第七話 夜明珠を追いかける蜉蝣(カゲロウ)

「あちらだ!逃がすな!」

漆黒の森の中、粗末なナイロンのマントをまとった少女は、息を切らしながら必死に走っていた。

背後からは、重たい革靴が枯れ枝を踏み砕く音、荒い呼吸、そして鎧の部品がぶつかり合う冷たくも命取りなガチャガチャという音。

少女の素足は落ち葉で覆われた地面を踏みしめ、鋭い石や折れた枝の痛みをはっきりと感じ、思わず涙がこぼれそうになる。小さな体を活かして、低い灌木や絡み合った蔦の陰に潜り込む。トゲのある枝々は無数の小さな手のように、彼女の薄っぺらい服を引き裂き、腕や頬に細かな傷を残していく。

「ヒュン」という矢が彼女の耳元をかすめ、「ズドン」と側の木々に突き刺さった。矢羽根だけが不気味に震えている。

涙をこらえ、肺は焼けつくように熱く、一呼吸ごとにめまいがする。泥水に素足を踏み入れ、汚い水しぶきが背中を濡らす。

少女は太い枝につまずき、どさりと泥の中に転がり込んだ。

痛みに耐えながら必死に立ち上がるが、全身に千斤の重りがぶら下がっているかのようだ。

眩い光が眼前を走り抜け、反応する間もなく、一振りの巨大な光の剣が眼前に落下し、地面深くに突き刺さった。

少女は驚いて後ずさりし、後ろから追い付いた兵士にぶつかる。

前方の闇から、全身を金色の鎧に包んだ巨人が現れる。ゆっくりと巨剣の前に歩み寄り、両手を柄に置く。仮面の下の表情は見えない。

「戯れはおしまいだ」鎧の中から低い声が響く。

「今月に入って四度目だぞ、イリアーヌ王女よ」

鎧の巨人がうなずくと、少女の背後にいた兵士が彼女の腕を掴んだ。

少女は「うあっうあっ」と必死に抵抗し、宙に浮いた小さな足をばたつかせる。巨人に向かって何か叫んでいるが、巨人には理解できない。

巨人は何も言わず、歩み寄る。

そして少女は声を失った。腹部に強烈な一撃が走り、頭がガンと揺れ、激しい痛みで意識が遠のいていく。

「何をぬかしておる」巨人は嘲るように言った。

「忘れるな、お前は今や王女であると同時に、奴隷だ。これが敗者の末路だと肝に銘じろ」

そう言って巨人は去っていく。意識を失う直前、少女は眼前を飛ぶ一匹の蜉蝣(カゲロウ)を見た。

夏のビーチ。

クレア一行は三組に分かれて、夜明珠(イエーミンジュー)の鉱脈を探していた。

クレアとフローラは海岸沿いの洞窟へ、ゾラとサフィールは浜辺を適当に探すと言う。

そしてダイアナは――。

「ダイアナ、本当にこんなことするの?」

エラが岩陰から顔を出して尋ねた。

「いいかい、僕のエラ。この勝負の鍵は、夜明珠の鉱脈がどこにあるかじゃない」

ダイアナは悪戯っぽく笑った。

「大事なのは、我々がクレアより先に夜明珠を手に入れられるかどうかだ」

土地勘があるクレアに正面から勝つのは難しい。ゾラたちはまともに探す気はないだろうから気にしなくていい。つまり、クレアをこっそり追いかけ、鉱脈を見つける寸前に先回りすればいいのだ。

彼女は事前に自分とエラに【認知障害】の魔法をかけ、クレアに気付かれないようにした。クレアの会話を【聴力強化】の魔法で盗み聞きする。

「ねえフローラ、夜明珠って何か知ってる?」湿った岩壁の前で、クレアがフローラに尋ねた。

「うーん…あまり詳しくないけど」フローラが知っている限りの知識を話し始める。

夜明珠は普通の光る鉱石ではなく、天界由来の、魔力を集めた鉱石なのだという。

その魔力は特殊で、一般的な魔法石とは違い、ほぼ無限の魔力を蓄え、時間が経っても減ることがない。だから天界の者たちはそれを「永遠の石」と呼ぶ。

自然に夜明珠が形成されるには、まず魔法石とは異なる結晶体、例えば神獣の死骸などが必要で、結晶化には莫大な魔力が要求される。何千万年も前から凝縮を始め、自然界のあらゆる生物の死骸から魔力を吸収する。

もちろんそれだけでは不十分で、夜明珠が形成される条件は非常に厳しい。条件を満たさなければ、普通の魔法石にしかならない。

極端な気温、高温、極寒、あるいは高濃度の魔力環境が、形成の条件となる。

夜明珠は非常に希少で、人工的に採掘するのは難しい。

五百年前の三界大戦で、多くの天界物質が戦火に巻き込まれ、人界に落下した。人界では鉱石ハンターが現れ、各地に散らばった夜明珠を探し回るようになった。

人界に落ちた夜明珠は、高濃度の魔力汚染を引き起こすものもあれば、地中深くに根を張り、鉱脈を形成するものもある。

数日前、ペレドメール環境局は西海岸で高濃度の魔力汚染を検出し、夜明珠の存在を疑っていた。この汚染が都市に広がれば、住民の生活に深刻な影響を与える。

「つまり、魔力感知で洞窟内の魔力が濃い場所を探せばいいってこと?」クレアが結論を出す。

「そういうことだけど、魔力が高いからって夜明珠とは限らないわ。普通の魔法石の鉱脈かもしれない」

「じゃあ、一つずつ当たってみよう!」クレアは自信満々に宣言した。

「ドーン!」という爆発音が響き、ダイアナとエラは慌てて岩陰に隠れた。衝撃波が頭上を通り過ぎる。

「あの豚娘、何をやってるんだ」ダイアナがぼやく。

遠くで、クレアが紫水晶色の杖を手に、地面に向けて狂ったように爆発魔法を炸裂させている。

「ドーン!」また一声。

傍らではエルフが空中に浮かび、魔法陣を召喚して彼女に魔力を供給している。

「うわっ、あの二人、地面全部掘り起こす気か?」

ダイアナが透視魔法で地下を見ると、洞窟は十層以上もあり、地下には大小様々な通路が複雑に絡み合っている。全部爆破するのが確かに一番の近道だ。

「エラ、ついて来て」

ダイアナたちも爆破された穴に飛び込んだ。

爆発の余波は海岸まで伝わり、砂浜では、全身真っ赤な吸血鬼が日傘をさしてのんびりしながら、顔を髪で隠した魔女と並んで歩いていた。

「ゾラ……夜明珠の……物語……知ってる?」

「そんなのどうだっていいだろ」ゾラはどこからかまた狗尾草(エノコログサ)を摘んでは、口にくわえている。

サフィールはゾラに興味がないようで、うつむいて黙々と歩く。

ゾラはサフィールを一瞥し、イライラしながら舌打ちした。

「話せ」

たった一言を素早く吐くと、ゾラはそっぽを向いた。

「……うん」サフィールは承諾を得て、力強くうなずいた。

「私……古籍で……読んだ……んだけど……」サフィールは一語一語慎重に話す。

「天界には……夜明珠に……引き寄せられる……虫が……いるんだって」

古籍によれば、天界の蜉蝣(カゲロウ)は人界のものとは大きく異なる。

しかし同じように、長い幼虫期を経て羽化し、最後には一日で死んでしまう。

人界の蜉蝣はその一日で交配し、産卵し、偉大な生命の循環を完結させる。

天界の蜉蝣は、環境の中で強大な魔力を見つけ、その環境で死ぬ。

魔力は蜉蝣の体内の生殖システムを活性化させ、新しい卵は古い屍から生み出される。

一匹の蜉蝣が産める卵は一つだけ。どのような死に方をしようと、魔力に触れれば、奇跡的に復活し、次の生命サイクルを全うする。

どうやってここまで生き延びてきたのか誰も知らない。だが、世の中が移り変わり、海が桑畑になっても、魔力が再び蜉蝣の屍に降り注ぐ時、彼らはまた偉大な「転生」を果たすのだ。

これが天界の蜉蝣であり、彼らにはもう一つの習性がある。

生涯をかけて夜明珠を追い求めること。

「とても……ロマンチック……だよね?」サフィールはたどたどしく尋ねた。

「ああ、そうだな」ゾラは続けるよう促す。

夜明珠が現れる場所は特に過酷だ。高温、極寒、高濃度の魔力に覆われた場所。しかし、どんなに過酷な環境でも、蜉蝣は必ずその周囲に現れる。夜明珠があるところには、必ず蜉蝣がいる。

運命の組み合わせのように。

だが、蜉蝣の体内には高い魔力が含まれており、薬用として非常に価値が高い。そのため、非道な商人によって捕らえられ、琥珀にされることも多い。琥珀に閉じ込められた蜉蝣は魔力に触れることができず、短時間では死なない。膠質の物質に閉じ込められ、自身の魔力が尽きるまで過ごす。

しかし、宇宙全体の尺度で言えば、その時間はほんの一瞬に過ぎない。彼らはいつか、たとえどんなに長い旅を経ても、夜明珠のもとへ戻っていくのだ。

そう言い終えると、サフィールはうつむき、もう何も言わなかった。

ゾラはそれを見て、気まずそうに手を上げ、サフィールの頭をこつんと撫でた。

少女が目を覚ますと、周囲の埃が舞っていた。

口を開けると、湿って悪臭のある空気が流れ込んできた。腹の中の最後の食べ物を吐き出さないよう、手で口を押さえる。

彼女は狭い監牢に閉じ込められていた。監牢には何もなく、カビの生えたマットレスが一枚あるだけ。

月明かりが窓の格子から差し込み、その光で、少女は栄養失調で輝きを失った自分の髪を認識した。

彼女はかつて、オースアン王国の王女だった。エルフだけで構成された国家の。

エルフ――神族の中でも特殊な一種族。

他の神族同様、生まれながらにして魔力を使え、魔族や人族より上位の種族である。

他の神族と違う点は、彼らは生まれながらにして膨大な魔力を体内に有していること。他の種族が魔法の行使や魔力摂取で魔力を蓄える中、彼らは独自に各種大型魔法を使用できる。この魔力は代々受け継がれ、これまで例外はなかった。

かつて、彼らは神聖で高貴な種族と呼ばれ、巨大な国家と殖民地を築き、神族の中でも頂点に立っていた。

しかし、「魔道具」の出現がすべてを変えた。

高貴なエルフたちが夢にも思わなかったことに、彼らの遺伝子には致命的な欠陥があった。魔道具を使用できないのだ。

魔道具が人族によって発明された瞬間、神界全体の勢力図は一変した。

一方で、魔道具を使える人族は神界にとって脅威となった。他方で、魔道具を使えないエルフ一族は、絶対的な支配力を失った。

だが、エルフ族には最後の利用価値が残されていた。

神界は人族の魔法使いという脅威に対応するため拡大を続けており、巨大な魔力の供給源を必要としていた。そして、その膨大な魔力を提供できるのは、エルフだけだった。

どこの国が最初に始めたかはわからない。最初は些細な不満からだったが、次第にその批判は中傷へと変わる。

扇動する者たちが現れた。エルフ族は欠陥種族であり、対等な地位に値しないと主張する者、エルフ族の知能は豚や犬以下で家畜として扱うべきだと主張する者。

そうした言説は火のように神界中に広がり、ついに最初の戦争が勃発した。

主に天使で構成されるオビリス帝国が、最初のエルフ王国に討伐を仕掛けた。

続いて戦神一族のアスガルド、そして天翼族も戦争に加わった。

エルフで構成された王国は四面楚歌の中、瞬く間に四分五裂し、併合・侵食され、最後のエルフ王国であるオースアン王国も鉄蹄に踏み潰された。

無数のエルフが奴隷と化した。男性は魔力抽出の源とされ、女性は売り飛ばされ、貴族は他の国に嫁がせられ、他の種族のために魔力豊かな子孫を産む道具とされた。

少女は自分が豪華絢爛な宮殿で思い切り遊び、美しく神聖な神獣たちと戯れていた過去を思い出した。

強い吐き気を覚え、胃酸が喉まで込み上げてくる。

周りの同胞たちは皆、売り飛ばされるか、調教されていた。残されたのは、汚い地下牢に閉じ込められた彼女ただ一人。

亡国の王女である彼女を、史書に醜い一筆を残さないため、この人面獣心の神族たちは、彼女をずっとここに閉じ込めていた。どこぞの国のデブブヨブヨした公爵と結婚すると肯うまで。

彼女は狂人のふりをし、人を見れば噛み付き、贈られてきた綺麗な服をズタズタに引き裂いた。挙句、最後の一人の貴族ですら彼女を敬遠し、彼女は地下に鎖で繋がれ、毎日、面倒そうに人間の食べ残しのようなものを運んでくる者を見つめる日々を送る。

エルフの寿命は長い。そして彼女の残りの人生も、ここに囚われたままで終わるのだろう。

そう考えながら、透明な涙が汚い地面に落ちた。

この陽光の差さない場所で、彼女を助けに来る者など永遠に現れないだろう。

「ドカーン!」

またしても壁が魔法で爆破された。

埃っぽい穴から二人の少女が現れる。

「これで最後の一つね」

クレアはやや得意げに言った。だが思いもよらなかったのは、これだけ多くの層を爆破したのに、夜明珠が最下層に隠されていたことだ。

「さすがクレア様、たやすくこれだけの高級爆発魔法を連発できるなんて」フローラは惜しみない賛辞を口にする。

「その……フローラさん」クレアは額の汗を拭いながら。

「ねえ、私今日すごく頑張ったでしょ」と持って回った言い方で。

「珍しく二人きりなんだから……ちょっとしたご褒美ってわけには?」

クレアはそう言うと、落ち着きなくあちこちを見回した。

身後に潜むダイアナとエラは同時にため息をついた。

「はあ、このバカ娘は何を考えてるんだ」ダイアナは内心思う。

フローラはクレアの要求を聞き、一瞬驚いた後、口元を緩ませた。彼女は色っぽくクレアの側に寄り、肩で軽く突きながら、甘えた声で言う。「クレア様はどんなご褒美がお望みです?」

クレアはその色仕掛けに理性の糸が切れそうになり、即座にフローラを抱きしめ、顔を赤らめて言う。

「フローラさん、ちょっとでいいの……ほんの少しだけ」彼女の視線はフローラの身体をあちこち彷徨う。

「少しだけ、エッチなことで……いい?」

身後では、エラがその様子を覗き見て、顔が火照るのを感じた。彼女はダイアナを見たが、ダイアナは微動だにせず、何かを考えているようだ。

「クレア様」フローラは含みのある口調で言う。

「ここではさすがに適切じゃないですよね?ねえ、夜、部屋に戻ってからにしません?」

そう言って軽くクレアの頬にキスをした。クレアは操り人形のように手足が棒になった。

「……わかった」彼女は即座にうなずき、フローラを離した。

「エラ、何か変だ」

ダイアナがエラの肩をポンと叩く。

「確かに変だよ、あっちは邪魔しない方がいいんじゃない?」エラはまだ顔を赤らめたままで言う。

「いや、そういうことじゃない」

そう言って、彼女はイチャイチャしている二人に向けられていたエラの体を無理やりこっちに向け直す。

「エラ、さっきからずっと考えてたんだけど」ダイアナは真剣な表情で言う。

「地上にいた時は、地下の洞窟にはそこそこ魔力があったのに、なぜ下りてきたら魔力が全部消えちゃったんだろう?」

エラは首をかしげながら、わけがわからないというように答える。

「多分……さっき見間違えたんじゃない?」

違う。ダイアナが見間違えるはずがない。魔力感知に関しては彼女は頂点に立つ。エラはそう考え、内心で緊張する。

二人はほぼ同時に結論に達した。

一方、クレアは最後の壁を爆破しようとしていた。杖を掲げ、呪文を心の中で唱える。魔力が杖先に集まっていく。

「クレア!やめて――!」

背後からの声が届く前に、法术は彼女の手から飛び出し、壁に大穴を開けた。

凄まじい風圧が、クレアとフローラを巻き込む。

真っ先に巻き込まれたのはフローラだった。ほとんど穴に吸い込まれそうになったその時、彼女は素早く振り返り、零点数秒の内に判断を下し、魔法陣で障壁を造り出した。

クレアは障壁に激突した。

フローラが最後に微笑みかけてくるのを見た。

「フローラ――!」それは彼女の人生で最大の叫び声だった。

ダイアナとエラは遠くで、障壁を使って辛うじて身を守る。

ダイアナとエラは空中で互いにうなずき合う。エラはダイアナに飛びつき、素早く首筋に噛み付いた。

無数のコウモリが彼女の背後から飛び出し、空洞に向かって突進し、層をなす石へと化していく。

神秘的な力は次第に収まり、三人は地面に倒れ込んだ。

クレアは躊躇なく再び立ち上がり、地面の杖を拾い、壁をもう一度爆破しようとする。

「クレア!」ダイアナは走り寄り、彼女に飛びかかった。

「離して!」クレアは叫ぶ。

「落ち着け!そうしても仕方ない!」ダイアナは必死にクレアを押さえ込む。クレアは彼女の腕の中で暴れ続ける。

「じゃあどうすればいいのよ!離して!」クレアはほとんど錯乱状態で、地面を爪で掻きむしり、ダイアナの束縛から逃れようとする。

「離して、離して……!」

しばらくそうしているうちに、彼女は次第に力を失っていった。

「離して、お願い、ダイアナ、お願いだから」泣き声に近い声で懇願する。

ダイアナはただ黙って彼女を抱きしめる。

「お願い、ダイアナ、行かせて、彼女を助けに行かせて……」

冷たい水がダイアナのローブを濡らした。エラは傍らに立ち、何も言えなかった。

いったいどれくらい経っただろう?

数百年、あるいは数千年。

エルフの寿命は長い。だが、彼女にはもうわからなかった。

いつから壁に石で刻んだ印を付けなくなったのか?

いつから独り言を言わなくなったのか?

いつから、悲しむことも、幻想を抱くことも、何かを考えることすらしなくなったのか?

エルフはただ部屋の隅に崩れ落ち、死んだように地面を眺めていた。まるで石像のようだった。

ここ数年、誰かに食べ物を口に入れてもらわなければ、生き延びることさえできなかった。

エルフ種は非常に希少なため、たとえ瀕死の状態でも、生かし続けなければならなかった。

最後に逃亡を図ってから、千年以上が経過している。人間の年齢で言えば、少女から二十代の成熟した女性へと成長しているはずだった。

しかし、栄養失調のため、彼女はこの体型のままであった。

彼女は生まれも死せぬ生ける屍と化し、時間は彼女を忘れ、彼女も時間を忘れた。

外界では天地がひっくり返るような変化が起きていたが、彼女にとっては一瞬のことのように感じられた。

その一瞬の内に、陽光が再び、こっそりと彼女の元へと降り注いだ。

それは国際交流イベントでのこと。人族魔法学院の優秀な生徒が神界と交換留学に来ていた。

その交換パーティーで、一人の生徒が衆目を集めた。

彼女は優秀な魔法使いで、人界七賢の候補者であり、ペレドメール帝国国王のお気に入りだった。

在场全員が最も驚いたのは、彼女がペレドメールに来てわずか三ヶ月、当时十三歳ちょっとの少女だったことだ。

幼さと自信に満ちた笑顔を輝かせ、パーティーでは優雅に社交ダンスを踊り、魔法対決ではたった一技で勝利を収めた。

対戦相手は、神界で最も期待されていた魔法使い、天翼族の一人だった。

人族の少女が神界で目覚ましい活躍を見せる中、危険は知らぬ間に忍び寄っていた。

オビリスの地下会議室では、神界で名高い政務官と暗殺者たちが集まっていた。

彼らは黙って座り、ある大物の到着を待っているようだった。

重厚な扉が開き、闇から全身金色の鎧に身を包んだ天翼族が現れた。

彼の背中には輝く金の剣が背負われ、一步ごとに地面を震わせながら近づいてくる。

在场全員が席から立ち上がり、恭しく片膝を着く。

「オーガスト公爵、神界全体を代表して、ご挨拶申し上げます」

巨人は敬礼する人々の間を抜け、遠慮なく上席に座った。

「神界の繁栄を願って」

彼は低声でそう呟くと、他の者もそれに続いた。

「神界の繁栄を願って」

全員が着席すると、彼はゆっくりと口を開いた。

「アルヴィン」

「はい」一人の男がうつむいて答えた。

「聞くところによると、君は先日人界を視察に行ったそうだな。あちらの景色はどうだった?」

一見無関係な質問だが、ずる賢そうな文官はその真意を即座に理解した。

「人界の景色は、非常に壮麗でございます、偉大なる公爵様」

「あの交換会は、君のところで開かれたんだったな?」

「はい、公爵様」

「ふん」巨人は軽蔑的に笑った。在场の者は皆、アルヴィンの身を案じた。

「人界の花を一本摘んで来い」

彼は凄味のある声で言った。

「一番美しい花だ」

「承知いたしました、公爵様」

そして巨人は一言付け加えた。

「根元は取っておけ。花瓣(はなびら)だけいただく」

在场の者全員がその意味を理解し、一斉にうつむいた。

「神界の繁栄を願って」

「トントントン」

足音。軽やかな足音。

「トントントン」

いつもと違う足音。エルフはそう思った。

だが、どうだっていい。食事を運んでくる係がまた代わっただけだ。そう考え、彼女は再るうとうとと眠りに落ちた。

「トントントン」

「ガチャン」

「ああ、またか」半睡半醒の中で彼女は思う。

すぐに誰かが彼女の首を絞め、無理やり食べ物を喉に流し込んでくるに違いない。この時は力を抜かなければならない。さもないと食べ物が喉に詰まってしまい、その後一日を空腹で過ごす羽目になる。

一双の温もった手が彼女の首筋に触れた。来た。彼女はそう考えた。

しかし、痛みは訪れなかった。まず温もりを感じ、そして背中が支えられ、温もりが彼女を包み込んだ。

彼女は必死に重い瞼を持ち上げた。自分が抱きしめられていることに気づいた。

抱きしめているのは、青い短髪の小さな女の子だった。どこのものかわからない魔法のローブを着ている。

その子は彼女を長い間、抱きしめ続けた。あまりに長くて、彼女がもうその感触に慣れそうになった頃、少女はようやく離した。

彼女は重い瞼を支え、少女を見上げた。少女は目尻の涙を拭っていた。

「なぜ泣くの?」彼女は聞きたかった。

しかし、声は喉から出てこない。

少女は優しく彼女を見つめ、そっと傍らに座り、話しかけた。

どれだけ人と話していなかっただろう。彼女はほとんど何も聞き取れなかったが、ただ死体のように少女の肩にもたれかかっていた。

少女は外の世界について話した。外とはどこ?世界とは何?彼女は考えた。

少女は自分の友達について話した。友達とは何?私にも昔友達がいたっけ?彼女は考えた。

少女はたくさんたくさん話した。しかし彼女はすべて忘れてしまった。まるで古い井戸に水滴が落ちるように、何の反響もなかった。

しかし、その一滴は井戸の底の一本の草を潤した。

彼女の心には何とも言えない感情がわき上がったが、言葉にできなかった。だから彼女はただ少女にぴったりよりかかり、何もしようとしなかった。

どれくらい経っただろう。少女は立ち上がり、彼女の前に歩み寄り、しゃがみ込んだ。

これが彼女が聞き取った最後の言葉であり、この夜唯一はっきりと理解した言葉だった。その言葉を、彼女は今でも覚えている。

「待ってて。必ず助けに戻ってくるから、誓うよ」少女は毅然としてそう言い放った。

彼女は応えられず、ただ死んだように床を見つめていた。

「パタパタパタ」

少女は軽やかに走り去った。

「ダイアナ、どうすればいいの……」

壁が封じられてから20分近く経って、ようやくクレアは落ち着いた。今、彼女はダイアナの胸の中で泣いていた。

ダイアナはただ優しく彼女の背中をさすっていた。

壁が破られた瞬間、クレアは何が起きたのか理解した。

地上から来る道中、魔力はどんどん薄まっていた。しかし彼女はふざけているうちに、それを気に留めなかった。

もし最後の洞窟が夜明珠なら、二つの可能性がある。彼女たちはまさに二つ目を見落としていた。

この夜明珠の鉱脈は形成されたばかりで、必死に魔力を吸収していたのだ。

彼女たちが魔法で鉱脈の壁に穴を開けた時、夜明珠に最も近い魔力源は、彼女たち四人だけだった。

だから巨大な夜明珠の鉱脈は渦のように彼女たちを飲み込もうとした。

そして彼女は知っていた。内部の魔力濃度は高すぎて、人族は一度巻き込まれれば、数分以内に魔力汚染で暴死してしまうと。

フローラはエルフ種で、魔力への適応能力は高い。彼女がどれだけ持つかはわからない。

眼前、彼女はただダイアナの胸に泣き伏すしかなかった。

どうすればフローラを救えるのか。考えろ、考えろ、考えろ。

彼女は自分自身に必死に催促した。

クレア、あなたはペレドメール主席魔女よ。魔法に関する知識では誰にも負けない。

彼女は涙を拭い、自分の脳みそを押さえつけた。ダイアナはただ黙って彼女を見つめるしかなかった。今回は、彼女にも良い方法がなかった。

クレア、真剣に考えろ。頭の中のものを全部振り出せ、書類のように振り出して、全部机の上に広げるんだ。

書類のように……

書類?クレアの頭に一瞬、ある光景が閃いた。彼女が書類を机の上に散らばせ、フローラがそれを拾い集めて本棚に整理する光景。

散らばっているもの、集めること。

クレアは突然飛び上がり、躍り上がって行ったり来たりし始めた。彼女は来た道中、自分とフローラが爆破を繰り返していた光景を思い出した。

ダイアナは心配そうに彼女を見つめ、何も言わなかった。

「集めて、散らばせる。集めて、散らばせる」

クレアは狂ったように繰り返し、そして突然振り返り、ダイアナに向かって狂喜して言った。

「わかった!方法がある!」彼女の瞳は激動と狂喜でわずかに大きく見開かれた。

ダイアナは一驚し、そして立ち上がり、真剣な表情で尋ねた。

「言ってみて、何が必要なんだ」

「あなたの魔力が欲しいの、ダイアナ」

「でも私の魔力だけじゃ何もできない」

「いいえ、ダイアナ」クレアの頬にはまだ涙の跡が残っていた。

そして一道の閃電が皆の心中の霧を晴らした。

「この鉱脈ごと爆破しちゃうの!」

「トントントン」

あの娘がまた来た、と彼女は思った。

何日続いただろう。あの娘は毎日彼女を訪ね、優しく話しかけ、語り合い、たとえ彼女が何も返せなくても。

彼女は少女の肩の温もりを深く記憶した。毎回、少女は待ちきれないように彼女の頭を自分の肩や膝の上に乗せ、汚れて輝きを失った彼女の髪をそっと撫でてくれた。

「カチン」

少女は魔法で檻に穴を開け、そこから入り、また修復した。

入ってくると、少女はすぐに彼女を抱きしめた。まるで長い間会っていなかったかのように。

その後はいつも通り、一緒に話をし、彼女は少女の細い太ももの上に横たわり、少女がでたらめな話をするのを聞いた。

しかし今日は違った。

なぜか、今日だけは、彼女の感覚が異常に鋭敏だった。

彼女は何か異様な魔力を感じた。暗がりに。

その魔力は針のように微かで、彼女の体を軽く刺すように、寒気のする殺意を帯びていた。

そうか、と彼女は思った。

もし自分が何もしなければ、あの娘はどうなるだろう。

彼女の頭にはいくつかの結末が浮かんだ。少女の首が一瞬で斬り落とされ、彼女の目の前で転がる。あるいは魔法で貫かれ、鮮血が彼女の全身に飛び散る。

そして?

そして彼女は普段の生活に戻る。時間が腐った彼女の体を通り過ぎるに任せる。

構う必要はない。何も変わらない。

彼女にとって現状維持は日常茶飯事だった。この規則は千年変わっていない。

構う必要はない。私には救えない。

少女は彼女を抱きしめた手を離し、優しく彼女に向かって微笑んだ。

その笑顔は春風のように温かく、冷たい凍土でさえ芽吹き、小さな花の苗を育てるほどの温かさだった。

「……早く」

彼女はほとんど全身の力を振り絞った。その一言を発した時、少女は驚きながら彼女を見つめた。

「……逃げて」

少女の表情は一変し、目尻をキョロリと動かすと、瞬間的に地面から跳び上がった。一振りの刃が少女の足元をかすめ、彼女の傍らに突き刺さった。

「誰だ?」

少女は暗闇に向かって冷たい視線を投げつけた。

そして素早く杖を取り出し、刹那、無数の魔法でできた刃が暗闇に向かって突き刺さった。

暗流が湧き動き、暗闇から数十人の黒装束の刺客が飛び出してきた。

……

あの夜以来、彼女は二度とあの娘に会うことはなかった。彼らが部屋に踏み込み、必死に彼女を殴り蹴りし、髪を掴んで壁に叩きつけた。彼女は死ぬのではないかと思った。

このまま死んでしまっても悪くないな、と彼女は思った。

深い眠りに落ちる前、脳裏に少女の姿が浮かんだ。

青く短い髪、澄んだ瞳。少女は彼女に向かって、優しく笑っていた……

ダイアナは魔法で海岸にいる二人の仲間に連絡し、助力が必要だと伝えた。二人は躊躇なく承諾した。

クレアの計画によれば、両側で同時に魔力を集中させ、鉱脈の中心点で巨大な高級爆破魔法を正確に形成する必要があった。

この魔法により、一瞬で鉱脈内の夜明珠を爆破し、四方に散らばせることができる。

夜明珠が一箇所に集まっていなければ、高濃度の魔力汚染に耐え、フローラを救い出せる。

全員が配置につき、彼女たちに猶予はなかった。

エラはダイアナの首筋に噛みついて血を吸い、サフィールはおとなしく髪をかき分け、ゾラは彼女の首筋に軽く噛みついた。

魔力が集結し、天地が揺れ動き、周囲の環境全体が異変を起こしたかのようだった。

巨大な魔法陣が彼女たちの周囲に現れた。それはダイアナが作ったものよりもさらに大きかった。

しかし今回は、一点に集中し、爆破を鉱脈内に封じ込めなければならない。

フローラがこの魔法陣を見れば、彼女たちの意図を理解し、堅固な障壁を召喚して身を守るに違いない。

クレアはそう信じていた。彼女はフローラを信じ、自分自身を信じていた。

フローラは全身の魔力を消耗しなければこの衝撃に耐えられない。彼女はエルフ種だから、きっと大丈夫だ。クレアは心の中でそう考えた。

こうして爆破が始まった。

魔法陣が地面で回転し、「ゴロゴロ」という恐ろしい音を立てる。

魔法行使の轟音が周囲のすべての音をかき消し、魔法陣から一道の閃光が放たれた。

続いて一陣の大音響!爆発音は周囲の全員が即座に耳をふさぐほどだった。

爆発による余波が数人の魔法使いを吹き飛ばした。

成功したのか?クレアは余波の中で体勢を保ち、眼前に無数の礫が落下し、爆発中心から巨大なキノコ雲が立ち上るのを見た。

一匹の光る蜉蝣が、ゆっくりと彼女の眼前を漂っていった。

そして何千何万匹もが、爆発中心から飛び出し、まるで空から墜ちる星辰のようだった。星辰は空中で舞い、優雅な軌跡を描いた。

それらが飛び出してきた中心で、花の蕊のように、一人の美しいエルフの少女が横たわっていた。

クレアは急いで飛び寄り、彼女を強く抱きしめた。

千言万語が胸に迫ったが、彼女は何も言えず、ただ涙を流すしかなかった。

「……大丈夫よ」少女は弱々しく言った。

「わかってる……」

そう言って気を失った。

10

石壁が爆破されたその一秒、エルフの少女の脳裏には一万の映像が閃いた。

どの映像も、彼女とクレアが共に過ごした何気ない日常の一片だった。

彼女はクレアの姿を見つめ、あの日へとタイムスリップした。

あの日、一人の神秘的人族の少女が、訓練された刺客と魔法使いの一団を引き連れ、誰にも知られることなく神界の警備システムをくぐり抜け、大胆にもオビリス帝国の境内に侵入した。

そしてすべての神族の目の前で、地下牢から一人のエルフを奪い去った。

フローラはあの日をはっきりと覚えていた。あれは彼女の人生で最も重要な転換点だった。

青いポニーテールの人族の少女が、大摇大摆と牢屋の壁を爆破し、全世界に到来を宣言するかのように。

「我が名は、クレア・フェニックス!」

彼女は杖を振りかざし、喝破した。

「約束通り、参上!」

そして彼女は、自分というたった一人のエルフ王女を救い出し、ついでに牢屋を壊滅させ、看守を皆殺しにした。

彼女とクレアは互いに夜明珠であり、互いに蜉蝣であった。

彼女は牢屋で長い一生を過ごし、ただ蝶と化し、クレアと幸せに暮らすためだけに。

クレアは常に彼女に惹かれ、彼女のいる場所には、クレアは必ず死をも厭わず現れた。

だから彼女が穴に巻き込まれた瞬間、彼女は躊躇なく身を挺した。

しかし彼女の心中ではわかっていた。クレアは必ず自分を救いに来ると。過去から未来まで、ずっと変わらずに。

これが、彼女が心から愛する少女だった。

11

「ったく、ずるすぎるよ」

クレアは憤慨して言った。

爆破の結果、夜明珠の鉱脈全体が吹き飛び、偶然にもそれらは海岸に飛び散った。

クレアとダイアナが長時間頑張った結果、最初に夜明珠を手に入れたのは、海岸で魔法を行使していたゾラだった。

ゾラは輝く鉱石を手に、挑発するようにエラを見た。エラは「ふん」了一声、そっぽを向いた。

全員が顔を見合わせ、やがて腹を抱えて笑った。

夜が訪れ、クレアとフローラは四人を見送った。

彼女たちは星空の下で、クレアが長い間取っておいた高級ワインを飲み、グラスを合わせた。

「ねえ、フローラ」クレアはパートナーを優しく見つめた。

そしてそっと箱を一つ押し出した。

フローラは最初はわざと驚いたふりをして、それを受け取った。

予想はしていたが、蓋を開けた時、彼女はまだ涙を流した。

中にはスミレ色の宝石のネックレスが入っていた。彼女の瞳は美しいスミレ色そのものだった。

「フローラ、これからも私のそばにいてね」

「うん」エルフは涙声で答えた。

夜は長く、そして、二人の少女は昼間の約束を果たさなければならない。

12

ごくありふれた朝。

青髪の少女は慣れた様子でベッドから「射出」した。

慣れた様子で服を適当に身にまとう。慣れた様子で物を散らかす。

洗面所に行き、適当に身繕いを済ませると、急いでドアの方へ走り出す。その途中、テーブルの上のティーポットを倒してしまう。

ティーポットは床に落ち、粉々に割れた。

彼女は手に持っていた香水を適当な場所に置き、ドアの傍らにある鞄を手に取る。

ドアを開ける。

ドアの前には金髪のエルフが立っていた。彼女は両手を前に組み、足を八の字に開いて立っている。

「ごきげんよう、クレア様」

「ご……ごきげんよう?」クレアは首をかしげた。

「最近、西洋の小説を読み始めたのですが、そこの執事が主人に行う挨拶の仕方が、私たちの関係に合っているかもしれないと思いまして」

「ははは……」クレアは気まずそうに笑う。

「では、いつものように……」

フローラが言い終わらないうちに、クレアは彼女の行く手を遮った。

「クレア様?」

「10分、10分だけ待ってて」そう言うと、彼女は素早く部屋に戻っていった。

今日のエメラルド厅も、相変わらずの猫も杓子もない騒ぎである。

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