『詩 ビルのぼりの転落』

やましん(テンパー)

『詩 ビルのぼりの転落』


 勤務時間はおわりました。



 さいごに、


 回覧ペーパーを上の階に


 まわすようにと仰せつかった、


 

 七階までの低いビルだから


 すぐにすむだろ、


  

 ところが、階段も、エレベーターも、


 今日はそうじで閉鎖です、


 あらま


 そんなこと、わかってるだろに?



 でも、今日でないとだめだとか?


 緊急だとか、


 みな、どうやって、帰るのだ?


 

 じつは、ちゃんと、ぬけみちがあるのだ!


 ビルのはしっこに、


 手動の昇降機があるのです、



 わかいひとなら、


 そう、苦労はしないだろう、



 やましんは、わかくないよ、


 しかも、こつがひつようなのだ、



 あしもとは、すけすけで、


 ふみはずしたら、おだぶつだ 🙏


 

 綱を引っ張ると、


 上がり下がりします



 大地はひろい


 はとさぶろがやってきて言う、


 『やましん、くろうするな、


 しかし、我々は、苦労を浪費する、


 みよ、にんげんの、おこないを!


 かわも、やまも、まちも、


 苦労のかたまりだ、


 我々は、それをひたすら食べるのだ


 平和のためにね、


 ひとの苦労を!

 

 やましんもおなじだ、』


 

 からすのカージンゴが現れて言う、


 『かかかかか、やましん、


 いいきみだ、


 もっと苦しめ、もっとあえげ、


 やがて、おいらのえさになる、


 ほらほら、ゆすぶってやる、』


 カージンゴは、箱を、ゆさゆさゆすぶった、



 すると、ひばりさんの群がやってきた、


 『やましんさん、ごくろさまです、


 おうえんしまちゅ、


 がんばれ、がんばれ、


 ちゅ、ちゅちゅちゅちゅ!』



 やましんは、羽にあおられて、


 はこの足場からはずれて、


 はんぶん、落ちかけた、


 しかし、なんとか、やっとこ、はいあがる、


 

 すると、上司が、ビルの中から声援をした、


 『おらおら、かごの枠をつかめ、


 しがみつけ! もうちょいさ、』


 

 このひとは、いったい、どこから、


 上にあがったのだろう?


 なんのために、ぼくは苦労している?



 スピカさんが、高い高い空から語りかけた、


 『ひとのおこないは、


 わたしからみたら、みな、


 ひとしく、むいみなものよ、


 ごみくず。廃棄物、


 やくにたたない、無駄。』



 さらに、大空が歌った、


 『おちて、おしまいなさい、


 すると、たちまち、楽になる、


 あなたの苦しみなど、


 あまねく、此の世には、無価値なのだから、』

 


 すると、大地が答えた、


 『あんさん、そら、めいわくだ、


 こんなのに、落ちられたら


 後始末がたまらない、』


 

 だから、やましんは、ひっしに箱にしがみつき、


 綱をひっぱった、


 箱は左右に揺れ動き、


 はげしく、きしんだ、


 でも、綱を引き続けたのだ、



 ついに、七階のドアが開き、


 中から手が延びた、


 やましんは、回覧ペーパーをわたした、



 その直後、箱は落っこちたのです、



 風がささやいた、


 ねむれ、ねむれ、やすらかに、



 あなたの仕事は、もう、終わったのですよ、


 回覧ペーパーをとどけるという、


 一大事業をなしとげた、


 かぜは、それを、知っている、



 それは、永久に歴史に刻まれるだろう、


 

 それは、マラソンを走った兵士と


 なにが違っている?


 

 いや、ちがいはないのです、


 みな、違いはない、あるわけがない、 


 あなたの仕事は、


 つねに、かけがえのないものだから、


 

 さいごに、地球が、あなたに、


       きっと、花束を添えるだろう



 どんな道すじであれ、


    行き着く場所は、みな、変わらない、



    はじることなど、ありません、


    さいごまで、生き抜くことこそ、


      ひたすら、尊いのだから。









   🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹





  ※ これは、けさの夢なのです。










 







 


  

 

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