第2話 相棒という名の

「……で? 俺たちゃどこに向かってんだよ」

前を飛ぶウォルスに問いかける。


「ははっ、焦んなって。ただの暇つぶしなんだからさ」

ウォルスはのんびりと笑った。


……まぁ、それもそうか。

どうせなーんにもすることねえし。


俺は風に体を任せる。

翼を動かさなくてすむのは楽でいい。


今日の気流は穏やかだな。


ぼんやりと、先を行くウォルスの背を眺める。

さっきは気づかなかったが……こいつ、なんか背負ってやがるな。


俺は目を凝らすが、羽ばたく翼が邪魔でちゃんと見えねえ。

ウォルスは、キョロキョロとあたりを見渡しているみてえだった。


俺を運ぶ風がだんだんと弱くなる。

代わりに宙へと引っ張られるような力を感じた時、ウォルスが声を上げた。

「よーしっ! この辺でいいだろ」


そう言って下降していく。

俺も倣って雲に降り立った。


なんかここ、暗くねえ?

心なしか、雲も濁って見えるような……。


「こんなとこで何すんだあ?」

俺は頭をかき、翼をたたむ。


ウォルスはしゃがみ込むと、足元の雲を指差した。

「探すんだよ……隕石ってやつをな」


「ああ? いんせき?」

俺は首を傾げる。


ウォルスは大きく頷いた。

「そう。星のカケラなんだってさ」

そう言って雲をかき分けるウォルス。


星の……カケラ? なんじゃそりゃ。

星っつーのは燃えるもんだろ?


「……おい、もうちょっと説明しろ」

俺の問いかけに、ウォルスは首を振る。

「いや、俺も知らねーんだよ。黒くて小さい、石……? らしいんだけど」


ぜんっぜんわかんねえ……けど、まあいいか。

なんもすることがねえよりゃマシだ。


「とにかくそれを探しゃあいいんだな?」

俺はウォルスを真似して雲をかき分ける。


……この雲、いつもみてえなふわっと感がねえな。なんつーか、ざらざらしてやがる。


よく見りゃ白いはずの雲に、なんか黒い細けえのが混じってやがった。

濁って見える原因は、これか?


俺はさらに、辺りの雲をかき分けていく。

黒い石、黒い石……っておい、待て。

そもそも石ってなんだよ。


顔を上げ、ウォルスに問いかける。

「なあ、石っつーのはどんなか分かんのか?」


「ああ。素手じゃ割れねえ塊だ。こんな小せえのもありゃ、こーんなでっけえのもあるんだぜ」


ウォルスは指で丸を作ったかと思えば、腕をめいっぱい伸ばす。

その様子が滑稽で、俺は自然と笑みが溢れた。


「はっ、そんなでかけりゃいくらでも見つからぁ」

そう言った俺に、ウォルスは口の端を吊り上げる。

「見つからない方が暇つぶしに最適……だろ?」


確かにそれもそうか。

俺は鼻を鳴らし、再び雲に向かい合う。


しっかし、なんでこいつは俺の知らねえことをこんなに知ってやがんだ?

あまりの退屈さに着いてきちまったが……俺、こいつのことなんも知らねえじゃねえか。


「おい、ワル。お前、隕石なんてもん探してどうするつもりなんだ?」

ウォルスは俺を見ると、声をあげて笑った。


「はっはは! なんだよワルって! 俺はウォルスだって言ったろ?」

「細けえこたぁいいんだよ。早く答えろ」

俺は眉間に皺を寄せ、先を促す。


ウォルスは少し考える素振りを見せたが、変わらず明るい声で答えた。

「……だーから、暇つぶしだって言ったろ? 暇そうにぼけーっとしてたのは、どこのどいつだよ」


……俺だねぇ。

っつーか、この国の人間はだいたいそうだろ。


「……うるせえよ」

俺はそれ以上聞かなかったが、こいつには何か目的があるみてえだ。


俺はふうっと息を吐く。

そうと分かりゃ、やるしかねえな。


俺は気合いを入れ直して、あたりを見渡す。

……やっぱ暗いよなぁ、ここ。

上を見上げると、宇宙がいつもより近かった。


星が燃えては、流れていく。

星がひとつ、俺の頭上を通り過ぎると、ぱらぱらと黒い粉が降りそそいだ。


この黒い粒々ってもしかして——。


ばさっと翼を広げる。

突然のことに、ウォルスは目を丸くして驚いてるみてえだった。


俺は思い切り、雲に向かって風を送りつける。

すると、あたりの濁った雲——星の燃えカスが舞い上がった。


やがて雲埃が収まると、いつもの真っ白な雲が現れる。

その中に埋まっていたのは、小さめの黒い石——。


「おい! これがそうじゃねえか」

俺がそう叫ぶと、ウォルスの顔がみるみる輝いていく。

「お前……! 天才じゃねえかよ!!」


それから俺たちは、手当たり次第に雲を吹き飛ばしていった。

しかし、一日かけて俺らが見つけた隕石はたった二つ。


「全然、見つからねえもんだなぁ」

ウォルスが天を仰ぐ。


「けど……サンキューな! 相棒!」

ウォルスは俺を見てニカッと笑った。


「相棒だあ? 何言ってんだ、お前」

俺は顔をしかめる。

だが、悪い気はしなかった。


「いいんだよ。また暇つぶししようぜ、相棒!」


俺と相棒の日々は、隕石探しから始まった。

こいつがいれば退屈な世界も楽しめる……そう思っていた。


そう。あの日が来るまでは——

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