誘いなさい。」


「アネキまじですか?」


「大まじよ」


しかたない。きっかけは作ってくれているわけだしな。俺も頑張るしかないか。はぁ…


「あ、そういえば帰る方向はだしょうぶか?真逆とかだとさすがにきついけど。」


「あなたの家、駅を少し越えた先にあるわよね」


「え、何で知ってるの!?」


「前に尾行びこうして確認済みよ」


こっわ!?何ナチュラルにストーカーしてんの!やっぱこの女やべー!


「そう……ですか」


「とりあえず、桜は電車通学だから駅に行くし、私はあなたの家の割と近くだから問題ないわ。」


「ならいいけど」


「じゃあ、話はこれくらいにして昼食にしましょう」


え、ここで食うの?一緒に?てか俺何にも持ってないけど?


「何してるの、早くあなたも食べないと時間が無くなるわよ?」


「いや、俺何にも持ってないです……」


「はあ、まあ仕方ないわね。私も何にも言ってなかったし、少し分けてあげるからとりあえず座りなさい。」


「感謝しやすアネキ!」


意外なことにそこまでこの女は鬼畜ではなかった。助かったな。全く何にも食べないのはさすがに持たないからな。


「ちょっと!近くによらないで気持ち悪い!」


訂正やっぱ鬼畜だわ。しかたなく少し離れて座った。


「そんなにおかずはないけどこの唐揚げと卵焼きとウインナーを一つずつ上げるわ」


「すまん、助かる。」


弁当の蓋の上に置かれたおかずを受け取り「いただきます」と一言言って食べ始める。


「うまい…」


「当たり前でしょ、桜にあげたりもしてるし、毎朝手抜きはなしで作ってるんだから」


素直に驚いた。味もそうだがわざわざ毎朝、自分で作ってるとか俺だったら出来ない。こいつやべー奴だけど、こういうところは素直にすげーと思う。


「感謝しなさい。桜以外で私の手料理食べられるのはあなたぐらいよ」


「ああ、ありがとう。おいしかった」


「なんか素直で気持ち悪いわね」


この女、先程までの俺の気持ちを返せ!素直に感心していた俺の気持ちを!!


「そろそろ戻りましょう。一緒に戻ると変な勘繰かんぐりをされるしあなたは少し後に戻ってきなさい」


「へーい」


の後ろ姿を見送りながら俺はやべーけど恋に真剣に向き合っている黒崎にたいしてちょっと認識にんしきを改めていた。



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