犯罪女子

夏上すおん

30代女、冬の罪

犯罪女子 - 夏上すおん


***


警告:当文書は、性犯罪またはそれに類する挙動を想起する描写を含みます。


***


 この文章を読んでいる皆さん、こんにちは。私は、とある女性向けブロードキャスト・ルームのパーソナリティをしているミサトと申します。


 今回は、とある研究枠組みからの要請で、犯罪及び犯罪心理を主題としたポートフォリオを構成するため、今まで寄せられた投稿の一部を抜粋し、まとめようと思います。なお、研究に使用する旨は匿名の条件の下、各々投稿者に許可をいただいています。



*** 30代女、冬の罪 ***


 ミサトさんこんにちは。私が女子高生だったころの話です。


 その日は、ハンカチを落とした女性に、それを拾って声をかけ、渡してあげたんです。その女性は、とても感謝してくれた様子で、「一緒にお茶でもどうですか?」と言いました。


 一緒にお茶でもどうですか。


 私は、知らない人に付いていくのは…… と少し警戒しかけましたが、女性だし、大丈夫か、と思い、いいですよと返事しました。


 そうして私は、女性と一緒に喫茶店に入りました。隅の卓に、私が角側になるように座りました。


 女性は30代で、大学職員だそうです。私が手に持っていた学校の本が、統計にまつわる本だったのですが、彼女はそれを見て、確率とか統計の話をしてくれました。楽しかったです。それは私への恩返しだと思いました。素敵な人だな、と思いました。


 ふと、私は、彼女の顔が少し赤くなってるのに気づきました。真冬とはいえ、彼女はコートを羽織ったままだったので、私は「暑いですか? コート脱いだら良いと思いますよ」と、コートを脱ぐことを勧めました。


 そうして、女性はコートを脱ぐ仕草をしました。服の香りがふわっとこちらに到達するのが分かりました。私はお話の続きをしようと、それで…… と口を開いて彼女のほうを見たとき、気づきました。彼女の手はコートの前をはだけさせた状態に留まっており、彼女はコートの中に何も着けていなかったのです。


 え……?


 女性は、コートの中の裸の胸を、角の席の私に向けて、見せていました。私は凍りついたように固まってしまいました。彼女は口を開きました。


 ごめんなさい。私、これをするのが好きなの。その顔を見るのが好きなの。


 私の眼球は、店内の照明の光に照らされた剥き出しの大きな胸を捉えたまま、動きませんでした。首から伝って谷間に垂れている汗。褐色の乳輪と乳頭、乳輪において周りより色が薄くなっている粒状の斑点の一つ一つまで。


 私が凝視するほど、女性が昂っているのが判りました。顔を紅潮させ、じっとりした荒い息の呼気の部分には、うん…… うん…… という、耳にへばりつくようないやらしい声をかすかに混じらせていました。


 そうして女性は我慢できなかったのか、コートの前部を掴んだ手の親指で、自身の乳首を触ったり、何かむずがゆそうに腰を動かしたりしました。私はようやく口が動き、一言だけ言いました。


 最低です。


 女性は眉を寄せながら不気味な笑顔を浮かべ、お腹から腰を震えさせていました。私はカバンを掴んで店を出ました。わけがわからなくて心臓が飛び出しそうになりながら、喫茶店を後にしました。



30代女、冬の罪 完

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